第14話才能、そして挑戦
そして、試作品第一号が完成した。ノアを優しく起こし一緒に試食する。
「いただきます。」「いただきまーす。」
見た目は悪くないので問題なく口へと運ぶ。
しっかりと
「師匠どうですか?」
「うーん、マズい。」
「ですよね。」
こうなることはわかっていた。ミリンダさんと同じことをしているのだから当たり前だ。しかし、予想外だったこともある。何が悪いのかわからない。
生地がブヨブヨしているのはなんだか違う気がする。火が通りきっていないのだろうか?
「もう少し焼いてみます?」
「うーん……。やってみる。」
出来上がったキッシュをもう一度、窯の中へと戻す。今度は時間を計ることができないため定期的に出しては味見を繰り返した。味は変わるが結果は変わらない。
何度も熱したことにより表面は焦げだし苦くなっていった。
このとき僕は料理を作り上げるのは難しいのだと悟った。
「だめだー!」
今は何時くらいだろうか?もうすぐ太陽が昇るのではないだろうか?
時間は無常に過ぎていくが結果はともなわない。情けない話だが、そんな状況で頼ることができる人物は一人しかいない。
「ノア師匠、なにが悪いかわかりませんか?」
「そんなこと言われても。」
頭を抱えながら唸るノアに僕は期待することしかできない。
「おいしく作るだけなのになぁ。」とそんなことを呟いてしまう。
「アルトさんもそう思う?」
ノアはぴたりと止まりそう質問する。すごくあたりまえのことだ。
「食べ物はせっかくならおいしく食べたい。でも、それ以外を望むことはないよ。」
「うん、わたしもそう思う。」
二人の意見は一致していた。なんとなく方向性が見えた気がする。
今のノアの目はもう子供のそれではなかった。目標を一点に見据えた夢や憧れを追うときの力強い人間の目だ。
――作ろう。ノアの料理を。
失ったものは蘇らない。不完全なレシピではどれだけ読んだとしても僕らでは再現などできはしなかった。このキッシュのレシピには先代の時間と経験が詰まっているということだ。この作戦は初めから失敗していたのだ。
ならば新しく作るしかない。それが僕らの結論である。
だが、これはミリンダさんの望むものではないだろう。
うまいこと料理が完成したとして昔の味、先代の料理を求めている彼女にそれを提供したとしても何も変わらない。これっきりの料理になるかもしれない。
しかし、やらないわけにはいかない。残された道はこの一本だけだ。
いっぺんに食材が増えた。ノアがあれもこれもと食材を追加し始めたのだ。
追加する理由は「おいしいから」とか「入れてみたい」とかそんな理由で、不安を覚えないわけではないが信じよう。
調理の肯定もいっぺんに増えた。基本は先程のレシピのままだが指示が細かくなったのだ。才能ともいえる直感がそうさせるのか、記憶がそうさせたのかはわからない。きっとノア自身にもわからないだろう。
炒めるときは硬いものから先に加え、葉のような柔らかいものは後から加える。
卵液も一度につくるのではなく混ぜてミルクを加えて、混ぜてミルクを加えてを繰り返すようにと指示された。
これでなにが変わるかはわからないがノアが言うにはなにか意味がある。それは確かだと信じている。
そうして完成した試作品第二号。
「いただきます。」「いただきまーす。」
見た目に変化はあまりないが一口でわかった。これは違う。
「おいしいですよ!師匠。」
「うん!でも……。」
しかし、ノアの顔は晴れなかった。なにか考えているのだろうか?少し不満そうにも見える。
「まだ、おいしくできる。」
料理人と食べるだけの人間とでは感性が違う。きっとノアにはまだ先が見えているのだろう。
納得するまで協力しよう。そう心に誓った。
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