*** 二〇二〇年 八月二十三日 日曜日
アリスからショートメッセージが届いて二日が経過した。どうやら一昨日の夜頃に届いたらしいのだが、あいにく僕はSMS機能の通知はオフにしていたため確認したのは今日の朝になってしまった。アリスから連絡がくるとすれば電話もしくは今普及しているメッセージアプリからだと思い込んでいた。眠気覚ましで朝風呂に入った後、スマホの画面を確認するとSMSアプリの右端に件数が一件と表示されていたので不思議に思って確認した。基本的に僕はメールアドレスをどこかのサイトに登録してサービスを利用することなんて無かったし、僕は滅多に送りはしないのだが家族との連絡手段もメッセージアプリを用いていた。そちらの方が手軽かつ迅速に連絡を取り合えるのでメールやSMSを使うメリットはほぼ無かった。
そんな中で届いたショートメッセージだったので念のためSMSアプリを起動して内容を確認することにした。早速、差出人を確認するとアリスからのメッセージだったので僕は余計違和感を覚えた。気になるメッセージには一言『私を見ていて』と書かれており、僕の頭は軽く混乱に陥った。意味の分からないメッセージに僕はどう返信すればいいか分からなかったので、どういう意図があって送ったのかをメッセージアプリの方ですぐにアリスに尋ねた。しかし、十分ほど返信を待ったのだが返事が来るどころか既読さえつかなかった。しばらく考え込んだのだがアリスの意図を知るのにどうしても判断材料が少なかったため、僕は会って直接尋ねることにした。
駅に到着してぼんやりと構内を見渡すと、夏休みが始まった日に比べて人通りは少ないことに気がついた。全体的に数が減ったというよりかはきっちりとしたスーツ姿に身を包んだ社会人と私服姿の学生の割合が大幅に減少しているようだった。すでに早めの夏休みを終えてしまった学生はもう少し前の時間帯に登校していたのだろう。
無意識にゆっくりと時間をかけて息を吐いた。
僕もあと二週間もないほどの日数しかアリスと一日中過ごせる時間がないのだ。僕にはアリスを除いて居心地よく過ごせる相手がいないので放課後はいつだって時間が空いている。アリスに誘われたら僕は拒否しないで彼女の一緒に暇を潰すことを選ぶだろう。だがアリスには学校の友人がいるはずだから毎日会うなんてことはできないはずだ。自然とアリスと一緒に過ごす時間は減ってしまう事になる。それはほんの、ほんの少しだけ寂しいことではあるが仕方ないことだ。残り少ない休暇をアリスと過ごす時間に全て充てることに決めて、僕は行き交う人々の中にアリスの姿を探した。
真向かいの壁の高所に取り付けられた時計を見ると、ここへ来てから二時間ほどの時間が経っていた。さすがにそれほどの時間が経過すれば構内を歩く人々の年齢層の割合は変化していた。ここに到着した時には複数人で談笑しながら学校へ向かう学生服姿の中高生とびしっとスーツ姿に身を包んだ大人の割合が半々だったのだが、今の時間帯は全体的に数が減ってスーツ姿の人が断然多くなっていた。そんな意味の無いことに思考力をまわすことによって、僕は頭に浮かぶ最低最悪の状況を無視しようと意識的に現実逃避していた。あっちこっちに歩き回りつつ何度も周囲を確認したが彼女が来る気配はなかった。二時間経過してようやく僕は焦り出した。じわじわと汗が吹き出してきて、忙しなく何度も電話やメール、ショートメッセージが送られてきていないかアプリを開いて確認した。しかし、彼女から着信もメッセージの通知もなくメールも確認したが全て開封済みと表示されており、やはりアリスからの遅刻に関する連絡は今日に限っては何一つ見当たらなかった。とりあえずショートメッセージが届いてもすぐに確認できるようにバナー通知の設定をオンにしておいた。
アリスの到着がいつになるのか不明だったので僕は近くの喫茶店に入ることにした。壁に寄り掛かっているとはいえ、さすがに立ったまま二時間も待っていれば、足裏に痛みを感じてしまったり喉が渇いたりしてしまった。前々から気になっていた喫茶店がすぐ近くにあったのでそこで休憩を挟むことにした。
近付いてきた店員にアリスがいつ来ても分かるように待ち合わせ場所を見渡すことができる窓際の席がいいことを伝え、その座席へと案内してもらった。窓越しの僕がいた位置から三メートルほど先の改札口へと視線を向ける。この席からであれば、待ち合わせ場所と改札口の両方とも視線を動かすだけで確認できるので、アリスがどこから現れても見逃すことはないはずだ。
ちょうど電車が駅に到着したばっかりなのか改札口からは人が溢れ出ている。地下鉄へと続く階段へと向かう人々やそのまま柱や壁に寄りかかって今日という日を一緒に過ごす相手を待っている人々など様々だ。時間が刻一刻と過ぎていく。
結局、アリスが集合場所に現れることはなく、僕は閉店時間までをコーヒーを飲みながらアリスの姿を探し続けることになった。
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