第3話 入団試験・後編
筆記が終われば次は実技試験だ。こちらは剣や弓や魔術など、得物とする武器ごとに分かれて行われるようだ。同じ武器を専門とする騎士と、屋外訓練場で力を試すみたいだな。
間近で見ることはさすがに試験官以外には認められないが、近場の建物の二階や三階の通路から眺めることは許されている。その証拠に、こちらでもすでに人垣が出来ていた。
「おっ、やってるやってる!」
人の壁をかき分けかき分け、なんとか首を外へ出すと、剣師同士がやりあっているところだった。カァン! キィン! と甲高い音を鳴らして火花を散らしつつ、閃く刃を打ち合っている。
「おお、やっぱり剣は格好良いなぁ。あんな試験なら俺も受けたかったぜ」
「魔導師の場合は術の打ち合いでしょ」
「うるせぇな。夢を見るくらいは良いだろ」
「
「放っとけ!」
俺だってやっと念願の、自分だけの剣を手に入れたのだ。武器を得たら振り回したくなるのが人間のサガってもんだろう? 新しい術を覚えたら、辺り構わずぶちかましたくなるのと一緒だ。
「ストップ。危ない思想が口からダダ漏れしてるんだけど」
「気のせいだ」
「広範囲の攻撃魔術を試す時は結界の中でしましょうね」
「だから気のせいだって」
受験者はかなりの数にのぼる。講堂で一斉に実施可能な筆記と違って、実技は場所の都合も絡むからどうしても時間がかかる。
剣の試合は見ていてとても胸が躍るのだが、さりとてずっと見ているわけにもいかず、俺達は黒山の人だかりをズポッと抜け出した。
「弓士の試験はまだまだ先だろうな」
「ですね。お仕事も増えてますし、応援することは出来ないかもしれませんね」
ココの言う通り、試験期間中はいつとも違う
ついでに言うと、人手不足を補うために城内の見回りの手伝いなどにも駆り出されることになっている。見回りかぁ、そういや久しぶりだなぁ。
「っていうか、ちっとでも勉強したいんだけどな」
「へぇ、真面目。どんな問題が出るのか分からないのに、勉強したって意味なくない? 無駄な足掻きだよ」
「人の努力を『無駄』言うな!」
人の流れに逆行しながらグダグダと言い合っていると、周囲のざわめきも去っていく。キーマがぽつりと零した。
「あー、ルリュスが騎士見習いになったら、気を付けないとなぁ」
「気を付ける? 何をだよ?」
俺はすぐにピンと来ず、聞き返す。すると、キーマが意外そうな顔で「ヤルンはバレちゃっても良いんだ?」と逆に問いかけてきた。
「自分は困るけどなぁ」
「バレる? ……げっ」
その瞬間、サーッと血の気が引き、背筋が冷たくなる。
他人に知られて困ることは幾つか思い付くが、中でも一番バレるわけにいかない秘密といったら、護衛の仕事中にやらされている
「ヤルンのは、知られたら、ちょーっと面白いことになりそうだよねぇ」
「な、何が『ちょっと面白い』だ! 駄目っ。駄目に決まってんだろ!」
そうだよ、ルリュスが試験にパスして騎士見習いになったら、この間の晩餐会みたいに一緒に仕事をする機会だってあるはずだよな。
変装中、ココの隣に並んでいるところへ遭遇なんぞしたら、一発でアウト間違いなしだろう。バレたらどんな反応されるか、考えただけで顔から火じゃなくて血を吹き出しそうだ。
「は、早く対策を練らないと……!」
「あははは、無駄な足掻き頑張れー」
「だから『無駄』って言うな! ……そういやルリュスのやつ、さっき気になることを言ってなかったか? 『イリクと会った』とかって。まさかあいつ、言ってないよな!?」
「お医者さんですから、患者さんの秘密は守られると思いますけど……」
焦りまくる俺に、ココは呑気に言う。そんなの、分かったものじゃないぞ。あれやこれやと次々に怖い妄想が頭に浮かんできて、全く楽観視などできない。
「医務室に直行して問い詰めないと!」
イリクが散々きりきりと絞り上げられた挙句に無実だったと判明するのは、少し先の話である。
《終》
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