幕間:休日のような穏やかさ

幕間

 休日とはいいものである。喫茶店の外にあるテラス席、温めの紅茶を飲みながらただそんなことを思った。

道を行く人々にはきっと目的があるのだろう。仕事だったり、人との約束だったり、買い物だったり、と理由はそれぞれにあるのだろう。


しかし、ただ一つ共通している点を挙げるとするならば『彼らの時間は僕よりも短い』とうことだろう。

そう言い切ってしまえるほどに僕の時間はゆっくりと流れていた。壁もないのに断絶されているようで彼らと自分が同じ空間にいることが少しだけ信じられなかった。


時折、こちらに指をさし話す失礼な男達の姿も視界に入ってしまうが、それは仕方のないことだ。僕は対面に視線を戻し、あらためて容姿を観察した。


対面には見目麗しい女性が座っている。

髪留めもなく下ろされた長い艶やかな髪は鮮やかな赤色。体の線は細いが女性らしさがあり、細い指でティーカップを持ち座る姿勢は美しくそれだけで様になってしまっている。

そんな絵に理想をかいたような人物だった。


「お前、なにか失礼なことを考えていないか?」


言葉遣い以外は


「全然、なんに対して?」

「……私?」

「はずれ。」

「考えてはいるじゃないか」


「ハハハ!」と笑い飛ばしてみたが本人は不服そうに目を細めている。

もちろん対面にいる人物は恋人でもなければ友達とも言えない。考えてみればなんとも不思議な関係である。

 もっとも僕はこんな冗談を言える立場でも状況でもないのだが相手が知り合いで話を聞いてくれることは救いだった。


「で、なんであんなことをした?」

「あんなこととは?」

「出店の食いもんを買ってもいないのに勝手に食ったって話だ。とぼけるなら、めんどうだし牢にぶち込む」


 彼女にはしばらく会っていなかったが、今はこの街【カスペデナ】で衛兵騎士?をしているらしい。なんでも街の治安を守るのが役目らしく、治安を乱すものがいたら牢にぶち込むというのはこの国の方針なのだろう。

現に今も彼女は巡回という名の仕事中であり軽装ではあるが鎧を身に着けており腰には長手の剣を携えていた。

 

 そんな彼女に今、僕は拘束されている。理由は言われた通りの食い逃げである。

逃げてはないけど。


「『買って』と『勝手に』を繋げるなんてセンスあるじゃん。どこで覚えたの?」

「……さってと、罪人を牢にいれる手続きでもするかなー。食い逃げなら十日くらいで済めばいいな。」


立ちあがり、固まった身体をほぐしながら当然のことのように物騒なことを言ってのけた。

え?十日も入れられるの?というか食い逃げもしてないんだけど。

さすがにやりすぎたと思い、必死に謝り席に着かせることには成功する。危なかった。危うく国から罪人判定されるところだ。


「そんで、理由は?」

「食い逃げはしていない。支払いの前に食べただけだから。」

「いや、金もってなかっただろ。」

「それは、結果的な話だから、支払う気はあった。」

「……残念ながら支払えなかったら食い逃げと同じなんだぞ。—――後払いでもなかったしな。」


そこまで言うと、頭を抱え、ため息をつき、うなだれた。そんな様子を見るとこちらに非があるような気がしてくる。この場合こちらが悪いのは間違いないけど


「というか……一般常識くらいは『インプット』されてるはずだろ?」

「されてる。」

「じゃあ、当たり前のことは並みにしておけよ。」


疲れたように話しながら、もう一度ため息。


ちなみに僕が創られたときに一般常識はしっかりと記憶させられている。

それが彼女と僕とで差があるかないかはわからないけれど屋台の先払いは共通認識だった。


だが、言わせてほしい。屋台で食べ物をつくるのは一種の犯罪になるのではないだろうか?香ばしい匂いを好きでもないのにがされて、見せられるだけなんて生殺しもいいところだ。気がついたら手をのばしていた。あれは危険だ。犯罪生成器だ。

敢えて言わせてもらうと、僕は気がついた時には犯罪を担がされていた。

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