第三章 アリスと僕と不審死

*** 二〇二〇年 八月二十七日 木曜日

 感情を揺さぶる慣れない焼香の匂い、鼻を啜る音、そして祭壇の中央に飾られた生前の姿の写した遺影。五感を通して得る情報全てが僕にとって経験したことがないようなものだらけだった。祭壇には白く清らかな水仙やユリ、淡い桃色のしたカーネーションが遺影を囲むように弧を描いて飾られている。僕は遠く離れた椅子に奥深く腰掛けながら遺影を含めた祭壇全体をぼんやりと眺めていた。

 前方からご両親の嗚咽まじりの泣き声や親戚方の鼻を啜る音が耳に届くのに対して、後方で座っている制服を着た学生や数人の教師は涙を溢すわけでもなくただ顔を俯かせていた。特段親しくもなかったクラスメイトや関わりの薄い学年主任の先生もおそらく来ているのだろう。近縁者に比べて実感が湧かないのだから仕方がない。僕だってさっきまでは彼らと全く同じような感覚だったのだ。

 一方、僕はというと涙を流すわけでもなく、ただひたすら写真に写った彼女の姿を見つめていた。遺影の中の彼女は左右に分けた黒髪をヘアゴムで乱雑に結んでいて、口を横一文字に閉じて不満そうな目でじっと見つめている。そして、一際力強く存在感を放っていた目には蓋をするように黒縁の眼鏡を覆い被せてかけていた。写真に写っている全ての要素が僕の知る彼女とは違う印象を与えていた。記憶の中の彼女はとても快活で笑顔の眩しい人間だったのに対し、眼鏡をかけたこの彼女は感情の起伏が乏しい人間のようだった。

 僕はこの部屋に入って祭壇の遺影を見かけたとき、誰か別人の葬儀に参加してしまったのではないかと疑ってしまった。並べられた椅子に座ってからよく目を凝らして確認すると、顔の輪郭や特徴的な目からアリスであると僕はようやく断定できた。

 遺影に写る少女とアリスは簡単には同一人物だと気づけないほどに漂う雰囲気が異なっておりイメージが明らかにかけ離れていた。写真の少女をアリスと認めるまで割と冷静でいれたが、告別式が始まってご住職がお経を唱え始めた頃、僕はひどく動揺し始めていた。金縛りにあったかのように冷や汗をかいて身動きができなかった。

 同じ時間を過ごした友人が死んだ、その事実が今になって信憑性を増して僕の心に重くのしかかってくる。もうアリスには会うことができない、振り返った時のあの眩しい笑顔をこの目で見ることができない。

 その事実と強制的に向き合った瞬間、喉の奥から異物がせり上がってきて不愉快な匂いを放ちながら口内を満たした。焦った僕は口を閉じたまま無理やりそれを飲み込んだ。そして残念なことに吐き気が止まることはなく幾度も僕を襲った。その度に床に吐瀉物をぶちまけそうになったが、必死にそれらを飲み込むことに専念することでなんとか食い止めた。口の中は胃酸によって溶かされた異物の不快な味に塗れていた。

 そうやって何度も異物が逆流しては飲み込むというのを繰り返していると、ご住職のお経を唱える声がいつの間にか止んでいることに気付いた。遺影を見ないようにして正面を向くと、ちょうど喪主がお焼香をあげている瞬間だった。喪主が終わると次は親族、親族が終わると参列者というふうに順に祭壇の前へ行ってお焼香をあげていった。直前まで渋っていた僕は葬儀が始まる時間の五分前という割とぎりぎりの時間にやって来たので、まだ僕の番は回ってきてはいないようだった。

 しかし、すぐに僕の番が回ってきてしまった。口の中の異物を再度飲み込みながら立ち上がろうとする。だが僕は立ち上がることはできなかった。膝を伸ばすことができず気分が悪く、とてもじゃないが立ち上がれる状況ではなかった。順番が回ってきたのにも関わらず席を立たない僕を不審に思ったのか、後に続くはずの学生服を着た女子学生が「あの、大丈夫ですか?」と小声で聞いてきた。僕はそれに対して何も返事をせず沈黙を貫いた。間が空いて何か異変を感じ取った喪主や親戚方が後ろを振り返るのがわかったが、僕にはどうすることもできなかった。ただうずくまるようにして込み上がってくる吐き気を堪えるので僕は必死だった。

 正常な状態ではない僕を悲しみのあまり立ち上がれないと判断したのか、声をかけてくれた女子学生は僕の番を飛ばすことを選び、お焼香をあげに祭壇へと歩いていった。その後、彼女に続いて僕以降の参列者も焼香をあげに祭壇の前へ行ったので、親戚方やご家族は気のせいだと勝手に納得して何も言われずに済んだ。

 それからはあっという間に時間が過ぎて、告別式が終わると僕は逃げるようにしてすぐにその場から離れた。その頃には具合の悪さがピークを迎えていていよいよ我慢の限界だった。喉は炎症が起きているのか胃酸によって焼けるような痛みに変わり、異物が発する匂いと異様に酸っぱい味が口内に充満して不愉快極まりなかった。ビルを出てからは何処へ行くでもなく思考を止めて、顔を俯かせながら一心不乱に走り続けた。辺りは暗かったので自分がどこへ向かっているか分からなかった。視界に入った道を突き進んだり角を曲がったりしていると、いつしか僕は人気のない薄汚れた路地裏に入り込んでいた。

 我慢の限界を通り越していた僕は約十分にも渡って込み上がってきた異物を周囲にぶち撒ける事になった。ようやく吐き出せると安心した瞬間に勢いよく口から吐き出される。吐いた異物は胃酸によって細かく溶かされており、小さくなった固形物と変色した液体物が混じり合っていた。吐き終わると喉に痛みがあったものの、吐き気や気分の悪さはなく案外すっきりしていた。飛び込んでくる目の前の光景はゴミと入り混じった強烈な異臭と埃や異物の汚さが相まって散々な惨状だったが、僕の中では心底どうでもよかった。

 黒ずんた壁に体を支えるように手を置いて、深呼吸を繰り返しているとゆっくりとだが気分が落ち着き始めた。同時に止まっていた思考が次第に回り始めてしまい、空っぽで空白だった頭の中に嫌でもアリスの姿がぽつぽつと浮かび上がった。そこに写るアリスの姿は僕の記憶に起因するもので実に様々なものだった。

 頑張って物語を読み進めるアリス、双眸を輝かせながらガラス越しの魚群を眺めるアリス、本棚の前に魂が抜けたかのように立ち尽くしていたアリス、そして何よりも元気よく別れの挨拶を交わそうと大きく手を振りながら無邪気に笑うアリス。色んな表情を見せてくれたアリスの姿がずっと頭にこびりついて離れない。だが不思議とまた吐き気が出てくる気配はなかった。告別式の時はなんの前触れもなくただ現実を突き付けられてしまったので、記憶の中のアリスとギャップが生まれてしまい到底受け入れることができなかった。しかし、無理やり飲み込んでいた異物を体外に吐き出したことによって頭が幾分か整理され、僅かながらも心に余裕ができたのだろう。突き付けられた現実を受け入れてはいないが理解して受け入れるための準備が整ったのかもしれなかった。

 不思議と僕の足はあの場所へと向かっていた。せっかく受け入れる心の余裕ができたのであれば、現実をこの目で確かめるべきだと考えた。また体調が悪化する可能性があったが、この機を逃すと永遠に彼女の死をただの妄想と片づけるかもしれなかった。先程の告別式ではアリスに会えないという現実に向き合ったために吐いてしまったが、僕はまだ彼女の死に実感が湧かないでいた。

 彼女の死を受け入れた僕がどうなるか皆目見当がつかない。もしかすると予想以上に荒れるかもしれないし、案外あっさりと認めることができるかもしれない。どっちにしろ僕は死というものに対して、実感が伴う方法で頭ではなく心で理解しなければならなかった。

 それは他ならぬ『彼女が死んだ真相』を知るために必要な、いわば儀式なのだ。


 さっきの路地裏からこの場所までは電車を含めて約三十分の時間を要した。どこか目指すわけでもなく、視界に入った道を訳もわからず走り続けたために今自分がどこにいるか分からなかった。運良く近辺に駅があったのでその駅を利用してここへと来ることができた。

 電車に揺られていた間、覚えている限りの記憶の断片を繋ぎ合わせてあの場所の景色を思い出していた。どれほど変わり果ててしまったのかをはっきりと認識すれば、どこか現実味のない死というものを理解できるはずだと考えたからだ。記憶の中と目で見た状態がより異なっているほど言い逃れができない事実になるだろう。

 そして僕はようやく目的地に辿り着いていた。駅に到着した時は正面に顔を向けて歩けていたのだが、見覚えのある目的地周辺の光景を目の当たりすると、近づいて行く度に心臓は鼓動を激しく打ち始めて次第に視線は真下を向いていた。目的地の前に立ち止まってもすぐには顔を上げることはできなかった。真相を知るために必要な行為だとしても、未だに現実を受け入れたくないと考えている自分が少なからず存在しており、現実と向き合うことに躊躇してしまっていた。

 告別式の時と同様に、ある程度の想定をしながらも予想を遥かに上回る衝撃がまた僕を襲う可能性だってあった。だから目の前に広がっているはずの光景を想像しても、きっと無意味なのだ。どれだけ理屈を重ねて最低最悪の状況を考えても、所詮は想像に過ぎず、衝撃を軽減できるほどの力もないのだ。頭ではそう考えているはずなのに想像せずにはいられない。付け加えて勝手に想像した癖に最低最悪の状況と考えたそのボーダーラインを超えるのではなかと不安に苛まれる。

 正直、もうこのままではいいのではないかとも考えていた。このままというのは目の前にあるはずの光景を確認せず、心の中ではアリスがどこかで生きているかもしれないと馬鹿みたいに思い込みながら生きていくことだった。そのほうがもう苦しむ必要だってないし、ある意味では一番幸福な人生を送れるかもしれない。

 というか真相を知ると言っても僕が今知りたいことはせいぜい二つだけだ。なぜ死ななければならなかったのか、なぜあんな意味深なメッセージを送ったのか、これだけだ。僕が考えている知りたい真相とやらはこの二点について疑問を解消し、あの日何があったのかという事実を知ることだけだ。たとえアリスの死に何があったのか真相を知ったところで、僕には何の得もなくその先には彼女が死んだという苦しみしか待っていない。

 すでにアリスは死んでしまった。それだけはどれだけ足掻いても変えることの出来ない過去になったのだ。別にその真相でアリスを救えるわけでもない。目の前の場所で何があったのか知りたいとは思っているが、それに伴って得る苦しみを僕はこれ以上受けたくはなかった。もし、アリスの死が他殺によるものだったとしても僕はその犯人を殺したいほど憎むことはないだろう。別にアリスを殺した犯人を知ったところで復讐する気なんて微塵もなかった。

 考えれば考えるほど、真相を知ることに対してほとんど意味なんてなかった。となれば、この場から顔を背けたまま楽になる道を選ぶことが普通に考えて正解なのだろう。現に体の向きが歩いてきた方向へと無意識に動いた。だがしかし、まるで錘を取り付けてしまっているかのように僕の足は微動だにせず動き出すことはなかった。

 どうやらその選択は僕にとって不正解のようだった。僕の思考がそのような結果を選択しても、心がそれを許しはしなかったらしい。僕はどんな目に遭ったとしても彼女の死をあらゆる手段を使って調査し、あの日起きたことについて真相を知りたいと考えているようだった。

 僕は覚悟を決めて瞼を閉じたままゆっくりと顔を上げた。そして、いよいよ目の前に広がる光景を視界へと入れることができた。記憶の中とは段違いに変わり果てた姿が僕の目に飛び込んでくる。

 目の前に存在したはずの建築物は跡形もないほどに黒く焼き焦げてしまっており、骨組みになっていた木の柱が欠けた状態で中途半端に露出していた。趣のある木造建築の屋敷は原型を留めていないほどに崩れており、同じく焦げるように燃えてしまった柱や家具や中に散乱している。現場保存する必要性がすでになかったのか、よく刑事ドラマで見かけるような黄色の立ち入り禁止テープが周囲にはられていなかった。

 案の定、目の前の黒く染まってしまった焼け残りは記憶の中の屋敷と同一の木造建築には見えず、驚くほどに変わり果ててしまっていた。

 何気なく左端へと視線を向けると、視界の端にある物が映って僕は思わず息を呑んだ。

 目の前の光景は紛れもなく火災現場であることを表しており、同時に人間が亡くなったことも指し示していた。それによって心臓の鼓動がもう一段階早くなっているのが耳に届いてわかった。正常に呼吸できていたはずなのにちょっとずつリズムが乱れていく。息が荒くなっていると少しだけ過呼吸になった。突然の症状に戸惑って、勢いよく肺へと酸素を送り込もうとすればするほど、何かが詰まったかのように息を吐き出すことも吸うこともできなかった。治っていたはずなのに異物が喉の奥から込み上がってくる感覚が再びした。無理やり視線からそれを外して僕は急いで自宅へと向かった。

 この後、どうやって家に帰宅したのかは思い返しても詳しく覚えていなかった。過呼吸と吐き気に同時に襲われたせいで記憶がとんでしまっていた。電車を利用して帰ったのか、徒歩で帰宅したのかも不明でほぼ何も覚えていなかった。記憶に残っていることといえば、疲労による倦怠さと胃酸にやられた喉の痛みだけだった。過呼吸に関してはどうやらいつの間にか治っているようだった。

 やっとの思いで家に辿り着いて玄関のドアを開けると、幸いなことに両親も妹も不在だった。家族の誰にもこんな様子のおかしい姿を見せたくはなかったので運が良かった。すぐに洗面台へ行って顔を雑に洗い、キッチンで水道水をがぶ飲みする。水が喉を通ると炎症が起きているせいか少しだけ痛んだが、それよりもひんやりとした感覚の心地よさが上回って、喉に残った吐瀉物の残り滓を洗い流すかのように飲み続けた。

 二階の自室へと向かい、電気もつけず僕はベッドに寝転んだ。久方ぶりに全力疾走したせいで身体中のあちこちが疲労しきっている。長時間の運動により足裏は悲鳴をあげているし、多量の汗でシャツが体に張り付いて不愉快極まりなかった。風呂に入るべきだったが、立つこともままならなかったし、何よりそんな考えがまずなかった。

 もういっそのことこのまま眠りについてやろうと、投げやりになって目を閉じる。たまにはこういう日があってもいいだろう。完全に瞼を下ろしきると視界は暗闇に包まれた。

 その瞬間、あの屋敷の側に添えられてたものが乱暴に突き付けられたようにフラッシュバックして僕は勢いよく飛び起きてしまった。静寂を貫いていたはずの室内には過呼吸気味の悶え苦しんだ僕の声だけが僅かに響く。必死に掻き消そうと目を閉じて、頭の中を何度も白く塗りつぶしてゆくがそれは全くの逆効果だった。かえって今日この目で見てしまった光景が鮮明さを増して次々に脳内へ浮かび上がってきてしまった。

 そしていつの間にか僕は涙を溢していた。堪らなく悲しくなって一人では抱えきれないほどに肥大化し、自分でも意味が分からないほどに目頭が熱くなって溢れ出ていく。アリスが死んだという事実に今更実感が伴ってしまいとてつもない絶望に襲われた。僕は初めて、死というものがどれだけ悲観することで、想像を絶するような痛みと重荷を残された者に与える現実かを知った。

 そして僕は初めての経験に戸惑っていた。この気持ちにどうやって折り合いをつけて対処すべきがわからなかった。ただでさえ善意が欠けている僕は他人の感情や心情に共感できないのだ。優しさという単純明快なものですら分からない僕が正しい対処法を知っているはずがないだろう。

 止めどなく湧き出てくる感情に僕はどうするべきか何も分からなかった。未だに頭の中は今日見た光景に支配されていて、思考する余裕さえもなかった。

 それはたまたまだった。偶然、視界の隅に写った本棚に吸い寄せられるかのように視線が移動した。何だか無性にきちんと整列された本棚に苛ついてしまった。物語なんてくだらない、全てただの紙屑だと僕は思った。

 ここからは想像がつくだろう。目に飛び込んでくるあらゆるものをぶっ壊したい衝動に駆られ、僕は我を忘れてその破壊衝動に身を任せた。それは悲惨な光景だっただろう。それほどまでに僕は追い詰められていたのかもしれない。

 破壊衝動の赴くままに暴れていると、何も考えずに済んでとても楽だったが、唯一ある光景だけが僕の頭の中から離れたなかった。もしかすると、その光景が破壊衝動を継続させた原動力になったのかもしれない。

 それは焼け焦げてなくなった屋敷にはとてもじゃないが似つかわしくなかった。周囲は暗くネガティブな存在であるのに対し、それは一際生命力を放つように存在して綺麗だった。清らかな印象を与える細い茎から生えた白色の五枚の花びら、淡く華やかな存在のあるピンク色の花びら。

 あの屋敷の側には、白色のユリや淡い桃色のしたカーネーションがまとめられた花束が一つ、場違いな存在を放ちながら孤独そうに置かれていた。


 暗闇の中、窓から差し込んだ月明かりだけが僕を照らす。なぜか今日の月は近年稀を見ないほどに異様に光り輝いていた。きっとこれを見た普通の人間はこの光を美しいと感じるのだろう。まるで別世界へ誘われたかのようなその幻想的な美しさに魅了され、それまで感じていた苦しみから一時的に解放されるのだ。

 僕もその一人になれたらどれだけ良かったことだろう。誠に残念ながら僕の目には、その幻想的な光景や輝きが物凄く鬱陶しいもののように映った。思わず悪態を吐いてやりたいほどに煩わしかった。鬱陶しかったのでベッドの側に垂れている紐を引っ張ることでカーテンを閉め切った。ぐったりと力なくベッドに横たわりながら物が散乱した床をぼんやりと見つめる。

 かつてこよなく愛したはずの小説があられもない姿で置かれていた。形状や傷つき具合は実に様々で、手で引き裂くように破かれた文庫本、床に強く叩きつけられて折れ曲がってしまった単行本など、本当に僕がやったのかと疑ってしまうほどに悲惨な光景だった。だが不思議と後悔はなかったし、心底どうでも良かった。 

 ……。……喉が渇く。……腹の鳴る音が聞こえる。……睡魔に襲われる。

 なぁアリス、僕を構成する五感の全てが幾度もなく僕の邪魔をしてくる。この身体は僕のもののはずなのに、僕の心とは真逆の方向へ進もうとする。顔を上げたって前を向いたって意味なんかないのに、時間が経過してゆく度に「お前は生きているのだ」って脅迫してくるんだ。

 アリス、僕はどうすればいい? 僕は何のために生きなくちゃいけないんだ?

 こんな人として出来損なっているクズが何の目的もなく生きていたってどうしようもないだろう。

 なぁアリス、教えてくれよ。

 ふとアリスの微笑んだ顔が頭に浮かぶ。

 もう涙は溢れてこなかった。代わりに僕の口からは無意識に精一杯の願望が溢れ出た。

「……アリス。君に会いたい」

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