『忘れ物』



目が覚めて、白い空間に僕はいる。だけど、目の前にはいつもの家の家具が並んでいる。お父さんもお母さんもお姉ちゃんもいるけれど、まるで僕を無視するように会話をしている。


それに少しだけ心が痛いな…なんて思っても僕は何も気にしないでテーブルで食事を取った。


食事を食べたら次はテレビを見ている。僕の好きなアニメがやっていて、それに齧り付くように見て、主人公と同じように悪者退治したい!…なんて考えている。


アニメが終われば次は何をしよう?…そうだ、宿題だ。『勉強は大事だからね』と塾にも通わされたけど結局長続きはしなかった。だって、勉強よりも遊んだほうが楽しいから!洋平くんや、麻里子ちゃんと遊んでいるとすぐに日が暮れて帰らないといけないけど。


算数のドリルを解いていると、お姉ちゃんは制服に着替えて出て行こうとする。陸上部?ってのに入っていて、今月末は大会があるそう。走るのが早くて、いつも僕は置いてけぼりになっちゃう。お母さんが慌ててお茶を作って水筒に入れているけど、忘れていたらしい。それもあって、お姉ちゃんはバスを一本遅らしちゃったみたい。お母さんもおっちょこちょいだなぁ。


そうしていると眠たくなって目を閉じて。明日も楽しい時間があればいいな…なんて考えて落ちていく。





目が覚めて、白い空間に僕はいる。だけど、目の前にはいつもの家の家具が並んでいる。お父さんもお母さんもいるけれど、まるで僕を無視するようにそっぽを向いている。


それに少しだけ心が痛いな…なんて思っても僕は何も気にしないでテーブルで食事を取った。


食事を食べたら次はテレビを見ている。僕の好きなアニメがやっていて、それに齧り付くように見て、主人公と同じように悪者退治したい!…なんて考えている。


アニメが終われば次は何をしよう?…そうだ、宿題だ。『勉強は大事だからね』と塾にも通わされたけど結局長続きはしなかった。だって、勉強よりも遊んだほうが楽しいから!洋平くんや、麻里子ちゃんと遊んでいるとすぐに日が暮れて帰らないといけないけど。


漢字のドリルを解いていると、お父さんは『仕事が入った…行ってくるよ』とため息混じりに呟いて、とぼとぼと出かけてしまった。お母さんはテーブルに伏せていた。


そうしていると眠たくなって目を閉じて。明日も何かあればいいのにな…なんて考えて落ちていく。





目が覚めて、白い空間に僕はいる。だけど、目の前にはいつもの家の家具が並んでいる。お父さんもお母さんもいるけれど、まるで僕を無視するように無言でいる。


それに少しだけ心が痛いな…なんて思っても僕は何も気にしないでテーブルで食事を取った。


食事を食べたら次はテレビを見ている。僕の好きなアニメがやっていて、それに齧り付くように見て、主人公と同じように悪者退治したい!…なんて考えている。


アニメが終われば次は何をしよう?…そうだ、宿題だ。『勉強は大事だからね』と塾にも通わされたけど結局長続きはしなかった。だって、勉強よりも遊んだほうが楽しいから!でも…いつも誰とあそんでたっけ?


理科のドリルを解いていると、お母さんが『夕飯のお茄子買い忘れたから言ってくるわね』って言って忙しなく出て行った。お父さんは一緒にいるけど、何か緑の用紙に書いているみたい。


そうしていると眠たくなって目を閉じて。何か忘れていたけど、まぁいいか…なんて考えて落ちていく。





目が覚めて、白い空間に僕はいる。だけど、目の前にはテーブルと椅子があって、料理が置いてある。お父さんもお母さんもいるけれど、まるで僕を無視するように会話をしている。


それに少しだけ心が痛いな…なんて思っても僕は何も気にしないでテーブルで食事を取った。


食事を食べたら…何して遊ぼうかな。どうやって時間を潰していたか忘れちゃった。


…そうだ、宿題だ。『勉強は大事だからね』と塾にも通わされたけど結局長続きはしなかった。でも時間は沢山ある。


プリントを解いていると、お父さんとお母さんが喧嘩をしている…。『由美子が死んだのはお前のせいだ!』とか、『男がいるのはわかっているんだからな!』とか…。由美子って誰だろうね?男って誰だろうね?


そうしていると眠たくなって目を閉じて。何も考えることなく落ちていく。





目が覚めて、白い空間に僕はいる。目の前には何もなくて、お母さんしかいない。だけど、まるで僕を無視するようにこっちを見るだけで反応しない。


それに少しだけ心が痛いな…なんて思っても僕は何も気にしないぼーっとしている。


だけどお母さんは『お父さんも由美子もいなくなって…こうなったら』って言ってどこかに消えちゃった。元々2人だけなのに変なの。


そうしているとただ意識は落ちた。





目が覚めて、赤い空間に僕はいる。目の前には何もなくて、お母さんしかいない。だけど、何かに吊られているだけで反応ひとつしない。


それに少しだけ心が痛いな…なんて思っても僕には何もできない。


だけどかけてあるロープと踏み台を見て、お母さんと同じことをすれば良いのかな?って思って首に輪っかを通してみた。


そうしてみると呼吸が出来なくなって意識が飛んだ。





目が覚めても黒い空間に僕だけいた。だけど感じるんだ。何かはわからないけど、暖かかった何かが僕を包んでいる。


そうしていると身体がふわりと浮かんだ気がした。



○ーーーーーーーー○



「火葬は終了しました。香苗さんと翔真くんは天国であなた方を見守ってくれていることでしょう」



男は泣き崩れた。たった一言、それを言わなければ良かった。本当は不倫なんてしてなかった。それは分かっていたはずなのに、口論になり、離婚届を勢いで出してしまった。


由美子が死んだのは香苗のせいじゃない。バスの運転手の過労のせいだ。


男は後悔する。だけど戻らない。それが現実だから。全てが終わって男はその場を後にする。


その夜、駅のホームで男は生涯を終えたーーーーーー。

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