ポロネーズ
『音』で『楽』しませる
夢を見た。
私が出場したコンクールの夢だ。
ただ、違和感があったのは、私は客席で観客として舞台上を見ていた。
音海日菜子が舞台上を歩いて、ピアノ椅子に座り、曲を奏で始めた。
曲はもちろん『英雄ポロネーズ』。
弾き始め、それであっという間に弾き終えていた。
自画自賛をさせて頂くと、その演奏は素晴らしいものだった。
なんなら感動をしてしまった。もう泣きそうなくらいに感動をした。
と。そんなの自分の夢なのでさじ加減でどうにでもなるのだけど。
重要なのはそこでは無くて、私がちょっとした発見をしたことだった。
音楽は『音』を『楽』しむものだと思っていた。いや、それで正しい。
ただ『音』で『楽』しませるものでもあるのだと、なんとなくハッとした。
これである。薄っぺらいかもしれないが、それは私にとって重要なことだった。
拍手に包まれながらお辞儀をする舞台上の私に向かって、グッジョブと親指を立てた。
──という夢だった。
目をゴシゴシしながら、外を見る。
既にかなり明るく、今は何時だろうかとスマホを確認した。
寝ぼけ目のまま表示された『11:03』という数字を見て、私はその場で飛び跳ねた。
未だ隣でスヤスヤと寝ている琴音を思い切り揺すり、叫びに似た声を上げた。
「琴音! 琴音! もうめっちゃ朝! いや、昼前! チェックアウトの時間が近い!」
琴音はうっすらと目を開き、若干鬱陶しそうに「どうしたんですか?」と一言。
「えっと、だから。もうすぐチェックアウトの時間!」
「……え? 嘘……」
「いや、ほんと! ほら!」
と、私はスマホを突き出す。
琴音の薄い目は徐々に開き、最後にはガン開きになった。
私とスマホを交互に見て、現実を受け入れきれないような表情をした琴音は。
やがて私の顔を見て「時計、時間ずらしてませんか?」と、汗を垂らしながら聞いてきた。
「いや。これ、マジらしい」
言った瞬間、琴音は毛布を脱ぎ捨てて。
「……日菜子! 宿から出る準備をしてください!」
「りょ、了解した!」
私はドタバタと部屋を片し、掃除は職員がやってくれるだろうという考えで、私たちは部屋を後にした。
昨日の余韻を部屋で感じる暇なんて全くなく、代わりに帰りの電車で少し思い出話をした。
出てくる話題が大体キスとかハグとかだったので、それらの印象はやはり強く残ったのだと思う。
後は地獄を回った際に撮った写真を二人眺めながら、その当時の様子を思い返していた。
電車は大分駅に辿り着き、二人ちょうど出ていたバスで学校に帰った。
時刻はちょうど十三時。
約束の時間まではあと二時間。
もう。すぐそこだった。
そんな風に。
琴音との旅行、なんやかんやで終了!
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