第2話目的地

『生きるために必要なものを知っているか?もちろん僕は知っている。』

一人の男が答えた。

『金だろ?万物に変えられて無駄がない。』

『違うな、僕はそれに対してそこまでの興味が沸かない。』

一人の男が答える。

『自由だろ、何事にも縛られず楽しく暮らせる。』

『それには、同意するがそれも違うね、』

わかったような顔をした男が答える。

『わかった、気の合う友人だろ?』

『違う!まったく何をいままで生きていたんだ?』


正解は僕によってことごとく無に還された。

横暴だ!なんて言う人間はどこにもいないし、囃し立てる人間などいるはずもない。


やれやれと手のひらを上に向け、首を振った。

わかりやすい呆れ果てた時のポーズだ。


無駄にためをつくって、もったいぶって答えを言う。

『正解は食事だ。』

『おおー!』とその場の全員が感嘆で震えた。

そうだ食い物があれば、それを食うことができる。食うことができれば腹を満たすことができ生活することができる。歩いたり、話したり、考えたりだ。

しかし、腹を満たさなければ人間……いや生き物すべては動くことすらままならない。


それにほら、意味もなくイライラしてる人間いるだろ?絶対に腹減ってるんだよ。

つまり食事には冷静になれる作用もあるのだ。素晴らしい。

そしてなにより、こんな意味の分からない一人芝居をすることもなくなるだろう。


 重たく、手に下げることしかできない革製のアタッシュケースが憎たらしく思える。

しかし、手放すことはできない。このケースには僕の命といっても差し支えない道具達が入っている。

旅に出始めの頃はリュックを背負っていたが街でコイツを見かけシフトした。

革命が起きたと思った。機能性やカスタマイズ性が段違いだった。

 しかし、今はどうだろうか右手にはしっかりと重みが伝わっており、気を抜けば腕ごと置いて地面に落としてしまいそうだ。

左手にカバンを持ち替え、右手を休ませる。それを何度となく繰り返していた。

いまならなんとなくイライラする人間の気持ちがわかる気がした。


『腹が減ったな』という思いで頭の中に満ちていた。

昨日は朝にリンゴ1個を食べただけだったなと思う。人がいるところには食べ物があるが人がいないところには存在しない。至極当たり前のことだが今の自分にとっては不便な話である。

しかし、歩みを止め休憩をとるという選択肢はなかった。本能的にこの状態で足を止めること得策ではないと思ったからだ。休んでしまったが最後、二度と動けなくなる自信があった。あと休んでも腹は膨れない。

 幸い目的地である村まではもう少しのはずだ。


雲一つとない清々しい空模様。気まぐれに吹いてくれる風がうれしかった。

あの草原はもう見えないが今日も変わることなく暮らしていることだろう。

 懐かしくて振り返る……。

見えたわ、ここ起伏ないから遠く見えるだな。そっかあ。

多分だけど絵を描いてたのはあのあたりで今日寝たのはあの石だな。草原に点のような石がポツンと見える。


 しばらくすると、予想通り小さな村が見えてくる。あれが目的の村だろう。

人間というのは不思議なものでゴールが見えると途端に元気になる。

 カバンを持つ腕がつらいことなど忘れて、歩くスピードが上がった。

一歩、一歩と足を進めていくと村がどんどん大きくなっていく。

 それがなんだか嬉しい。

村はいつしか自分の目には収まらないくらいの大きさになり、柵を超えて村に入った。

街から村に移動しただけなのに不思議と達成感があった。

 村にたどり着いたら安心感が強くなってくる。村に着くことができたので歩けなくなり辿りつけなくなる心配もしなくてよくなった。さっきまでの不安はなくなり解放感で満たされる。

だから僕は道の真ん中で行き倒れることにした。


 

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