第12話 不穏
「僕の名前はパトリックだ。役職はアタッカーだ。今回集まった新人冒険者の中では一番の攻撃力を持っているはずだ。よろしくな、君達」
自信に満ちあふれた声が四人がけのテーブルの席でユウの正面に座っていた男から発せられる。
短い金髪を綺麗に整え顔立ちの整った男だった。身につけた装備は新人冒険者そのものである。またその顔や手をみると冒険者とは思えないほど綺麗なままなのが分かる。
もしかしたらまだ依頼を一度も受けたことがないのかも知れない。
その自信がどこから来るのか、ユウは少し不安になる。
「じゃあ次に大柄なお前、自己紹介よろしく」
そしていつの間にかパトリックはこの話会いを仕切り始めていた。
先ほど発表された一回目の仮組みパーティの仲間。そこには偶然にもユウの数少ない知り合いであるスノウとガッツの二人が含まれていた。
そして最後の一人がこのどこか偉そうな印象を与える態度のパトリックであった。
掲示された発表用紙を確認すると四人はすぐに集まり、酒場の四人がけのテーブルに腰を落ち着けたのだった。
その途端にパトリックが放ったのが先ほどの一言だった。
パトリックが次の自己紹介を促したの大柄の男とは、もちろんガッツのことだ。
命令にも聞こえるパトリックの横柄な言葉に気を悪くした様子もなく明るい声でガッツは簡単な自己紹介を始める。
「名前はガッツという。この街の近くの小さな村の出身だ。そこで冒険者の真似事のようなことをして生活していた。せっかくならちゃんとした冒険者になろうとこの街に来たんだ。よろしくな」
それを聞いたユウは彼の風貌に対してもっていた疑問が解けた。
新人冒険者とは思えない傷だらけの体。あれは街に来る前にも冒険者に近いことをやっていた時についたものなのだろう。
「で、役職は何をしていたんだい?僕と同じでアタッカーかな」
ガッツの横に座ったパトリックが疑問を挟む。
「分からん。村でも仕事は何人かでやっていたが特に役割などは振っていなかったからな」
「そんなことじゃ困るよ。ちゃんとしてくれなきゃ、仮とはいえ僕の初めてのパーティなんだからさぁ」
「とりあえずは魔法や弓などといった後ろからの攻撃はしたことがないな。前で攻撃するか敵や獲物の注意を引きつけることが多かった」
「ならアタッカーかタンクだね。僕がアタッカーだから、君は必然的にタンクになるよ」
パトリックは話し合いをするまでもなく役割分担を決めてしまう・
「分かった。敵の注意を引きつければいいんだな」
「そうそう、僕が攻撃する隙をつくってくれればいいんだよ」
「任せてくれ。最大限努力しよう」
ガッツはパトリックの我が儘にしか思えない言動についてなんとも思っていないようだ。
自己紹介が終わると先ほどユウとスノウにしたのと同じようにパトリックに握手を求めた。その顔に負の感情は全く見えない
いい奴だな…。ただ人の感情に疎いだけなのかもしれないけど。
ユウはガッツの人柄についてそんな結論をだした。
「次はお嬢さん、お願い出来るかな」
ガッツに対してよりいくらか丁寧な口調でスノウに自己紹介を促すパトリック。手招きするようかのような動きつきで。
無表情、無言で頷くスノウ。
「スノウ、見ての通り魔法使い。得意魔法は評決魔法と回復魔法」
短く抑揚のない小さな声で簡潔にスノウは答えた。
四人の間に音がなくなり周りの酒場の喧噪だけが聞こえるようになる。
「えっと…」
さすがのパトリックでもスノウの淡々としすぎた自己紹介にすぐにはコメントをすることができない。
そんなたじろいでいるパトリックに対してもスノウは目立った反応を見せない。
「じゃ、じゃあ次。お前」
とりあえず知りたいことは知れたのかパトリックは最後となった正面二座るユウに目と右手の人差し指を向けてくる。さっきまでの取り繕った余裕はどこかへ行ってしまった態度だった。
そんな態度を多少不快に思いながらも、それを顔や動作に出さないように気をつけながら笑顔を作ってユウは準備していた自己紹介を口にし始めた。
「俺はユウ。役職としてはサポーターのような位置になるかな。能力は自分の姿を消すこと。戦闘能力はないけど罠や補助道具で援護することができる。よろしくな」
緊張で声が少しうわずったし、早口になっている。そんなことを思いながら途中で区切ることも出来ずに一気に言い切ってしまうユウ。
そんなユウの不器用な自己紹介を聞いたパトリックは隠すことなく一気に不満げな表情を顔一面に浮かばせた。
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