第4話 夢を遮る者に火花を贈ろう・前編
俺のそばには、たまに爆弾発言を投下する爆弾魔がいる。その名はキーマ。長身・金髪・細身という、羨ましい容姿の持ち主だが、本人はあまり興味がないようだ。
でもって、中身はまぬけだか鋭いのだか、正体不明。あれ、なんで俺はそんな奴と仲がいいんだろ。とにかく、その爆弾魔が今日落としたのは、特大の鉛弾だった。
「ヤルンてさ、今でも騎士になりたいわけ?」
「はぁっ?」
「剣士として、王国最強の盾と謳われる近衛騎士団に入りたいんだよね?」
「あったり前だろー。何なんだよ、さっきから」
当然も当然。いつもいつも高らかに宣言しているはずだ。分かりきっていることを聞かれて憮然としていると、キーマは「いや、だってさ」と弁解してきた。
「最近、前にも増して魔導士っぷりが板についてきたから、宗旨替えしたのかと思って」
沈黙が流れる。流れる。流れる……。
「……なにぃーーーーっ!?」
お前は俺のあの男泣きを忘れたのか。この薄情者め!
通りかかったのは、漁師が多く集まった素朴な小村だった。箱型のちっぽけな家には潮風による腐食を防ぐ特殊な塗料が塗られ、どことなく村全体が赤みがかって見える。まるで燃えているみたいだ。
「あの、ヤルンさん?」
「んー?」
旅人のために整備――石が乱雑に敷き詰められているだけだが――された道の途上にある村だからなのか、それなりの宿と食事にありつけた俺達は、ひと時の休息を得ていた。
ひゅっ、しゅっと空気が裂ける、規則正しい音が耳に心地よい。
「急に素振りなんて、どうかしたんですか?」
剣の自主訓練をしていると、小首を傾げたココが訊ねてきた。
宿の裏手は旅人の目を楽しませるちょっとした花壇が作られており、故郷ではお目にかからない赤く立派な花が鮮やかに咲いている。その向こうは浜辺と海がどこまでも広がっている。
南国ムードたっぷりで、とても鍛錬をするような空間ではないのだが、他にめぼしい場所は見つからなかった。俺は振っていた剣を下ろし、ひたとココに視線を合わせる。
「やばいよ、ココ。マジでヤバい」
「? 何かお困りのことでも?」
口をついて出たのは悲壮な訴えだった。しかし、詳しい説明もなしに伝わるはずもない。訝しがるココにも分かるように、再度胸にわきあがった不安を絞り出した。
「俺、このままじゃ本っ当-に、じーさんの後継者にされちまう……!」
偉大? な魔導師オルティリト。功績の全貌は未だ知るよしもないが、王族に魔術の手解きをしたこともあるほどの実力者なのは確からしい。
ならば、多少? 性格に難があっても、魔術を極めたい者からすればノドから手が出るほど師事したい人物だろう。……でも、俺は嫌なのだ。絶対にお断りだ。
「オルティリト
なんだと? 俺のなけなしの思考がぷつりと切れそうになる。
「俺が、じーさんに? ににに、にーてーきーたァー!?」
どこがどんな風にどれくらい!? 問い詰めたい気もするけれど、怖くて聞く勇気が出ない。動揺で舌もうまく回らない。こちらがそんなあっぷあっぷ状態に陥っていることに気付かないのか、ココは輝くばかりの笑顔でなおも続ける。
「ゆくゆくは名を、国中どころか隣国にさえ轟かせる、偉大な魔導師になれると思いますっ」
偉大な魔導師かぁ……それもいいかもな……なんて思うか!! 俺はココが夢と妄想の世界に旅立ったまま戻ってこなくなるのを阻止しようと、声を張り上げて説得にかかる。
「そっ、それはココの夢だろ! 俺は剣士として、稀代の名勇として名を馳せたいんだよ!」
「あぁ、それで素振りをしてらっしゃるんですね」
彼女は俺の行動にやっと納得したらしい。良かった、戻ってきてくれたようだ。はぁ、なんだか説明するだけで、素振りより疲れちまったぜ。
「で、ずっと旅続きで滞りがちだった素振りを、危機感を覚えて再開したってわけ……ん? うわっ」
精神的に脱力しながら、ふと周囲を見回すと、ココと不毛なやり取りをしている間にわらわらと村の子供達が集まってきていた。旅人自体は珍しくなくても、兵士の一団、年も近いとくれば興味がわくのだろう。
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