第3話 ぼっち

「で、やっぱりユウはまだEのままなのね。さっさと上げなさいよ」

「だからねイヴ、そんな簡単に冒険者ランクは上がらないものなの」

 破壊したテーブルから離れ、改めて俺、イヴ、エルシャさんの三人で新しい席に着き直した。

 席について各々が注文を終えるとイヴは改めてユウの冒険者ランクの話を持ち出しはじめた。そしてユウのランクが上がっていないことを知るとまた無茶ぶりを言い出したのである。

それを聞いたエルシャさんがまたイヴを諫めてくれている。

 俺は先に届いた酒を飲みながら二人の会話を静かに聞いていた。下手に会話に混ざって矛先がこっちに向くのは避けたい。

「はい、おまちどうさまー」

 横から声が挟まれる。注文した料理が届いた。イヴは会話を一度切り上げて料理に注意を移す。

 俺が頼んだのはいくつかの簡単な酒のつまみのみ。イヴにおじゃんにされたとはいえ半分は魚料理を食べたから腹はある程度満たされていたからだ。

 それに対してイヴはがっつりと晩飯を注文したようだ。肉に魚、付け合わせの野菜料理、そしてデザート用と思われる果物。成人男性でも食い切れるのか怪しく思える量だ。

 その量に臆することなく食べ始める。(自分で頼んだのだから当たり前といえば当たり前だが)

 短い間、イヴは無言になって食べることに夢中になっていた。ものすごい勢い料理を口に入れていく。ちゃんと噛んでいるのか心配になる。

 イヴの横に視線をずらすとエルシャさんも隣の暴食娘に目を向けている。その表情は穏やかで暖さに満ちているようにみえる。先ほどテーブルを割った後に慰めたときも思ったがイヴに接するときのエルシャさんは本当に…。

「…母親みたいだ」

「「?」」

 二人が一緒にこちらに顔を向けてくる。

 やばい、考えていたことを口にしてしまった。

「なに?今なにか言った?」

 口に含んでいた分を飲み込みきると疑問を発するイヴ。

「いや、なんでもないよ、なんでも」

「嘘よ、絶対に嘘」

 イヴがこちらをにらむ。完全にこちらを信じていない眼だ。だが思ったことをそのまま言ったら即暴力が飛んできかねない。

 どうする。どうやって誤魔化す。今日一番ユウの脳が高速回転を始める。

「なに、なんか言ったらまずいことでも考えてたの?」

 返事の遅さを怪しんだイヴの視線がより強くなる。

「独り言じゃない?ユウ君、割とそういうところ寂しいところあるから」

「…たしかにそうね、ユウって人と話すの苦手そうだもんね」

「言いたい放題だな!」

 いきなり槍が飛んできて面食らう。しかしあまりにも酷い言いぐさじゃないですかね。口答えする気力も起きない。

 イヴはそれで納得したのか食事を再開する。

 ふと視線を感じてそちらをみるとエルシャさんが小さくガッツポーズをしていた。(隣のイヴは食べるのに夢中で気づいていない)

 おそらくイヴの注意をそらしたことを誇示しているのだろう。確かにエルシャさんのおかげでイヴの訴追から逃れれることができた。

だがそれ以上に受けた精神的ダメージが大きかった。たしかに人と話すのは得意ではないけれども!だからといってそれを直接言われるのは普通に傷つく。

 エルシャさんに悪気どころかむしろ助けようとしてくれているところが余計に辛い。その証拠があのガッツボーズだ。

 その後は特に何もなくイヴが食べ終わるのを待っていた。俺は傷心を酒で癒やしながら、エルシャさんはイヴの食べっぷりを楽しそうに眺めながら。

「ごちそうさまでした」

「はい、おそまつさまでした」

 イヴが全ての料理を食べ終わる。満足、とその顔には書いてある。

「ユウは明日どんな依頼を受けるつもりなの?」

食後の飲み物(砂糖たっぷりのコーヒー)を手にしながら聞いてくるイヴ。

「今日と同じで森での薬草採集にするつもりだけど」

「薬草採取って…。もうちょっと貢献度を稼げるやつにしなさいよ」

 基本的に依頼を達成することで貢献度を得ることができる。それを一定値ためた後、ギルドから力試しの意味をもった依頼を与えられ、それを達成することで冒険者ランクを上げることができる。

つまりイヴはもっと早く貢献度を稼いで早くランクを上げろと言いたいのだ。

「いや、お前も知ってるだろ?俺には攻撃系のスキルはなんにもないんだよ」

「だから?」

「いやだから、貢献度の高いモンスター討伐系の依頼は俺には無理なんだって」

 イヴは首をかしげる。

「ん?だったらパーティを組めばいいじゃない」

 こいつ!

 心の中で全力で叫んでしまう。

「あのねイヴ、あなたは一人で問題ないから分からないだろうけど冒険者は基本的に知らない人とパーティを組もうとはなかなかしないのよ」

「そうなの?」

「そうなのよ」

「じゃあ、ここでパーティを組みたい人はどうするの?」

「ギルドに紹介してもらうのが一般的かな」

 エルシャさんのフォローに素直に疑問を投げていくユウ。

 本当に今まで一人でやってきたんだな、と改めて思う。

「じゃあ、だれか紹介してあげたら、エルシャ?」

「そうしたいのは山々なんだけどねぇ…」

 エルシャさんが言いよどむ。

「どうしたのよ?」

「ある程度の実績がないとダメなんだってさ」

 エルシャさんの代わりに俺が答える。

「実績?」

「Eランクなら迷い込んだゴブリンやスライム単体の討伐とか」

「それ位ならEランク一人でも出来るんじゃない?」

「普通のEなら、ね」

自嘲気味に答える。そう、普通のEランクならそれ位できる。攻撃が不得手な後衛でもそれをこなすくらいは出来る。(それで最低限の攻撃能力、自衛能力を示すことが出来る)

だが

「俺にはそれのレベルの攻撃能力すらないんだよ…」

「あ、そういえば」

 イヴが今思い出したかのように呟く。

そう、だからおれはパーティを組むのが相当困難なのだ。

イヴのように望んで一人でいるわけではなく、パーティを組みたいが組めない俺。

つまり俺は冒険者のなかでぼっちなのである。


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