第6話 スノウ
近づいていくとその人混みを形成している人達の様子がよく分かる。やはりと言っていいのか、ほとんどは昨日今日に冒険者登録をしたばかりと思われる人ばかりだった。
身につけた真新しい武具、緊張した表情、落ち着きのない態度がそれを教えてくれる。
その中に落ち着きをもって参加している人達がごくわずかいるのも分かった。俺のような仲間を探している冒険者だろう。
掲示板の真ん前まで人をかき分けて進んでいく。
掲示板をみると見慣れない紙が中央に堂々と貼ってあった。
<新人冒険者 パーティ募集用紙>
タイトルにはそうあった。
内容を読む。
歓迎祭中の新人冒険者達による即席パーティの結成。その管理や補助をギルドが行うという内容だった。
前回まではそれぞれの冒険者がそれらを行っていた。
このパーティ結成の習慣は冒険者同士の繋がりの強化など多くのメリットがあったがデメリットもあったらしい。特に被害が大きかったのが詐欺だ。
新人に紛れての即席パーティへの参加、そこからの報酬の詐取。
コーチングと称した金の巻き上げ。
パーティ内でのアイテムの法外な値段での売買。
依頼後にこの街に不慣れなことを利用して高額宿の斡旋。(新人にはギルドから狭いながらも宿の提供がある)
などを主に他にも多数の事件が起きたらしい。
なので今回からギルドが参加冒険者の一括管理を行い、犯罪の監視、抑止に貢献するということになったらしい。
登録はギルドの受付で出来るとある。
受付を見るとあちらはあちらで新人冒険者らしき人達が長蛇の列をつくっている。
あれに並ばないといけないと思うと今からからげんなりしてきた。
だが並ばないと始まらないのも確かである。
ため息をつき、深呼吸をする。
そして渋々と自分も列をつくる一人となる。
二時間ほど並んでようやく順番が回ってくる。新人ばかりだからか一人一人に時間が掛かってしているようにみえる。
並び疲れたが素早くカウンターの前に出る。登録手続きは数分もたたずに完了した。やはり新人が手間取っているのがこの列の原因だった。
テーブルに着いて手続き完了後にもらった一枚の用紙をみる。そこには参加を了承した旨とパーティを組む場合の方法が二つ書いてあった。
一つは冒険者が各々仲間を見つけてパーティを組むというもの。それだけだと以前と変わらないように思えた。だが読んでいくと違いがある。今手に持ち読んでいる書類、これがギルドによる証明書の役割をもち、パーティを組むときはこれを見せ合いお互いがこれをみせあうことを推奨していた。
二つ目はパーティの構築をギルドに一任するという手段だ。まずギルドにパーティ構築を願い出る。そうするとギルドがその冒険者達を適切に割り振ってパーティを組んでくれるらしい。
この仕組みはすごく嬉しい。
サポート系とはいえ全く戦闘が出来ない俺では直接パーティを組む相手を見つけるのは難しい。(ついでにコミュニケーション能力の低さもある)だがこれならギルドが組んでくれるのでパーティが組まれてから能力を説明することになる。説明時には不安がられるかもしれないが依頼中で自分の有用性を示す機会は確実に得られる。そこで挽回すればいい、いやするしかない。
そうと決まればさっそくギルドでパーティ構築を頼みにいかなくては。
書類から目を外して席を立つ。そしてカウンターのほうをみる。
…
…忘れていた。さっきまでのことを。
ギルドカウンターには相変わらずの長蛇の列が存在していた。なんならより長くなっている気がする。
またあれに並ばなければならないのか。
登録の段階で説明してくれていれば二度手間にならなかったのに。
嫌気を通り越してもう憂鬱だ。
だが並ばない訳にもいかない。
大きなため息をつきながら、改めてカウンターへの列の最後尾に向かう。
歩きながらもう一度書類に目を通す。通そうとする。
「おっと」
何かにぶつかって足が止まってしまう。
「きゃ…」
低い位置から小さく高い声が発せられる。
そこにはいたのは小さな女の子。
体のサイズに合わない大きく黒いマントを羽織っておりその下の服装はまったく分からない。街で売っている初心者魔法使い用のマントだ。初心者冒険者が多くいる今のギルド内には同じ者も見つけられるくらいありふれたものだ。
だがその顔は周りとはかけ離れて整っていた。まず目が引き寄せられるのは二つの綺麗な瞳。両方とも意識が吸い寄せられる魅力がある。だが色が違う。右目は深い赤色、左は鮮やかな水色。
髪は左目のような水色の長髪。明かりが反射してまるで紙が光っているかのようだ。
スッと通った鼻筋と小さな口。
そして改めて見える両目。それは動揺しているのか揺れている。
「ごめんなさい」
もう一度小さな声が聞こえてくる。
「あ、いや…」
少女の姿に見取れていたことで上手く返事ができない。
「こちらこそごめん。ケガとかはない?」
体の小ささからそんな心配をしてしまう。
「大丈夫です。本当に、ごめんなさい」
「いや、ちゃんと前を見てなかった俺が悪いから。本当にごめん」
「私もちょっと考え事してたので、ごめんなさい」
そういってローブから右手を出してくる。そこには一枚の紙が握られている。俺が先ほどまで見ていたものと同じ紙だ。
「君もパーティ組むのをギルドに依頼しに?」
「えっ」
手にしている紙をひらひらさせる。
それを見て彼女も状況を察したようだ。
「はい、それであの列に並ぼうかと」
そう言ってカウンター前の列を指さす。
「面倒くさいけどならばなきゃな」
「はい、そうですね」
頷きながらも彼女の表情からは嫌気のようなものは感じられない。というよりどのような感情も見られない。
不思議な子だな。
それが魔法使いの少女、スノウとの出会いだった。
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