第4話 ないものねだり
手に握られている採取したばかりの薬草をよく見る。薬草の状態は完璧に近い。これなら問題ないだろう。
その薬草をベルトに結びつけているポーチの中に納める。
「よし、あと三つだな」
次の日、イヴの言ってたことは無視して俺は予定通り森での薬草採取の依頼を受けた。
そして今、薬草を一つ確保して次の薬草を探し始めたところだ。
今回の目的は解毒草。名前の通り主にモンスターから受けた毒を取り除くためのポーション製造に用いられている。
依頼数は十個。確保数は七個だから後三個である。
主に木の根元付近に生えていることが多いので下を向きながら森の中を進んでいく。
その間、昨日の酒場での会話内容な今後の冒険者生活について考え始める。
昨日イヴに話したとおり俺がギルドに仲介してもらって仲間を見つけるのは難しい。自慢ではないが俺一人では低級モンスターの代表格であるゴブリン一体すら倒せない。
次に考えられる方法は自分で探すことだが…、これも難しい。
まず多くの冒険者はギルドに仲介してもらって仲間を探す。それ以外でパーティを組んでいる冒険者達は知人同士であることが多い。またはその知人に紹介してもらうなどだ。つまりは冒険者同士の人脈によるものだ。
この世界に来て間もない俺にはそんなものはないに等しい。
唯一知り合いの冒険者であるイヴはソロ冒険者だしその態度も相まって仲の良い冒険者もいないらしい。
そのイヴと組むのも無理だ。Aランク冒険者の依頼なんていきなりついて行ける気がしない。なにより冒険者登録をした際にイヴに断られている。(自分でこちらの世界に呼んでおいてだ)
という訳でこれらの方法も不可能だ。
次の解毒草を見つけた。生えている木の根元の前でしゃがみ込んで採取を始める。
思考を打ちきって採取に集中する。そんなに難しい作業ではないが失敗してまた探すところからやり直しになるのは避けたい。
数分後、無事に採取を終了し先ほどと同じくポーチにしまい込む。
あと二つ。
これから先、俺はどうなるのだろう。
イヴに無理矢理された冒険者。とりあえず今はEランクの戦闘がいらない依頼を受けることでなんとかぎりぎり生活できている。
しかし、戦闘ができない以上冒険者ランクを上げることは難しい。そうなると冒険者をやっていては今以上の進歩が見込めない。
別に生活が安定しているからそれでいいといえばいいのだが…
この先なにがあるか分からないのだ。
だからこそ蓄えをつくっておきたいと思う。だがEランクのままではそんな余裕がないのだ。
どうにかする方法はないのだろうか。
また解毒草を見つける。今までと同じ要領で数分かけて採取しポーチに収める。
あと一つ。
最後の一つを探し始めながらまた思考の中に意識を沈めていく。
冒険者ではEランクの依頼しか受けられず、生活に不安が残り続けてしまう。
かといってより上位ランクの依頼を受けるには当たり前だが冒険者ランクを上げなければならない。
戦闘力皆無の俺では単独でのランクアップは不可能。パーティを組むのは現状相当難しい。
八方ふさがりだ。
最後の一つを見つけ採取する。これで今日の依頼数の確保できた。後は街へ帰りギルドに納品すれば依頼達成だ。
森の出口を目指して進む。
いっそのこと冒険者を止めるか。そんなことも考える。
街の中なら他にも仕事はたくさんある。無理に冒険者をやる必要はないかもしれない。
だけど…
俺はこちらの世界に来たことで冒険者用のスキルを二つ獲得していた。どちらも戦闘には不向きなものだが、かといって冒険者以外ではなかなか使い道がないのも事実だ。
だからこそ冒険者を止めることはどうしても躊躇してしまう。
まだもう少し冒険者をやってみるか、そう決める。結局その結論で終わる。
この一連の思考の流れも何度目だろう。けど毎回、先送りにして冒険者を続けている。
自分の決断力のなさに少し憂鬱になる。
その時進んでいる先の木々の中から声がした。意味のある会話をしているようには聞こえない。そもそも声が明らかに人のものではない。
足を一度止め、そこから忍足で声のするほうへ近づいていき、木の裏からその様子をうかがう。
そこには数匹のモンスターがいた。人間の腰ほどの身長で全身が黒ずんだ緑色をし、片手には森の木と石からつくったと思われる混紡を持っている。
低級モンスターの代表、ゴブリンだった。
数匹でなにかしゃべっている。もちろん内容は全く分からない。だがそれでも特に問題はない。
問題なのは森の出口への道を占拠されていることだ。森に入ったときにはいなかったのでどこかからやって来たのだろう。
ため息がでる。ここから奴らにばれないように道を変えて帰ろうとすると日が暮れてしまう。夜行性のモンスターも多いのでそのような事態は避けるに超したことはない。
であればとれる手段は一つしかない。
久しぶりに使うか。
持っているたった二つの冒険者スキルのうちの片方を使うことにする。
足音を立てないようにしながらゴブリン達から距離をとる。そして意識を自分の中に集中しスキルを発動させる。
その瞬間、視界の色が消失する。
そして改めてゴブリン達の方へ歩いて行く。今度は足音など全く気にせずに。
ゴブリン達の前に出て、そこを通り過ぎる。
彼らが俺に気づいた様子は全くない。
ゴブリン達を通り過ぎてある程度進んだところでスキルを解除する。と同時に視界に色が戻ってくる。
「ふう」
緊張が解ける。
これが俺、蔵本優が持つスキルの一つ、気配遮断だった。使用中は透明化、無音はもちろん熱遮断も行われるので熱感知をするモンスターにも見つかることはない。
イヴ曰く、相当なレベルなものなようで、もし攻撃スキルも同時に持っていればあらゆるモンスターを気づかれることなく討伐出来るらしい。(残念なことにその攻撃スキルをもっていないのだが)
「はあ」
攻撃スキルさえあればなあ、と何度目かも分からない無い物ねだりをしてしまう。
とりあえず帰り道をまた進み始める。
なにかこのスキルが生きる仕事が見つからないかな。
また何度目かも分からない願望が頭の中を埋める。
だが次の日、彼の前には今までにない完全に初めてとなる転機がやってくることになるのだった。
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