第45話 冒険者
「冒険者チーム、”銀翼の
「ライデルです。よろしくお願いします」
遭遇した魔族を討伐する任務を言い渡された翌日、魔族が潜伏していると想定される場所までの先導役と実際の討伐における協力者として、同行する冒険者の人達と顔を合わせた。ガブスさんはどうしたのかと思ったのだが、彼はワイバーンへの警戒の方に配置されるということで、デラベルに戻ってから一度も見ることはなかった。
そして、たった一晩の内に今回の魔族討伐への協力を取り付けた冒険者は、クリスタルランクなのだという。彼らは国防軍の下部組織である冒険者協会に所属しており、その強さや依頼達成率等に応じてランク制の評価をしている。
冒険者として登録すると、最初はブロンズから始まり、アイアン、シルバー、ゴールド、プラチナ、クリスタルとなっていく。ランクが上がると直接指名依頼も入るようになり、その際の依頼料も高額になっていく。そして、荒事や危険な依頼もこなすことが大半の冒険者は、基本的に単独ではなくチームを組んで行動するのが一般的だ。
僕が知っているのはこういった冒険者の基本的な仕組みについてだけだ。それでも、最上位ランクである冒険者チームをこうも簡単に用意できているということに疑問を感じ得なかったが、今はそれを表情に出すわけにはいかなかった。
「君が新たな勇者候補か・・・昨夜、急に話を聞かされた時には驚いたものだよ。その仮面で正確な年齢は分からないが、まだ若そうだ。それに・・・なるほど、確かに強いね!」
「そ、そうですか?」
リュックと名乗った冒険者チームのリーダーと握手をしながら挨拶を交わすと、彼は握られた手の感触からなのか、雰囲気からなのか、僕の事を強者であると確信したようだった。彼は、耳まで伸びる金髪が特徴的な美青年で、腰には二振りの剣が携えられており、どうやら二刀流のようだ。
「へぇ~、リーダーが断言するなんて相当の実力者のようだ!オレはアイク。ちょっと手合わせしてみないか?」
「えっ?手合わせですか?それは・・・」
リーダーとの握手を終えると、彼のチームメンバーの一人である男性から好戦的な視線を向けられた。その男性は30代位の偉丈夫で、短い茶髪に剣を装備していた。これから魔族の討伐へ向かおうというのに、そんな事をしていていいのかと返答に困ってしまう。
「止めなさい!ライデル君が困っているでしょう!ゴメンね。コイツ強い人を見ると腕試ししたくなっちゃう性格なの・・・あ、私はセラって言うの。よろしくね」
「は、はぁ・・・よろしくお願いします」
チームの紅一点、セラさんは長身の美女といった印象だ。腰まで伸びる長い紫色の髪を風に靡かせる姿は、それだけで絵になるような人だ。腰には豪奢な装飾の施されたワンドを所持しており、このチーム唯一の魔法使いだ。
「私はコーラルと言う。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
表情に乏しく、寡黙な印象のコーラルさんは、背中に巨大な盾を装備している。体格も良く、巌のような体つきの彼は、このチームの盾役を担っているという。
彼ら4人チームの構成は、前衛の剣士と盾役に、遊撃の双剣士、そして後衛の魔法使いというバランスのとれたものだった。
一通り挨拶が済んだところで、リーダーのリュックさんが口を開いた。
「さて、これから約2日掛けて目的地に馬車で移動し、人界に侵入した魔族どもを狩るってのが依頼の内容だが、ライデル君に何か作戦はあるかい?」
「さ、作戦ですか?・・・その、特に何も考えていませんでした」
リュックさんの質問に素直に返答すると、彼は顎に手を当ててしばらく考え込み、おもむろに口を開いた。
「ふむ、それならライデル君には実際に相対したという実力者の方の魔族をお願いしていいかな?俺達は残り2人の魔族の方を片付けるとしよう」
その提案に僕は少し考え込むが、先の戦闘の際、あの2人の魔族が居なければ実力者の魔族を確保できていたということもあり、その方が良いだろうと考えた。
「分かりました。それでお願いします」
「あぁ、俺たちに任せておきな!」
白い歯を見せながら、自信満々にそう言い切るリュックさんに、実は不安を感じずにはいられなかった。
(この人達もファルメリアさんのように、僕の暗殺依頼を受けているかも知れないからな・・・気を付けないと)
顔合わせと、実際の依頼遂行についての話が終わり、衛兵隊から貸し出された馬車の荷台に乗り込むと、周囲を警戒するように馬車内を見渡しながらそんな事を考えていた。
馬車の御者はこのチームの全員が出来るらしく、4時間交代で運転していくことになる。今は剣士のアイクさんが操縦しており、周辺の警戒役として盾使いのコーラルさんも御者台に座っている。そして、荷台の両端に設置されている長椅子に、リュックさんとセラさんと僕が向き合うように座っている。
出発早々、2人とも脱力するような姿勢で目を閉じており、完全に警戒や力を解いているのが分かる。移動中に魔物に襲われることも考えられるので、そんなに緊張を解いて大丈夫なのか心配になるが、「休める時に休んでおかないと、いざという時に実力が発揮できなくなるからな!」とリュックさんに言われてしまった。
確かに、四六時中常に気を張っているのは精神的に疲れ切ってしまうし、ずっと起きているというのも体力的に消耗し続けてしまう。だからこそ交代で身体を休め、チーム全体として常に余力を確保して依頼をこなすないうのが本来の在り方なのだろう。こういったチームで動いた経験がない僕にとっては、勉強になることばかりだ。
(ただそれも、信頼できる仲間であればこそだけど・・・)
残念ながら、この冒険者チームの人達が信頼できるかは別問題だ。大神官様が僕の事を排除したいと考えているのであれば、最上位冒険者チームを暗殺者として送り込んできてもおかしくはない。
もし本当にこの人達が暗殺者だとすれば、仕掛けてくるのは僕が寝ているか、戦闘をしているタイミングだろう。そう考えると、これから魔族を討伐して帰ってくるまでの時間、片時も気を抜くことは出来ないことになる。
(はぁ〜・・・何でこんな事になったんだろう・・・)
正直に言えば、この勇者候補の肩書なんてすぐに捨ててしまいたい。故郷の村で狩りをしつつ、のんびりとした時間の中で生活している方がいい。欲を言えば、その隣にはリーアに居て欲しいが、現状の人族と魔族の関係では、それも叶わぬ夢物語になってしまう。
(だからこそ、人族と魔族の和平だけは早く実現して欲しいんだけどな・・・)
その為には僕の協力が不可欠だと王女殿下は言う。政治や交渉事に疎い僕に出来る事といえば、武力ということになってしまうが、僕としては積極的に武力を振るいたいとは思わない。
今回の魔族討伐についても、基本的に捕縛するということに主眼をおいて対応するつもりだ。冒険者チームの人達から何か言われるかもしれないが、それでも情報を得るためということであれば、せっかく捕縛した魔族を何も聞かずに殺すなんてことは有り得ない。もしそんな行動に出ようとするのならば・・・
(彼らは教会側から何らかの指示を受けている可能性がある、か・・・)
王女殿下の言葉を思い出し、目を閉じて身体を休めている彼らに視線を向けた。リュックさんは僕の視線に反応したように身体をピクッと動かしたが、目を開けることはなかった。
(クリスタルランク・・・実力は相当なものなんだろうな・・・)
ため息混じりの不安な旅路は、特に事件や騒動が起こること無く、2日後には予定の目的地近辺へと到着するのだった。
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