第6話 武具屋での再会・前編
「おお……っ!」
重々しい扉を開けると、鋼と革の匂いがした。壁には盾や具足が飾られていて、ガラスケースには美しい刀身を晒した長剣や短剣が横たえられている。
筒に無造作に突っ込まれているのは、比較的値段の手頃そうな槍で、他にも弓やハンマーなどといったあらゆる武器や防具が、所狭しとひしめき合う。
それらを品定めする者達も皆、屈強そうに見え、俺は入ってすぐに胸が熱くなった。
「へー、色々あるね」
そこは念願叶って訪れた王都の武具屋で、付いてきたキーマもあちこち覗き込みながら言う。いつもの如く暇だったらしいが、こちらとしても買おうと思っている剣の見極めを一緒にして貰えれば大助かりだ。
「それで、どんな剣が欲しいの?」
「そうだなぁ」
恭しく展示されている一品の輝きは素晴らしく、手にとって眺めてはみたくなるけれど、自分の身の丈に合うとは思えないし、実戦で使う気にはもっとなれない。あれは観賞用の芸術品だ。
「ずっとお前のを借りて練習してきたからな。やっぱり似たようなのが使いやすいかな」
言って、キーマの腰に下がる剣を見下ろす。今は非番だが、選定の参考にするために持ってきて貰っている。
それは騎士見習いとして登用された時に騎士団から与えられたもので、通算では三本目だ。長さと重さは国家規格に準拠しており、どれも同じ。違うのは柄や鞘の装飾の方である。
白と銀の相性って抜群だよなぁ! くぅ~っ、見ているだけでテンションが上がるぜ。こっちは石もローブも魔導書も、何もかもが黒尽くめにされたから余計に羨ましく感じるな。
「まぁ、もうちょっと短くても良いんじゃない? ヤルンの戦い方は威力より速さ重視だと思うし。それとも逆に長くしてリーチを伸ばす?」
「うーん、悩むところだなぁ」
一通り見て回ったところで、カウンターへ相談に向かう。てっきり、いかついおっさんが接客をしているのだと思ったら、同い年くらいの女性が「いらっしゃい」と声をかけてきた。
あれ、この顔、どこかで見たことがあるような? ううーんと首を捻ったら、ピンと来る前に向こうが俺を指さして、「もしかして、ヤルン?」と言った。
名前を知っているということは、やはり知り合いで間違いない。……そうか!
「ルリュスか!?」
「アタリ! こんなところで再会するなんて、ビックリだね」
やっぱりそうだった。短かった髪が伸びているので印象が違って見えたが、さっぱりとした服装の彼女は確かに以前、この王都で同じ兵士として訓練したうちの一人、弓使いのルリュスだった。
ひと息遅れてキーマも「あぁ、あの」と言っている。記憶力は良い方だけれど、俺よりも彼女と接する時間が短かったから、思い出すのに苦労したみたいだ。
「久しぶりだな! 元気だったか?」
「まぁね。ヤルンの方こそ元気そうじゃない」
ふふんと笑う仕草も数年前のままで懐かしい。それにしても、王都の武具屋で会うことになるとは思わなかった。何故カウンター内にいるのだろう?
「今は何をやってるんだ? まさか、騎士になる夢を捨てて武具屋に転職したとか言わないだろうな?」
彼女とは騎士を志すライバル同士だった。冗談めかして睨みつけると、ルリュスは「まさか!」と軽く怒ってみせる。
「ここの店長さんと知り合いで、お手伝いしてるだけ。あたしも一旦は故郷に帰ったんだけど、今はまた王都で兵士をしてるよ。先輩に推薦して貰って、今度行われる騎士団の入団試験を受けるんだ」
言って、拳を向けてくる。これまた懐かしい。俺はそれに自分の拳をコツンとぶつけた。
「そっか。頑張れよな」
諦めたんじゃなくて、本当に良かった。感慨深く思っていると、拳を引っ込めた彼女は「あたしのことより」と話題を変える。
「聞いたわよ。試験なしで騎士見習いになった、とんでもない新人がいるって。名前を聞いてほんと驚いたよ」
「え、噂になってるのか……?」
「当たり前でしょ。貴族でもない無名の兵士が突然、第二王子妃の護衛役に抜擢されるなんて、まるでお伽噺みたいだって、城の中も外もその噂でしばらく持ちきりだったんだから」
ま、マジかよ。内容自体は間違っちゃいないけど、色々とツッコミどころ満載だな。
「一体どんな魔法を使ったの? 元同僚のよしみってことで、詳しく教えてよ」
「どんなって……たまたまだよ」
他に言いようがない。様々な偶然が重なった結果、今の状態になったとしか。しかし相手には隠し事があるように聞こえたらしく、不審そうにされた。
「そんな『たまたま』があるわけないじゃない。何、
そうじゃなくてだな。あー、これは全部白状するまで解放して貰えないパターンだ。剣を買いにきたってのに、……仕方がないか。先に目の前の案件を片付けてしまおう。
「じゃあ場所を移そうぜ。抜けられるか?」
「オッケー、店長さんに言ってくる。すぐそこに良いお店があるから案内するよ」
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