神坂遠子は変物少女
どうやって人を集めればいいのか。うーん。悩ましい、悩ましいぞ、マジで。
今のところ確定しているメンバーは、チューバ一人とトランペッター二人。
バランスを取らなくっちゃなぁ!という感じなので、ここから必要なのはホルンとかトロンボーンだろうか。
しかし、そこら辺を担当している人は髪をキラキラに染めたりと、如何にもな陽キャが多い。
そんな方々に中途半端な茶色の髪を残した私が話しかけに行く? いやいや無理。
だがしかし。これこそ背に腹はかえられぬ状態ではあるのだ。
だから私は立ち上がった。前に出る足の行先は、音楽棟の練習室が位置する場所。
練習室の小窓から誰が練習をしているかは分かるので、ホルンかトロンボーンの一年生を見かけたら話しかけてみよう。
さぁ! 行くぞ!
と意気込んだはいいものの、やっぱり無理でした。
いざその人がいる練習室の前に来てみると緊張してしまうんだもん。
陽キャの楽器の音って、なんだかめっちゃファンキーな音するもん。良い音なんだけど。
どうしても気圧されて、尻込みして縮みこんでしまう。
私。雑魚すぎた。
三階まで足を運んだが、結局は、私の意気地が無いせいで収穫も何も無かった。
しょうがないから練習でもして時間を潰そうか、とも思ったが今日は雨の日。そのせいか、練習室は全て埋まっていた。
要するに。今、私にできることは何も無かった。
廊下の窓の外を見て、私は憂鬱に溜息を吐く。
何故か先よりも雨足が強くなっているような気がした。
何も考えずに、壁にもたれかかり。ただ、ぼんやりと空を眺める。
目に映るのは黒い雲と雨。だが、頭には何も入ってこない。
意識は何にも向かず、練習室内から届く楽器の音色ですらも耳に届かなかった。
しかし。それから何分か経った時。どこからか、トランペットの音が耳に届いた。
──パーーン!
その音は、直接頭に届くような音では無かった。
何か夢の様なモヤの中を経由して届くようで、それでもその音は直線的であり、私はその音に刺され、夢見心地だった気分から一気に現実に引き戻される。
練習室では無いどこかで、トランペットが鳴いている。
これは、どこからの音?
耳を澄まし、音を捉える。
音の方向は──。
──上?
空を飛んでいる音だ。
だけど。この先なんて、屋上しか無い。
でも。その場所しか無いのだろう。
だが今日は雨だ。屋上で楽器を吹いてる人なんているわけがない。
だからか、私の中の好奇心は膨れ上がり、音に釣られるがまま、私はその場所へと足を向ける。
音量は次第に大きくなっている。この先に、発音場所があるのは確かだった。
屋上へと続くドアの銀色のノブを回し、恐る恐るという調子で扉を開く。
瞬間。モヤの中にあったような音が、それを介さずに私に突き刺さった。
発音場所に移動した私の視線が、目の前の不可解な状況を捉え、私は思わず息を詰まらせた。
屋上のパラソルのもとで、タオルを被せたトランペットを空に掲げる女性が一人。
黒い雲と無数の雨の粒を背景にした彼女は、ただ淡々と音楽を空に奏でていた。
私は彼女を知っている。彼女を知らない人、というのは今となってはいないのだろう。
主席入学者。作曲コースの一年生。
彼女は少しだけ。おかしな人として有名だった。
語呂良く言うなら変物少女と言うべきか。
雨の中でラッパを吹いているくらいだ。
この説明は、最早いらない程度に蛇足なのかもしれない。
しかし。
思った以上に、おかしい。
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