第9話魔法で子供相手にマウントをとる男

 3人組に連れられてやってきたのは村の外れのほうだった。整備はされておらず足元には道中のように草が生え放題だ。周辺にはそこそこに立派な畑が見え、働いてる人も見てとれた。

周りに民家もなくこの場所ならばどんな魔法を使っても問題にはならないだろう。


「はやくはやく」と少年たちが囃し立てるがいったいどんなものを期待しているのだろうか?魔法は誰にでも扱えるものではないため珍しいことはわかるのだが生まれたときから扱えた僕にはその感覚がわからなかった。


そんな少年たちに思わず苦笑しながら僕は魔法の準備をはじめる。どんな魔法にしようか

 せっかくだからサービスもしてあげようかな?


僕は人差し指を空に向かって突き立て小さな円を描きはじめた。

するとその指の流れに沿うように周囲に『風』が吹きはじめる。ピリリとした独特な空気が僕らを包んだ。


「よく見てろよ?」


子供たちの囃子はやしはピタリ止まり、何が起こるのだろうと指先の一点を見つめるようになった。詠唱を始める。


――風よ回れ、回れ、早く!より強く!汝に我あり、汝は我の従僕である!――


声と共に指先の回転を早める。すると風はさらに勢いを増していく。

周辺の草花は荒れるように揺れ、子供達の髪も風に吹かれて靡き《なびき》はじめる。


――舞え、舞え!踊れ!それは嗜好の一枚である。来たれ!――


詠唱を終えると風は止み世界は何事もなかったかのように元に戻った。

ただ空からヒラリと降ってくる物があるため中指と人差し指で挟んだ。


「ふう、どうだった?」

「す、すげー……。」


思ったより反応が薄い。おかしいな、最近編み出した新魔法だというのに。

僕としては劇場で響き渡るような盛大な歓声を期待していたのだけどな。

どうやら子供たちの胸には刺さらなかったらしい。


「なんだったんだろうな。急に風が吹いたかと思ったら兄さんの声に合わせてどんどん強くなっていって。」

「そう、だな急に強くなったよな、急な突風で飛ばされるところだった。」

「これが、魔法……。」

「「それだ!」」


ここから三人のボルテージは急激に上がっていった。

どうやら起こったことを理解するのに少々時間を要してしまったらしい。


「すげーよ!兄さんどうやったんだ?」「俺たちにも教えてくれよ!」

「詠唱……。覚えれば俺でもできるのかな?」


食らいつくように同時に話してくる。聞き取ることはできないが期待に応えられたようで安心する。

ちなみに魔法を発動するのに詠唱は必要ない。今回はそのほうがカッコがつくかと思ってテキトーに言ってみたのだが、思いのほか好評なようでこちらとしても言ってよかったなと思う。


「フハハハハハ、もっと褒めてもいいぞ!」


爆発した歓声にすっかり気をよくした僕は盛大に笑った。

相手が誰であろうがこんな風に褒められるのは気分がいい。ただ、傍から見れば子供相手に何をしているのだろうかと変に思われるかもしれない。声の出し方だった。幸いにもここには僕を含めて五人しかいないわけだけど。


「ところで、何の魔法だったんだ?」


「それは俺も気になってた。」「そういや、結局なにも起こっていないよな?」と口々に言われた。なんだ見えていなかったのか。僕は親切に教えてあげる。


「これだよ。」

「紙?」


手に持っていたものを見せる。先程つかんだ。真っ白な紙だ。


「そ、紙をつくる魔法。」


言った瞬間、会場のボルテージが下がったのがわかった。それくらいに反応は露骨だ。この世界に二つとない無から有を生み出すことのできるすごい魔法だと思うのだけど。


「もっと派手なのが良かった。」「なんかがっかりした。」といったような言葉が聞こえてくるようだった。

うーむ。子供心というのはわかりづらいな。自分が思うよりもこういうことは苦手なのかもしれない。


 そもそも魔法というのは派手なものもあるにはあるだろうが基本的には便利だから使うものである。必要なものは利便性だ。地味でいい。むしろそれに対して期待を裏切られたみたいな反応をされても困るのだけど……。

それに……。一線を越えてしまうのはよくないことだと僕は思う。


っと、こんなことを考えている場合ではない。今はこの空気をどうにかしないとな。

そんなことを思った矢先に声がかかる。


「おや魔法使いさんとは珍しいですね。」

「あ、師匠。」


なるほど。この人が子供たちの師匠か。

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