第5話 食料と武器と魔力のお話・後編
がっさがっさと山の中の草むらを掻き分けながら、野営地を目指す。キーマが先行して剣で植物を裂き、戦利品を担いだ俺、しんがりのココと続く。
ちなみに獲物を仕留めたキーマ自身が担がないのは、いざと言う時に素早く動いて貰うためもある。魔導士は剣士に比べて初動に遅れが出るし、男が二人もいてココに担がせるのはどうなんだって感じだしな。
さて、話を戻すが、武器というものはどうしても熟練度に差が出るものだ。悔しくも、キーマには武器を扱うセンスがあると思う。体の基礎の違いか、何を持たせても様になるし、飲み込みも早い。
「つーか、俺の場合、師匠が『おぬしには必要なかろう』ばっかりで、あんまりやらせて貰えないんだよな」
「ふふっ、そうですね」
わざと声を低くして真似て言うと、ココが鈴を鳴らすように笑った。
「それ系の訓練の時には必ず言うんだ。いい加減にして欲しいぜ」
「まぁ、ヤルンには要らないように見えるって意見には、大いに同意するけど」
「あぁ? ブン殴るぞ」
俺はどんなに証拠を揃えられたって、自分に凄い魔力があると信じ切るのは傲慢だと思っている。
魔術が使えて色々と便利ではあっても、いざという時に魔力が尽きてしまって、丸腰でばっさりやられる、なんて冗談じゃない。そういう意味では、武器の訓練は望みにはかなっているのだ。
「あのさ、前も聞いたかもしれないけど、魔力が尽きるってどんな感じ?」
「あ? 魔力切れか?」
「うーん、そうですねぇ」
魔力が欠片もないキーマに聞かれ、俺は猪を担いだまま、ココは腕を組んで唸った。
「体力的な消耗に、似ていなくもない……ですよね?」
あぁと頷く。へろへろになって倒れそうな、目眩がするあの感じは、炎天下で遠距離をひたすら走らされた時に似ている。水をくれー、今すぐ寝かせろー、などと情けないことを叫びたくなる。
「でも、ちょっと違うんだよな。うーん」
「何時間も勉強したような感じでしょうか? うーん」
「うーん」
「ううーん」
どれだけ言葉を重ねても上手に説明出来る気がしなくて、二人ともキーマが白旗を上げて降参するまで唸り続けたのだった。
「おかえり~」
山中の少しだけ開けた空間に作った野営地に戻ると、同じように狩りに出ていた仲間達が戻ってきて、ここに残って料理の準備をしていた者へと獲物を手渡していた。
数人で組んでいる料理当番の中には、羽をむしった鳥を火にくべている奴もいれば、魚の鱗をはいで身をさばいている奴もいる。煙たいが、暖かい光景だ。
王都へ旅した時より人数が減った分、当番が回ってくる回数が増えたからか、皆料理の腕が目に見えて上達したと思う。包丁さばきも危なげがないし、味付けを間違えたり、焼き過ぎたり煮込み過ぎたりする人間もいない。
「どうだった?」
「バッチリに決まってるだろ」
背に負った猪をこれ見よがしに突き出す。直接的にはキーマの成果かもしれないが、狩りはポイント探しや餌の調達などチームプレイが欠かせない。相手もそれを承知で頷き、しっかりと受け取った。
「今日は大漁だな」
「晩御飯、期待できるかも」
食べられる野草を鍋に入れ、川魚も一緒に放り込んで煮込む。ぱちぱちと薪が爆ぜる音に合わせて軽く塩を加えると、出汁の香りが辺りを漂い、誰も彼もが待ちきれずに唾を飲み込む。
木製の、飾り気のない器にそれらが盛られる頃には、月が天へ昇るに伴って飢餓感も頂点に達した。
総監督を務めていた師範が全員に行き渡ったのを確認し、師匠に目配せして頷きあい、やっと待ちに待った時が訪れる。それではご一緒にどうぞ。
『いただきますッ』
《終》
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