④ 流れ星
「今夜は流星群が見えるでしょう」
そんなニュースをどこかで聞いた。今夜の天気は晴れ。月明かりも少なく、空の広い範囲を見ていれば、一時間に数個の流れ星が観察できるらしい。幸い、今は夏休みで明日は土曜日だから、少しくらい夜更かしをしても大丈夫だ。夜中に外へ行くのは、きっとお母さんもお父さんも許可してはくれないだろう。何より、流星群を見に行くなんて言ったら、そんなことより勉強しなさいと言われるだろうから自分の部屋で見るしかなさそうだ。それでも一つくらいは見えるかもしれない。僕はわくわくしている気持ちを隠しながら、少し陽が傾いて人が溢れる街中を家へ向かって歩いた。
いつもより早くお風呂に入って、パジャマじゃなくTシャツと短パンに着替える。居間でテレビを見るお父さんとお母さんに、おやすみと言ってから二階にある自分の部屋へ行く。部屋の電気を消したまま、窓を覆うカーテンを開けると夜の光が入ってくる。
午後十時。予報通り空に雲はないし、この辺りは街灯が少ないから、きっとよく見える。田舎に住んでいてよかったな、とこんな時には思ったりする。一枚の大きな窓の下へ座って空を見上げる。いつもと変わらない夜空がじっと動かず覆っているけれど、今日は少し違って、夜の間に緊張した空気が流れているように感じた。
部屋の時計を見ると、空を見始めてから四十分が経っている。ずっと見上げているから首が痛くなってきた。流れ星はまだ一つも見ていない。暗い青色の空には星がいくつも、きらきらと揺れるように光っている。遠い山の上に薄い雲が見えた。空の端からだんだんと曇り始める。このまま雲が覆ってしまったら、今日はもう流れ星は見えないかもしれないな。そんなことを思ってため息を吐きかけた時、僕の見ていた空のど真ん中に、光がすうっと流れた。左から右へと緩やかな曲線を描いて、一瞬だけ光が夜空を横切った。あ、流れ星だ。今、流れて、見えた。流れ星が通った空をまじまじと見つめ、今のが流れ星なのだと思ったら、うわあ、と声が漏れた。暗い空の上ではほんの小さな光なのかもしれないけれど、あんなに強い光をまとって流れるんだ。初めて見た流れ星に、見ることができたことに、僕は嬉しくて笑顔になっていた。
その日の僕は運がよかったみたいで、そのあとも数個の星が夜空を流れていった。僕はその度、きっと幼い子どもみたいな笑顔で空をじっと見つめていた。窓ガラス一枚分の狭い夜空に、その瞬間だけ星が光を連れて流れていく。僕はそんな情景を思い出しながらベッドに入り、幸せな気持ちを心に置いたまま眠りについた。
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