第5話 悩み

 毒草採取の次の日は久しぶりに依頼を受けずにいた。

 収入の低い非戦闘系の依頼しか受けられない俺にとって一日分の実入りがなくなるのは正直痛い。

 だがそのダメージを受けてでも今日はやらなければならないことがあった。

 それは冒険者パーティを組む仲間を探すことだ。

 何度も繰り返しているが攻撃能力皆無の俺がパーティを組むのは非常に難しい。

 戦闘経験がないせいでギルドに仲介をしてもらうことは出来ない。そしてこの世界に碌な知り合いがいないから人づてに探すことも出来ない。

 しかし、今日に限ってはそんな俺でも仲間を見つけられる可能性が存在する貴重な日だった。

 歓迎祭。

 名前の通り、新しくこの街を訪れた人達をもてなしこれからの街の発展を願うという意味を込めて開催されるお祭りだ。

 この祭の間は周辺から多くの移住者、観光客がやってくる。

 つまりこの街に来て新たに冒険者を始めようとする人たちも普段に比べて格段に数が増える。

 この新人冒険者達も街に知り合いがいなければ当分の間はパーティメンバーを探すのに苦労するはずである。(ギルドの仲介はある程度の実績をつくらないといけない)

 だが全くの素人である彼らはいきなり一人で依頼を受けることを躊躇する場合が多い。

 よって歓迎祭中は新人冒険者達による即席でのパーティ募集が乱立する。そして非戦闘系や戦闘系でも簡単なものに挑戦する。

 そういったパーティに参加して冒険者仲間を探すのが今日の俺の目的だ。普段は新人が来ても分からないし、分かったとしてもいきなりパーティに誘うのは無茶苦茶ハードルが高い。

 だが今日ならハードルはものすごく低い、というか存在しないようなもんだ。

 これだったら攻撃能力なしの俺でもパーティを組める。そこで役に立てば正式にパーティを組めるはずだ!

「よし!」

 両手で自分の頬をたたいて気合いを入れる。そしていつもより勢いよく扉を開け自宅を出る。目的地は冒険者ギルド。

 家賃が低い街のはずれの集合住宅の一部屋に俺が中心部にある冒険者ギルドに行くには街の大通りを通るのが近道になる。

 街をあげての祭が開かれているとあって大通りは多くの人でごったがえしている。道の両端には多くの出店が並んでおり、食欲をそそる匂いがあちこちから漂ってくる。

 しかし出店を回って祭を楽しむ余裕は俺にはない。

 誘惑を振り切りつつ目的地へ足を止めずに道を進む。立ち止まってしまわないように早足ぎみで。

 冒険者ギルドに併設されている酒場も昼間にも関わらず大盛況であった。

 普段は客の大半は冒険者が占めていることが常だが今日はそれ以外の客もたくさんいる。

 ハチマキを巻いた大工と思われる一団、子供連れの家族、周りをもの珍しそうに見ている観光客などだ。

 そんな様々な種類の声で賑やいでいる酒場を通り抜けて冒険者ギルドに入っていく。

 こちらも酒場に負けず劣らずの人ごみだった。だがここは無秩序に音が溢れてはいない。

 命がけの仕事である冒険者、その集会場だけあっていつも通り空気がひりついている。いかに祭の間といっても変わることはない。

 だが普段と違った様子がみられるところが二カ所。

一カ所は依頼の授受などを行うギルドカウンターだ。

 明らかに並んでいる人が多い。しかも皆、緊張しているように見える。冒険者登録をしようとしている新人達だろう。

 そしてもう一カ所が俺の目的。依頼書が張り出された掲示板の前に形成された人盛り。カウンターで登録が済んだ新人冒険者達が依頼を見ながらその場でパーティメンバーを募集しているのだ。俺のような新人ではないが低ランクで仲間を探しているような冒険者もいるだろう。

 このような景色は祭が開かれている今日からの三日間とその後の一週間くらいは続く。

 なんとしてもその間に仲間になる人間を見つけ出さねば。

 より強い緊張が体の中に生まれる。

「ユウくん」

 後ろから声をかけられる。

 振り向くとそこにはエルシャさんがいた。

「あれ?エルシャさんがこっちにいるのは珍しいですね」

「お祭りの間はこっちの手伝いをするのよ。酒場の方は臨時に雇った人に任せられるけどギルドの仕事は任せられないから」

「なるほど」

「そんなことより、ユウくんの目的はあれでしょ」

 エルシャさんが掲示板のほうを指さす。

「はい、なんとしてもパーティ仲間を見つけないと」

「頑張ってね。ただし…」

 エルシャさんがきちんと俺に両手を伸ばしてくる。俺の頬に触れる。さらにもう一段階緊張が強くなる。

 顔も近づけてくる。緊張が強くなる。なりすぎて辛い。

 痛みが走る。頬に。

 引っ張られていた。エルシャさんの柔らかい手に。

 緊張のせいでなにがなんだかわからない。

「そんな顔してたら誰も声かけてくれないし、声かけても良い返事もらえないよ」

エルシャさんが普段より三割ましの笑顔を向けながら明るい声をかけてくれる。

「あ、はい」

 返事も素っ気なくなってしまう。

 そんな俺に気を悪くすることもなく最後に肩を叩いてもう一度励ましてくれると自分の仕事に帰って行った。

 呆然としたままそんなエルシャさんを見送る。

 時間が少し経ってようやく正常な思考が戻ってくる。

 …確かに新人にこんな緊張した状態で話しかけに行っても上手くいかない。

 もっとフレンドリーに、フレンドリーにいこう、と心の中で念じる。

 幸いなことにさっきのエルシャさんの励ましへの緊張で仲間探しの緊張なんて吹き飛んだ。

 深呼吸する。そしてもう一回深呼吸。

 よし。

 そしてゆっくりと掲示板前の人達へ向けて歩き出し

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