『固有アレルギー』
『もしもこの世界に異能力があったなら?』
私は迷わず『絶対防御』みたいな…そんな力が欲しいだろう。だが、そんなことはなく…はない。
『異能は無理だけど、代わりにアレルギーにしといたわ!』
なんて神が言ってそうな、そんな世界だ。クソッタレも甚だしい。
「私は山本茜です。固有アレルギーは『異性と皮膚接触する』ことです!よろしくお願いします!」
パチパチと拍手が聞こえてくる。今日からここが新しい職場…私は上下長袖に身を包み、手袋をして、マスクを付ける。するべき仕事は工場での梱包作業だ。前職も同じような職場で、契約期間を終了し、次のところで働いている。
「では、朝礼を終わる、作業を開始してくれ。山本さん、中平主任について仕事を教わってくれ」
「はい。中平さん、今日からよろしくお願いします」
「中平です。固有アレルギーは『数字を読み上げる』こと。まぁ、この仕事には関係ないですがね」
アレルギーは先天的、後天的に発生する、いわば身体の防衛機能だ。しかし、誰しもが固有アレルギーという人の業のようなものを持って生まれてきて、それは子宮内で胎児の時に分かるという。
私のように『異性と皮膚接触する』…と言うのは子供を作る行為もしにくいし、何より男の子の赤ちゃんを産む時に接触してしまう。生まれながらにして子供の作りづらい存在となってしまう。だからこそ、手袋は必ず身につけるし、結婚相手も子供が居なくてもいいと言う方が気が楽だ。
一方で中平主任のような『数字を読み上げる』というものもあれば、『30度以下の水を浴びる』等の固有アレルギーが存在する。
程度にもよるが、政府の指針に当てはまれば給付金をもらうことができ、それだけで生活する人もいるようだ。
当たり前のように『固有アレルギーは…』と自己紹介する時は言っているのに私自身疑問に感じない。
これが異能力だったら…と考えてはみるものの、そんなことは覆せないから考えるだけ無駄だ。
とそんなことを思っていると、突然扉が開かれて同じ仕事場らしき人が入ってくる。
「中平主任!!」
「ど、どうした?何かトラブルか?」
「急患です!田島さんが…『素足を床につける』ことを破ってアレルギー症状が出ました!…靴下に穴が空いていて、それで…」
「彼は何回目だったか…」
「回数までは…とりあえず全身蕁麻疹で呼吸困難ではない感じです」
「7回以内だな。とりあえず病院にて治療を受けてもらわないとな…すまないが、山本さんは副主任の指示で今日の仕事をしてくれ。私は急患の対応をするから」
「わかりました…」
人は一生のうちに固有アレルギーが10回破られたら死ぬとなっている。それが神の意思かなんなのかはわからない。しかし、それが当たり前の世界なのだから割り切る他ないのだ。
「よし…仕事がんばろう!」
だから、こんなことは日常茶飯事。今日も今日とて仕事に励むのだ。
そんな世界でも生きてはいけるのだから…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます