えっちのお誘い?

 PM4:45


 そろそろ時間だ。と、私たち二人練習室から出る。

 中練習室は音楽棟には無く、音楽ホール棟に位置している。

 楽器を取り出すことも加味すれば、今の時間に向かえば丁度良いだろう。


 ちなみに。今、めっちゃ身体ヒリヒリしている。

 それもそう。琴音にマーキング──もといキスマをめっちゃ付けられたからである。

 何回もされてくると、それはもう向こうの動きも洗練されてくるもので。もちろん、私の動きも洗練されてきた。

 どのようにすれば、程度の良いマークを形成できるのか。どのようにすれば、相手を痛がらせないようにできるのか。

 最早エロの次元を飛び越し、無我の境地的にキスマを付けていた。

 興奮は勿論あったんだけど。途中からどちらがより高速に、より綺麗な跡を作れるかの勝負が始まっていた。

 勝敗の大体の数字を言うなら、30勝30敗30分くらいだろう。楽しかった。

 その代償がこのヒリヒリだった。めっちゃめちゃ痛い。

 まぁでも。マークが全て服の中だった、というのが救いだろうか。

 あと口の中に、めっちゃ琴音の匂いが残っている。

 いや、というよりかは私の唾液の匂いの方が強いだろう。

 これに関しては、正直言ってあまり良いものでは無かった。


「……シャワーが痛そう」


 琴音が呟く。

 「そうだねー」と返した。


「ま、まぁ。これで本格的に日菜子に近付く人はいないね」

「確かに。身体がめっちゃ赤い人に近付きたい人なんているわけ無いよね」


「え? 服の外からじゃマーク分からないよね? え? 私以外の前で服を脱ぐ機会でもあるの?」

「ない! 断じてない! 言葉の綾ってやつ!」


「良かった。というか私の前で服脱いだことないよね、日菜子」

「温泉で脱いだよ?」


「アレは不可抗力なのでそれ以外で。……無いよね」

「え、脱いで欲しいの? 琴音って、やっぱり私より変態じゃない?」


「あいあむ二十歳。表に出してないだけで、二十歳ともなればみんなこういう気持ちは胸に秘めてる」

「じゃあ二十歳ちゃんは私に脱いで欲しいと思ってるんだ?」


「脱いで」

「え、ここで?」


「日菜子のおうちで」

「いつくる?」


「明日は土曜講義あるから。明後日の日曜」

「分かったー。じゃあその日ね」


 お家デートの日程がいつの間にか決まった。素晴らしい。

 というかこれって、実質えっちのお誘いだったのでは?

 あれ。急にソワソワしてきた。


「……これはえっちのお誘い?」


 このままだと、日曜までの時間が365日かそれ以上に感じそうだったので。

 とりあえずは日曜に起こる事実を確認するべく聞いてみる。

 一応、廊下をすれ違う生徒の目は気にしているつもりだ。


「したい?」


 しかし琴音は意地悪だった。

 私を変態に仕立て上げる戦法を駆使してくる。

 だが。私は見抜いている。琴音が私と日曜にえっちしたいということを。


「したいけど。まだ早いよね」


 私はここで変態にはならない。

 琴音から『日曜にえっちをしたい』という言葉を引き出し、琴音をど変態に仕立て上げようと、私はそう返す。


「確かに。そうだね。まだ付き合って一ヶ月くらいだし」


 だが。琴音は案外普通の様子だった。

 待て待て待て。嘘でしょ。琴音は私とのえっちを急いでない?

 いや。急ぐ必要性は無いのかもしれないけど、さ。

 それにこのままだと、次のお家デートがいつになるか分からないじゃないか。

 私は焦り。その焦りは止まらずに、声として琴音を目掛けて飛び出した。


「待って! 嘘! したい! めっちゃしたい! 日曜にしたい!」

「ん。分かった。日曜に、ね」


 琴音は嬉しそうに笑った。

 どうやらここまで計算尽くだったらしい。

 なんて意地悪な彼女だろう。最高。

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