蒼白なるファセラ =エーデムリング物語・3/2=

わたなべ りえ

序章

ファセラの名 

 ファセラ 


 エーデム王族は、親が子供に名を与える。

 親は多くの場合、古の偉人や祖先から名をもらい、子に授ける。

 魔族はエーデム族に限らず、本当の名前を偽るのは恥とされ、親から与えられた名前を大事にするものだ。

 だから、親は名をつける時は慎重になり、決して、不吉な名前をつけないよう心がける。


 例えば……ファセラのような名前だ。

 


 かつて、セリスの父・アル・セルディンとファセラは王位を争った。

 アル・セルディンは、ファセラの王子としての立場を尊重し、彼に地位を譲ったが、彼はそれをよしとはしなかった。

 無謀にも、王族としての能力を試す行為にでて、命を落としたのである。

 王族の中では、ゆえにファセラの名前は封じられている。 

 そして、この事件の教訓は、多くのエーデム族に語られている。

 エーデム王族には、多くの民に愛され、名を残した名君もいたが、ファセラのように反面教師として語られる者は稀である。

「だから、身のほどをわきまえるのだよ」

 と、どこの親でも子供に言うのだ。

 もちろん、セリスはそのようなことを言われたことはない。

 父がそのような話をするはずはなかった。

 アル・セルディンは、甥のファセラ・エーデムをこよなく愛していたからだ。



 残された父の日記には、王位を譲ったにもかかわらず、それに満足せずに、自身の力を試そうとして死に至ったファセラの気持ちを全く理解できず、嘆く言葉が綴られていた。

 父は、エーデム族の魔の力を当たり前のように持っていた人物だった。

 エーデム王となったセリスは思う。

 今となっては、エーデム王族は皆、ファセラなのだ、と。

 多くの民が王族に望んでいる能力を、誰一人、持つことはない。

 そして、多くの民が、身のほどをわきまえる王族を望まない。

 かつて、この世界を作ったとも言われるいにしえの力を、脈々と伝えることをエーデム王族の血に望むのだ。

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