第5話 護衛役のお仕事?・後編
一週間ほど経った頃、再び俺達を呼び出した姫は開口一番、不敵な笑みと共に告げた。
「予想通りね。腕輪のデザインに不満を持つ女性は多かったし、腕に付けること自体に不便さを感じている人も少なくなかったわ。特に夏場は腕輪を付けていることで魔導師だと誰彼構わず知られたり、石の色を人に見られて嫌だという声もあったの」
こ、この人、市場調査したのか!?
聞けば、あの後も身近な魔導師を捕まえては腕輪の使用感や要望を聞いて回ったのだという。いやいや、そんな仕事、お姫様本人がやるなよ。
「貴方達もそうだったのよね?」
聞かれ、ココと揃って頷く。俺はデザイン云々はともかく、石の色はトラブルの元でしかなかった。ガキには余りに不釣り合いな魔力量だったからな。今もこの身に対して十分に不釣り合いだとは思うが。
「ヤルンは、カフスにしてどう? 何か変わった?」
「そうっスね」
まだ1ヶ月にも満たないけれど、振り返ってみると生活がかなり楽になっていることに気付いた。自分で望んでもいない物をずっと付けているのは、地味にストレスなんだよな。
「煩わしさはなくなったかも……、手を洗う時とか、風呂の時とか? あと、絡んでくる人間が減ったっスね」
つか、唯一カフスを付けていることもあって、実は城内でまたジワジワ有名になりつつあるんだよなぁ。お姫様の護衛役としてさらわれて……もとい、スカウトされてきた新人としても。うーむ。
「絡んでくる? 誰が?」
「あー、今は『平民の癖に騎士見習いだと? まして王族の護衛などとは実におこがましい。身の程を知れ!』とか言ってくる連中っスね。相手するのも面倒なんで、適当にかわしてますけど」
大それた任に就くには年齢的に若過ぎるせいもあるだろうな。早くもう少し大人になりたいところだ。そういや、ココはどうだろう?
「私も年齢のことは言われます。……あと、やはり『女のくせに』と」
「またかよ。ほんっと、どこにでも湧くな、そういうヤツ」
凝りない手合いである。俺への中傷は放置しておくとしても、今度ココにそんなことを言う相手と出会ったらとっちめてやる! とかなんとか考えていたら、
「何その話。絶対許せない」
お姫様が大層お怒りだった。すっくと立ち上がり、扉越しに人を呼んだかと思うと、誰かに指示を出して戻ってくる。えぇっとー?
「さ、話を戻しましょ」
笑顔怖っ! 絶対今、抹殺指令とか出しただろ! 俺は知らないぞ。何も「お願い」してないからな!?
「それで、カフスを大量生産出来れば大儲け……じゃなかった、沢山の人を助けられると思うのよ」
こんなに本音がガバガバで良く王族なんて務まるな。社交の席での貴婦人然とした姿を知っていると、とても同一人物には思えない。最早二重人格の域だ。
そんな姫はにこりと微笑み、護衛役に命じた。
「材料になる地金や石と、加工する職人の手配はこっちで済ませておくから、貴方達は石に術を込めてね」
「……はい?」
だから俺ら、何目的で雇われてんだよ!?
術の込め方自体は、夜の訓練の時に師匠に教えて貰った。以前、自分自身にも使った「魔力を抑え込む術」を石に組み込めば良いらしい。
細かい調整はココ向きで難しい作業だったが、魔導具は一度作ってみたかったから面白くもあった。この石が実際にカフスになるなんて不思議だな。
「え、赤まで? 黒までいかなくて良いんスか?」
「馬鹿者。お主以外に不要な物を作ってどうする。
「う」
試しにココが触ってみれば、石はきちんと薄い赤色に染まった。が、俺が触ろうとしたら叱られた。石の許容量を超えて壊れてしまうらしい。作った本人が触れないってどういうことだよ。
こうして大量生産版のカフスは完成し、デザインも複数用意した上で売り出された。値段は高めでもそこそこ売れたらしく、俺にとっては良いアルバイトになった。溜まりがちな魔力も減らせて一石二鳥だ。
「これ、腕輪よりずっと便利ですね」
ココも自分用に一つ作って貰い、その付け心地にも満足そうだった。
姫は既得権益である腕輪職人や、王都の魔導師のお偉方とすったもんだあったらしいが、知ったことではない。護衛を職人扱いした罰ってやつだな、うん。
《終》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます