第3話

今日は記念すべき日だ。時刻は9時30分あの約束を交わしてから数日。とうとう浅野さんと篠月さんと一緒に出かける日なのだ。もう1人ぐらいいた気がするが多分気のせいだろう。


『このままだと予定よりだいぶ早く着くな』なんて考えながら、待ち合わせの場所に足を進める。歩に巻き添えにされた時は面倒だとも思ったが、時間が経てばそれなりに楽しみになっている。感謝しておこう。


さて、そろそろ待ち合わせ場所に着くがさすがに早く来すぎた。誰もいないだろう。どこかで時間でも...


「よぉ葵」


「きっしょ」


なんかいた。え?嘘だろ?まだ待ち合わせまで1時間半ある。いやこんだけ早く来た俺も俺だが...


「会うなり失礼なやつだな... 開口一番それかよ」


「いやそれは悪かったけどさ...お前何してんの?」


「みんなのこと待ってんだけど...?」


いやそんなことは分かっとるわ。その『何当たり前のこと聞いてんだ?』みたいな顔やめろ。


「じゃなくて!今、待ち合わせの1時間半前だろ」


「あ〜それな。なんか楽しみすぎてさ、気づいたらここにいたんだよ」


そんな馬鹿な話ある訳...いやあるなこいつ。こいつ約束してからのテンションやけに高かったし...


「因みにいつから待ってるんだ?」


「1時間半前だけど」


「まじかよお前」


こいつ...8時にはここにいたってのか。今日のことどんだけ楽しみだったんだよ...


「ていうかお前ずっとここで待ってたのか?」


「そりゃそうだろ?待ち合わせ場所はここなんだから」


「喫茶店ぐらい入れよ。外で待ってんの普通に意味わかんねぇから」


「その発想は無かった...」


いやあれよ。誰が外で何時間も人を待つんだ。


「まぁいいやどっか時間つぶしに行こうぜ」


「あ、待てよ!」


「うわぁ...走って追いついて来た。」


「なんで嫌そうなんだよ!」


「まぁお前が追いついてきたら誰だって嫌だろう。」


「涙止まんないんだけど」


軽口を叩き合いながら2人で歩く。そういえば休日に友人と遊ぶってのもだいぶ久しぶりな気がする。早く来て良かった。待ち合わせまで時間はある。


「俺朝飯食ってないんだよな」


「8時から来るからだろバカ」


暫くはこのしょうもないのと過ごすことにしよう。




▲ ▽ ▲ ▽▲ ▽ ▲ ▽▲ ▽ ▲ ▽▲ ▽ ▲ ▽▲ ▽ ▲ ▽




「おい葵。そろそろ時間じゃねぇか?」


「あ〜そうかもな」


今は...10時50分か...


「ぼちぼち戻るか」


「あいよ〜」


ここから待ち合わせ場所は5分程度。遅刻しないよう近くで遊んでてよかった。


「2人とももう揃っててナンパとかされてんじゃねぇの?」


「冗談にしては可能性が有りすぎるな」


2人とも客観的に見て可愛いと言って差し支えないだろう。しかも1人は中堅アイドルでも泣いて逃げ出すレベル。声かけられるぐらいはするだろう。


「言いたいことはわかるけどさ、篠月だぞ?」


「あ〜」


怖いって言いたいのかこいつ。確かにナンパとかされたら睨みつけて追い返しそうだけども。


「軽率に声掛けてくる輩とか眼光だけで消滅させそうじゃない?」


「お前篠月さんのことなんだと思ってんだ」


そんな話で盛り上がってると待ち合わせ場所が見えてきた。人やら像に隠れて見ずらいが2人もちょうど見える。


「お〜い2人共〜」


「あっちょっ待て葵!」


何故か静止してくる歩。そう言われてももう遅い。2人に近づくとそこには


「だからさ〜いいじゃん。ちょっとぐらい」


「そうそう とりあえずどっか行こうぜ?考えが変わるかもしれないじゃん?」


ナンパされてる2人の姿があった。


「行きません」


「もう待ち合わせの時間だって言ってるじゃないですか〜!だから早くどこかに行ってください!あ!柏木くん!ほら!待ち合わせの人も来たのでどっか行ってください!」


うわぁベタイベント発生しちゃったよ... しかも金髪ツーブロックと色黒オールバック顎髭だと?なんてベタな奴らだ... なんて言って追い返そうかな...


「は?なに?こんなのと遊ぶの?こんなのより絶対俺らと遊んだ方が楽しいって!なぁ君もそれでいいよな?」


金髪が肩に手を置いて力を入れてくる。痛いからやめて欲しい。全く、とことんベタな奴らだ。ラブコメ漫画から出てきたんじゃないだろうな?


「おい、その手離せよ」


「夕羽くん!」


あらヤダかっこいい登場だこと。


「あ?なんだお前?」


「あんま友達に手出さないでくんねぇかな?だせぇオールバックのおっさん」


「あ゛!?やろうってのか!?」


「お前...」


見直したぜ我が友よ。やる時はやる男だったんだな...

顎髭は手をポキポキと鳴らし、金髪は首を鳴らしている。臨戦態勢だ。ったく...


「しょうがねぇな歩。手伝ってやるよ」


「ヘッ 足引っ張るなよ」


「こっちの台詞だ!」


ガヤガヤとうるさくなる。周りに人が集まってきた。浅野さんはキャーと顔を抑えている。負けると思ってんなこいつ。篠月さんは興味無さそうに別の方を見てる。ドライ過ぎないか?あんたらのために戦うんですけど。まぁいい!


「俺から行かせてもらうぜ!」


そう言って先陣を切って走り出す。拳を繰り出してくる金髪。見える!見えるぞ!やつのパンチの軌道が!このまま避けて1発食らわせてやる!


その瞬間世界がブレた。足がもつれている。躓いたのだろう。このままだと転ける。不味い。カッコつけて先陣切って何もしないのはダサすぎる。


ガムシャラに手を伸ばして金髪の服を掴む。このまま体勢を整えようと考えたところで、そのまま転けた。

しっかり掴んだんだけどな...


その瞬間周りから悲鳴が上がる。そんなに転けたのが衝撃だったか?そう考えながら顔を上げると俺の眼前にはイチモツがあった。


顎髭は絶句している。金髪は何が起こったか理解出来ていないで呆然としていたが、ハッとしてズボンを上にあげて怒った様子で口を開く。


「お!お前!何してくれてんだこの野郎!しょうもない格好の癖にたてつきやがって!」


何やら言っているようだが今は見てしまったあれが頭から離れない。なぜなら


「あんた...」


「なんだよ...」


「股間ちっせぇのなw」


そうこの金髪のアソコは小さかった。いや興奮していないとかじゃなくて。なんて言うか今まで見てきたイチモツの中でも一発で分かるほどダントツで小さかった。


後ろで歩が爆笑しているのが聞こえる。やめてくれよ俺も笑いこらえてんだから。


「はぁ〜!?あんま舐めた口聞くなよ!おい!後ろの奴何笑ってんだ!」


「いやだってw そんな同人誌の竿役みたいな風貌しておいて男の象徴は小さいの面白すぎるだろw」


こいつ俺と全く同じこと考えてんな。周りからヒソヒソと「小さいんだ」みたいな声が聞こえてくる。金髪は怪奇の目に晒されている。


「うぅ...クソ!」


「あ!おい待てよ!金髪!」


金髪とそういうと顔を真っ赤にして走り去って行き顎髭は後を追って行った。てかあいつ顎髭にも金髪って呼ばれてたのか。


「2人とも大丈夫だったか?」


俺らが来るまでに変なことされてなきゃいいんだけどな。


「えぇ大丈夫よ」


「こっちも平気だよ〜」


「そうか。なら良かった」


「葵。うぃ〜ナイスズボン脱がし」


そう言って手を挙げてハイタッチを求めてくる歩。


パチンッ


「まぁな」


「2人ともありがとうね!助けてくれて!」


「まぁ大分想定とは外れた勝ち方したけどな」


「やっぱあれ狙ったのか?」


「なわけないだろ」


理想はあのままカウンターだわ。てかその想定で動いてたし。


「あ、2人とも汚いもん見なかったか? 」


歩が2人に尋ねる。汚いものとはあの金髪のイチモツだろう。気がきいてるな。


「私は大丈夫よ。興味がなかったからあそこの鳩を見てたもの。」


「さいですか...」


篠月さんが指さした先には餌を上げてるおじいちゃんと群がってる大量の鳩。そんなにどうでもよかった?結果オーライとはいえ一応あなた達のために戦ったんですけど。


「私は顔を覆ってたから大丈夫!」


そう言ってピースサインを決める浅野さん。


「負けてボコボコにされてるとこなんて見たくなかったからね!」


一言余計なんだよ。言わなくていいだろそれ。知ってたけど。


さて一段落したわけだけども隣のバカは何やらあほ面を晒している。


「2人とも私服可愛いなぁ〜」


「おい歩。心の声漏れてる。」


「嘘!?」


「ほんとだよ〜 ありがとね!褒めてくれて!」


素直ないい子すぎる。


確かに2人とも可愛い。浅野さんはミニスカート。ふわふわとした印象を受ける。篠月さんはロングスカート。大人びた彼女にはピッタリだ。2人はコーデも性格と一緒でコーデも対照的だった。


「それで〜?柏木くんは何も言ってくれないの?」


「...似合ってると思う」


「ありがと!」


うわ〜...恥っずいなこれ。話振られた瞬間声出てこなかったよ。こういうの慣れてないんだよな...

ため息を着いていると篠月さんが近ずいてくる。


「やけに声が小さかったわね」


「...うるさい」


「それに顔も少し赤いわ」


「ちょっと恥ずかしいんだから言わないでもらっていいですかねぇ!?」


こいつ何のためにこっちに来たかと思えば小馬鹿にして来やがった。ちくしょう。だがからかってくる篠月は少し楽しそうだった。


「よかった...」


「何がかしら?」


「いやなんでもないよ」


そもそも篠月さんは今日のことに乗り気ではなかった。それがこの序盤に少しでも楽しんでくれてるなら今日は彼女にとって楽しいものになるだろう。


「おい皆そろそろ行こうぜ」


「そうだね!落ち着いたことだし!」


歩と浅野さんが早く早くと急かしてくる。


「じゃあ行きましょうか」


そう言って歩き出す篠月さん。俺たちはそれに着いていくように歩きだした。


「柏木くんなにか面白い話ないの?」


「じゃあ待ち合わせ前にあったひったくり犯と間違えられた話を」


「...貴方今日厄日なんじゃないの?」


確かに... ここからプラマイプラスになるように祈っておくしかない。念じていると3人に怪訝な目で見られたがまぁしょうがない。こっからはいい事ありますように。

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