第10話 緊急依頼
緊急依頼。
名前の通り緊急事態のときに発せられる依頼である。街や人通りが多い街道の近くなどといった場所にモンスター、しかも危険性の高い種類が出現したときにその討伐などが目的となる場合が多い。
そんな緊急依頼が出たらしい。
「内容は?」
驚いた様子もないままイヴはその依頼についてエルシャに訊ねる。
「ウタ森でのジャイアントスネークの討伐よ」
エルシャが切れ気味の息を整えながら答えた。
その回答にイヴがいぶかしむ。それは横で聞いていたユウも同じだった。
ウタ森とは昨日ユウが毒草採取にこの街のすぐ近くにある森だ。位置的にはこの街の近くなので緊急依頼の場所としてはおかしくない。
二人が違和感を覚えたのはその討伐対象だ。
ジャイアントスネーク、さっきイヴが討伐したものを街に運んだモンスターだ。
確かにジャイアントスネークは強力なモンスターではある。しかしそのランクは結局Bなのである。
つまりBランクパーティが十分に討伐できるモンスターだということであるAランクのイヴなら楽勝の相手だ。
Bランクパーティもこの街には複数いる。
つまり場所を考えると緊急依頼自体にはおかしなところはない。
だがモンスターのレベルを考えるとより適正のパーティがいるのだからわざわざイヴに緊急依頼を出さなくてもいいのではないか。
これがユウとイヴの二人の頭に浮かんだ疑問であった。
二人の顔からそれを読み取ったのかエルシャが先んじて言葉を発する。
「問題はそのモンスターの数なのよ」
「数?」
ユウは反射的に口にする。
エルシャはそれに頷きながら
「そう、数。現在ウタ森の近辺で確認されているジャイアントスネークは少なくても六体。もしかしたらまだ増えるかもしれないわ」
「六体…」
口が開いたままになってしまうユウ。
「だからこそAランクのイヴへの緊急依頼よ。もちろん他のいくつかのBランクのパーティにも依頼しているわ。けどあくまで森から出ようとする個体の相手をするのがメインよ」
改めてイヴをまっすぐ見るエルシャ。
「森の中の個体を討伐するのはあなたの役目よ、ユウ。この街唯一のAランク冒険者であるあなたの仕事」
イヴの返事は簡潔だ。
「分かった、すぐ支度する」
そう言って立ち上がる。そして酒場の入り口に向かって歩いて行った。
そしてそこにはユウとエルシャ、そしてイヴが頼んだ大量の料理が残されたのだった。
「ユウくんはちゃんとパーティ募集の登録できたの?」
「あ、はい滞りなく」
少しの間があいた後、唐突にエルシャがユウに問いかけた。
虚をつかれたユウの返事は変にかしこまっている。
「じゃあ、明日からパーティの仮組み期間だ。いい人と出会えるといいね」
「そうですね…」
ユウの返事はどこか空虚だ。
「そんなに気の抜けた状態でいるとケガするわよ」
それを見抜いたエルシャが軽い声で注意を飛ばす。
「すみません」
「イヴのことが気になるのは分かるけどユウくんは自分のことに集中。いい?」
「はい」
エルシャの軽い、だが的を射ている助言に目を覚ますユウ。
「ならよし」
今度こそ満面の笑みで笑いかけてくるエルシャ。
ユウも今日はもう祭を回ることをやめ、自宅に帰ることにした。
明日に備えて体調を万全にしなくては。
そしてパーティメンバーとなってくれる人を今回こそ見つけなくてはいけない。
テーブルに手つかずで残っていたハキ。
それを手に取り食べる。
これで気合いが入るかは分からないが、きっと入る。
そう思って一気に食べきるユウ。
そして入り口に向かって歩き出した。
そんなユウをエルシャは静かに、だが優しい目で見守っていたのだった。
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