第11話 ガッツ
ユウはいつもと同じように目が覚めた。
だがその心情は普段とは全く違う。
緊張。
その一言に尽きる。
今日は仮パーティの発表がされる。そして顔合わせで問題がなければそのまま依頼を受けるという流れになるはずだ。
今までソロで活動していた、否、ソロでしか活動出来なかったユウにとってはとてつもなく重要な日だ。
今回こそ正式にパーティを組んでくれる人間を見つけなくては。
いつになくキビキビと朝食をとり支度をしていくユウ。顔合わせからそのまま出発することも考えて全身しっかりと冒険者装備である。
「よし」
声を出して気合いを入れる。
家を出て寄り道をせずに冒険者ギルドへとまっすぐに向かう。
このままだと集合時間よりだいぶ早くにギルドに着けるはずだ。
早めに到着しておくことで同じように早めに来た人間と少しでもコミュニケーションをとって知り合いを増やしておきたかった。
大人数の中で他人に話しかけるのは大の苦手だ。だが数人しかいないときにその中の話かけやすそうな人を選んで話しかけるくらいのことは出来る。
これがユウのコミュ力で出来る知らない人と話せるボーダーラインだ。
どうやって自己紹介するか、自分の能力についてどう説明するかなどを考えながら歩いていたらあっという間に目的地にたどり着いた。
いつもと変わらないはずの冒険者ギルドの入り口。だが今日はこちらを拒絶しているような気がしてしまうユウ。
軽く深呼吸してから入り口をくぐる。
入ってすぐに中にいる人の数を確認する。
ギルド内にいる人間は数えることができる人数だった。
今から出発しようとしている三人組のパーティ。そして依頼から帰ってきたばかりに見える二人組。
そしてユウの目的の場所にいる人間達。パーティの仮組みを待っていると思われる初心者冒険者だ。
その人数は二人。
その内の一人にユウは見覚えがあった。
昨日会った魔法使いの新人冒険者、スノウだった。彼女も早めに来たらしい。
そしてもう一人は初めてみる、見るからに巨大な男。身長は軽く二メートルを超えている。肩幅も広くがっしりとしている。
そしてなによりもその顔。初心者冒険者とは思えないほど傷だらけだ。
集合場所にいなければ歴戦の戦士にしか見えない。
ユウも集合場所に近づいていく。
足を進めながらユウは考える。
スノウは昨日面識がある。となると知り合いを増やしたかったらユウが話しかけるべきは大男のほうだ。
が、ユウの向かった先にいたのは大男ではなくスノウだった。
あんな怖そうな大男に話しかけるコミュ力も勇気もユウには備わっていない。
「よう、おはよう」
明るく聞こえるように意識して声を張ってユウはスノウに話しかけた。
その声に反応してスノウがユウの来たほうに振り向く。
「おはよう」
昨日と変わらず抑揚のない平坦な声で挨拶を返すスノウ。左右で違う色を帯びた両目でこちらをしっかりとユウを見つめてくる。
その迷いのない視線にやはり少し緊張をもってしまうユウ。だがそれに気づかれないように会話を続けようとする。
「朝早いんだな」
「遅れたくなかったから」
「それにしてもだいぶ早いよ。まだ全然人が集まってないじゃないか」
自分もこれだけ早く来たことを自覚しつつ笑いながら言うユウ。
「気持ちの準備をしたかったから」
「気持ち?」
「今日から冒険者になるんだっていう気持ち」
知り合ってから一番感情のこもった声でユウは答えた。心なしか全身が硬くなっているように見える。
「スノウはまだ依頼を受けたことがないのか」
頷きで答えてくる。
「ま、まあ、今日はパーティを組んで依頼を受けるから。それに依頼のレベルも一番低いものだからそんなに心配しなくても大丈夫だって」
彼女の緊張をほぐそうとなんとか口を動かすユウ。
それを聞いたユウは首を横に振る。
「怖いわけじゃない」
「そ、そうなのか」
ユウは虚を突かれてしまう。
「冒険者として私はやらなければいけないことがある。だから今日はそのための始まりなの」
「やらなきゃいけないこと?」
今度のユウの疑問にはスノウは答えなかった。ただ無言のままユウを見ている。
「えっと…」
気まずさを誤魔化すためになにか話題がないかとユウは考え始める。
そんな時、
「お二人さんも新人冒険者かい」
ユウの後ろから腹に響くような低音の声が聞こえてきた。
ユウは振り向き。、スノウはそちらに視線を動かす。
そこにいたのは先ほどのいかつい大男だった。
「はい、そうです」
ユウが驚きから一瞬固まっているとスノウがその質問を肯定する。
「俺もそうなんだ。よろしくな、お二人さん」
傷がある顔に笑みを浮かべながら手を伸ばしてくる大男。握手を求めているようだ。
「よ、よろしくお願いします」
「よろしく」
ユウ、スノウの順番で握手を交わす。ユウはまだ多少ビビったままだ。
「そんな怖がらないでくれよ。取って食ったりしないからよ」
豪快な笑い声を上げながら冗談を飛ばしてくる。
それに対してユウは乾いた笑いで応じることしかできない。
スノウの表情に変化はない。
「おっと、自己紹介してねえな。俺の名前はガッツだ。改めてよろしくな」
そう言って大男、ガッツはもう一度手を差し出してきた。
「ユウです。よ、よろしく」
先ほどよりは柔らかくなった体で握手をすることに成功したユウだった。
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