第4話 夢を遮る者に火花を贈ろう・後編

「わー、カッコイ~!」


 そのうちのツンツン頭が子ども特有の甲高い声を上げて近寄ってきた。平和な村には似つかわしくない、異彩な光を放つ長剣には、恐ろしさと同時に魅力がある。それに惹かれるように、他の子も近くまでやってきた。


「おにーちゃん、剣が使えるの? すっごいなぁ」


 村の子のリーダー各なのか、勇気あるツンツン頭が目をきらきらと輝かせて刃に見入る。フフン、なかなか見所のあるお子様だな。

 ところが、ツンツン頭とは別の頭の良さそうな子が、鋭い瞳で俺の格好に疑問を投げかけた。


「でも、その服ってまほーつかいのだよね。まほーつかいなのに剣の練習?」


 ちっ、くだらないところに気が付きやがって。さては、メガネをしていたら絶対にクイっと持ち上げるのがクセってタイプだな! ツンツン頭が村人A、インテリ気取りが村人Bとするなら、今度は村人CやらDやらが口々に言い始めた。


「ええーへんなのー」


 これだからガキは困る。俺のこのフクザツな心境を推し量ろうともしない。そう自分の年齢を棚に上げて腹を立てていると、村人Bが更に俺の神経を逆なでしてきた。


「あ、わかった! にーちゃん、まほーが苦手だから剣の練習してるんでしょ」

「言っちゃだめだよ。きっとみんなの足を引っ張らないように必死なんだよ」


 ちょ、村人A、そのがっかりしたような、哀れむような目はなんだ。


「そうなんだ。ごめんなさい。ひどいこと言って……」

「ちっがーーーーう!!」


 「使えない魔法使いが剣で得点を稼いでいる」という、恐ろしい濡れ衣を着せられそうになり、大声で否定する。ここは俺のプライドにかけて、きちんと訂正しておかなくては!


「違う違うっ、俺は剣も使える魔導士なんだよっ!」


 くっそぅ、「魔術も使える剣士」と胸を張れない自分が憎い! けれど、チビっ子達は揃って「うそだぁ」と言い、わなわな震える俺に村人Cがトドメの一撃を放った。


「知ってるぞぉ。にーちゃん、そういのは『ちゅーとはんぱ』って言うんだよ」

「ち……」


 中途半端。中途半端、半端、半端、半端……頭の中で何度もエコーがかかる。つまり、剣はおろか魔術でさえ駄目駄目だってことか……? そんな、まさか。


「は、はは、ははは」

「あ、あの、子どもの言うことですし、私達は修行中の身なのですから、そんなに気にされずとも」


 不思議と笑いが込み上げてきた俺をココが励まそうとしてくれたが、どことなく怯えているようにも見えた。何故だろう。


「そうだよな……。師匠には相変わらずしごかれる毎日だし、剣だってキーマに借りなきゃいけないし、騎士なんて今のままじゃ夢のまた夢、どうせ中途半端だよ。そりゃ、ガキにも笑われるよな。はははは……」


 そうやって数秒間続いた乾いた笑いが、ふいにピタリと止んだ。俯き加減だった顔を上げ、口は三日月みたいに笑いの形に歪みきる。


「……ヤルンさん?」

「俺……」

「は、はい」


 固唾かたずを呑んで言葉を待つ可憐な少女に、静かに告げた。


「この村焼くわ」

「わーっ、駄目ですっ! 落ち着いてくださいっ! みんなも逃げてーーーーっ!」


 せっかくココが俺を止めようとしてぎゅっと抱き付いてきたっていうのに、果てしない虚無感が思考を支配していて、ときめきもしなかった。

 がっつり羽交い締めされた状態の中で、やがて頭には別の思いも駆け巡り始めた。言い様のない悔しさと、怒りだ。


「絶っ対諦めるもんかよ。つうかそもそも諦めてねぇし。くそ、キーマが変なことを言い出したせいだ。一発ブン殴ってやる!」


 ばちばちばちばちっ!


「きゃーーーーーっ」

「いてっ、イデデデデ!」

「あちちちちっ!?」


 直後、宿の裏手は阿鼻叫喚あびきょうかんに包まれた。本気で村を焼き討ちにしたかったわけじゃない。ただし、言いたい放題言ってくれたチビどもには、罰として火花が足元を這い回る術をたっくさんお見舞いしてやったが。

 そのうちに声や音を聞き付けた大人達もやってきて、祭りみたいに跳ね回る彼らを背に、夕日がゆっくりと海へと沈んでいった。


 《終》

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