紺野館長が会議の用を済ませたためか、席を離脱し会議室を後にする背中を二人は思い思いの目で見送る。

 館長の足音が小さくなり、完全に足音が聞こえなくなったのを見計らって泉田が会議室で書類を片付ける石川に話しかけた。

「さっきの館長の発言聞いたか?」

「は、はぁ。館長の発言……ですか」

 石川は少し困ったような素振りで答え、書類を片付ける手を止めて泉田の発言に注視した。

「そうだ、館長のあの発言さ」

「あの……発言ですか……一体どの発言のことでしょうか」

「もったいぶった言い方するんじゃないよ。館長が言っていたじゃないか、“誰に頼るかなんて、そんなの決まっておる”っと。端から館長は僕らの意見なんか聞く気がなかったのがよーくわかる。まるで議論の余地がないじゃないか」

 興奮ぎみに早口で話す泉田に、石川はなだめようとする。

「そんなにカッカしないでくださいよ、泉田さん。それに‥‥館長と安田孝昌さんは仲が良いらしいのは泉田さんもご存じなはずです。ですから……その‥‥議論の余地が省けただけ考えるものが減って、楽に感じませんか?」

 と、沸騰する頭で話す泉田を落ち着かせる。

 それでも泉田は不服らしく、「それはそうなのだが‥‥」とボソボソした力ない声で答えた。 

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The art restoration 明智風龍 @aketi0906

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