第二節 居場所を求める者達 迷える来訪者達の捜索

 純白の竜。レイクリットから聞いた情報に依ると、この付近で、シフの様に、こちらの世界へ偶然にも来てしまったと思われる者達がまだ何人か居るらしい。


 まだ、シフやレイクリットがこっちの世界に来た原因がはっきりと断定出来ない今、その人達からも、どうやってこちらの世界に来たのか、経緯を聞く必要がある。


 無いとは思いたいが悪意の有る悪戯好きな誰かが、シフやレイクリットをこの世界へ送り込んだとした場合、今後私の関与しない場所でも沢山の人がこちらの世界に来てしまう可能性がある。


 それは楽園を創る目的を持つ私の意に反する行為だ。居場所の無い者達の為の楽園なのに、そうじゃ無い帰る場所を持つ者達が来てしまう様な事態は、私の望む状況では無い。


 その場合は、悪意の有る悪戯好きな何者かをどうにかしないと行けなく成ってしまう。だからこそ、考えられる可能性は早く潰して起きたいのだ。


 人の一生は短い。人間から見たら永遠と呼ぶに等しい程の時を生きた声の主から、知識を貰った事でそれを自然と理解してしまっている。そう、ちっぽけな私が楽園を創る為には、無駄に出来る時間なんて多くは無いのだ。


 それ故に、私は事態を把握する事を優先する訳です。


「まぁ、つまり何が言いたいかと言うと、やらないと行けない事が沢山あるってことよ」


「なるほど? えっと、それでそのやらないと行けない事の一つが、近くに居る。俺みたいに、こっちの世界へ迷い込んだ連中と会って話す事として、それ以外の事って何をする必要があるんだ」


「だから、沢山あるのよ。先ずは地図。私達が立っている陸がどれだけ続いているのか調べないと行けないでしょ。それに通分の間、皆が寝泊り出来る家も建てないと。それから、食料の安定供給が出来る様にもしないと行けないし……」


「わ、分かった。分かった。とにかく沢山する事が有るって事なんだろ。俺の頭じゃ全部覚えられないから、もう言わなくて良いよ」


「そう、よね。一度に沢山言っても返って混乱しちゃうものね。だったら、取り敢えず今直ぐやらないと行けない事だけ言うわね。今からしないと行けない事は、たった一つ。この世界に来てしまった人達を探す事よ」


「それじゃあ、あの竜が言っていたあっちの方に向かう訳だな」シフがそう言って顔を向けたのは、レイクリットが教えてくれた西の方角だった。


「此処からじゃ誰も見えないし、たぶん結構な距離を歩く事に成ると思うが大丈夫か」


 シフはそう言って、不安そうな目で私の足へ視線を向けて来る。大丈夫か、と聞いて来ているのは恐らく私の体力の事なんだろう。


「大丈夫。って言いたいところだけど。正直体力に関してはあんまり自身が無いの。だから、適度に休憩しないと行けないかも」


「だったら、俺の背に乗れば良いさ。そうすれば巫女は疲れずに済むだろ」


「でも、それじゃあ。シフが余計に疲れちゃうんじゃ」


「大丈夫大丈夫。俺は体力だけなら有るからな。人を乗せて走るぐらいの事じゃ疲れないさ」


 良いから背中に乗れとでも言うかの様にシフは四つん這いに成って、私が乗り易い様に身体を屈めながら、そう言ってくる。


 友達の背中に跨るのは、少し申し訳無い気持ちに成るけど、私と一緒に並んで歩く依りも、たぶんシフに任せた方が速く移動出来るからと、自分に言い聞かせる。


 そして、えい。っとシフの背中に乗っかった。


「おぉ。人間って思ってた以上に軽いんだな」私が乗るとシフはそんな事を呟いていた。重いと言われるよりかは良いのかもしれないけど、中身がスカスカだと言われている様に思えて、軽いと言われるのもちょっと複雑な気分だ。


「それじゃあ、出発するぞ。しっかり摑まっておけよ」


「あ、ちょっと待って」今まさに走り出そうと体勢を整えるシフを呼び止める。


「どうかしたのか」


「戻ってくる時、迷わない様に此処に目印を建てて置かないと」


 一通り、迷って来てしまった人達から話を聞き終えたら、一度一ヶ所に集まって今後の方針とかを話したいし、それに出会った人達をぞろぞろと引き連れて居たら、移動にも時間が掛かるだろうから、集合場所を用意したかった所だ。


「目印を建てるって言ってもどうするんだ。この辺じゃ目立つ木どころか石も無いんだぞ」


「大丈夫だよシフ。無ければ新しく創れば良いんだから」


「新しく?」


 シフの言う通り、この付近で大きな岩等の目印に成りそうな物も見当たらない。だったら新しく用意すればいいだけの話だ。現在の居場所がどこか迷った際にも返って来れるようにする為にもね。


 深呼吸して息を整える。体内に存在する魔力を肌で感じとり、その流れを操作する。やり方は知っている。だって、声の主に知識を渡された時に、一番に食べさせられた知識のケーキ。つまり最初に理解した知識。


 それが、創造の能力。声の主が私に食べ物を創ってくれたり、この大地や上に有る陽光を創り出した力についてだった。


 これは、自身が知っている物を創り出す凄い能力。なんたって、私が知っている物は実在する物であれ、実在しない物であれ、創り出す事が出来るのだから。


 唯一つの欠点があるとしたら、詳しく知らない物や伝え聞いた程度の物は創れないと言う事。私の想像力では、頭の中に存在する知識に有る物しか創れないのだ。


 だからこそ、記憶を失った私が能力を継承しても、それだけじゃ何も創り出せなかった。それ故に声の主は私に能力を使わせる為、この大量の知識を私の脳に直接送り込んで来たのだ。


 つまり、声の主が創れる物。彼が知っていた物を私は創る事が出来る。でも、それには問題が有る。それは人間では、声の主の様に太陽や大地を創る程の魔力を体内に持てないと言う事。


 人間の身体は声の主と違って、失った魔力を補給出来ると言う利点は有れど、使える魔力には限りが有る。


 魔力と言うのは生命維持にも必要なモノだ。一度に多くの物は創れないし、魔力の消費が多いような大きな物も創れない。


 でも、逆に言うのなら、魔力の消費が少ない小さな物で有れば私でも創れると言う事。


 今回創る物は、あくまで遠くから見て目印として機能する物で有れば良いのだ。だから目立つ色さえしているのなら大きさはそれ程問わない。


 手元に創りたい物を強く想像して、操作した私の体内に存在する魔力の一部を一ヶ所に集める。


 すると、強い光が私の手元に現れた。突然の発光に、シフが「な、なんだ」と驚く声が聞こえて来る。だが、集中を乱せば、今している行為が無為に返ってしまう為、大丈夫だよと安心させる事も言えず、ただ聞き流す。


 そして光が止み、カランと何かが地面に落ちる音が聞こえて来た。音のする方向を見ると、私が創り出した物がそこに転がっている。


 一本の槍その先に括りつけられた、大きな竜の紋章が描かれている旗。声の主は一体どこでこんな物を知ったのかがちょっと気には成るけど、記憶と知識は別らしく、私には知る術は無い。


 ともかく、槍なのだから地面に刺せば良いし旗も有るから、目印として十分に機能するだろう。


「す、すげぇ。これ巫女が創ったのか」シフは私が創った槍を見て、興奮した様に尋ねて来た。


「うん。そうだよ」私がそれを肯定すると、凄い凄いと何度も褒めて来る。そんなに褒められると恥ずかしいなぁ。なんて思いながら、落ちてしまった槍を拾い上げる。


 本当は手元に創って、それを掴む予定だったんだけど。場所がズレてしまったようだ。


 まぁ、今回が初めてなんだし少し失敗しちゃっただけだよねと深くは考えず。拾い上げた槍を地面に突き刺そうとする。


「あ、あれ」でも、思ったよりも地面は固いらしく。槍が上手く刺さってくれない。


「地面に刺すんだろ。それだったらもっと力を入れないと。貸してみろ」シフがそう言うので、槍を手渡す。


 シフは片手でソレを受け取ると、意図も容易く地面に突き刺した。


「こうやるんだよ」なんてシフは、簡単に言うが、とても私には真似出来なさそうだ。


「さて、目印も置いた事だし。そろそろ出発するか? それとも少し休んで行くか?」


 気遣う様にシフが尋ねてくる。この様子だとバレてしまっているらしい。シフには体調の事で隠し事は出来なさそうだ。


「大丈夫だよ。シフ。それに時間も掛けてられないし。出発しよう」


「……そうか。まぁ巫女がそう言うなら。でも、疲れたなら何時でも言えよ」


「ありがとう。シフ」私はそう口にした後、能力を使用した事に依る疲労から倒れる様にシフの背にもたれ掛かりながら摑まる。どうやら創造の能力と言うのは魔力だけで無く体力も消耗するものらしい。


 能力を使ったのが初めてと言う事も有るのだろうが、身体を起して居る事すら我慢しないと出来ない程の疲労が一気に襲い掛かる。


 シフの背中に乗る事を受け入れて置いて正解だったと思いながら、駆けるシフの背中で風に当たり、少しの間目を閉じて疲れを取る事にした。

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