第2話

「なあなあ。聞いてくれた?雫さんによー」


そう言って俺に肩を回してきたやつは俺の親友である浪川暁斗。

そして生徒会長である白石雫の彼氏でもある。見た目は少しチャラ男のイケメンという感じだ。

東京のスカウトみたいなイメージを持ってくれればいい。


「別に俺に聞かなくても良かった気がするんだが」

「だってさー連絡しても既読しかつかないんだよ。振られたかと思ったんだよ」

「振られるわけ無いだろうが。あの雫先輩が浮気するわけがないだろうが」


はあ頭痛くなってきた。なんか日本語があやふやになってきた。


「大丈夫かお前?」


どうやら俺がおかしいことに気付いたのか俺に近づいてきて額に手を当ててくる。


「熱は…ないな」

「あったら学校に来ないだろう。単純に疲れたからだ。疲労がぬけてないんだよ」


そう言って俺は机に突っ伏す。これだけの動作で眠気が襲ってくる。


「俺寝るから。一時間目が始まったら起こしてくれ」

「え、あっちょっと」




それから何分経ったのだろうか。教室が騒がしくなって目が覚めた。


「あれ?今何時だ?」

「まだホームルーム前だから大丈夫だけど……」


そう言って少し言い淀む照史に対して俺は


「なんかあったのか?」

「あったていうか、ついさっき先生が入ってきてな。転校生がくるぞーって言ってどこかに行っちゃたんだよ」

「あーなんか雫先輩が転校生がくるって言っていたような」


俺は昨日の記憶を辿っているとなにやらそのようなことを言っていたような気がする。


「そういうのは先に言ってくれよ」

「知らんわ。俺だってはっきりとは覚えてないんだから」

「まあいいけど。転校生って女子かな?」

「んー確かそんなことまでは言ってなかった気がする」

「そうかー。女子だったら嬉しいんだけどな」

「お前雫先輩に殺されるぞ」

「うん男子の方がいい。絶対男子の方がいい」


そう言って身を震わせる暁斗。俺も一回こいつが後輩に声をかけていたのをみて雫先輩にボコボコにされているのをみたことがある。それはまあ恐ろしいものよ。俺はこの時絶対に雫先輩には逆らわないと誓った。


「席についてください」


そう言って担任が入ってきた。どうやらいつもよりも早くホームルームを始めるようだ。


「みなさんが盛り上がっているように、今日は転校生が来ます。本人の事情で中途半端な時期に来てしまったらしいので仲良くしてあげてください」


「なあなんでこんな時期なんだ?」


そう言って俺の脇腹をツンツンしてくる。めんどくさいことにこいつは俺の席の隣である。


「知らねえよ。ああなんか通信制から変えてきたらしいぞ」

「知ってるじゃねえかよ」


呆れたような視線を俺に向けてくるが俺は知らん。

「はあ」と大きなため息をついたところで状況は変わらない。とは言っても別にただ転校生がくるだけなのだが。後から考えてみればこの時の俺は本当に何を考えていたのだろうか。


「それでは入ってきてください」


そういって先生は教室の扉を開けて中に転校生を案内する。

クラス中の視線がに集まる。


「今日からこの学校に通うことになりました。黒羽愛羅といいます。これからよろしくお願いします」


そう言ってペコリと挨拶をする彼女に対してクラス中が騒がしくなった。

なぜなら彼女の容姿は誰もがみたことあるとても美しい見た目をしていたから。


「おいあの人って絶対……」

「ああ絶対そうだ。あの銀髪にあのスタイル間違いない」


クラス中が盛り上がる中誰かがポツリとつぶやいた。


「アイラ……」


と。

それは国内にとどまらず世界中に熱心なファンがいる5人組アイドルの人気No. 1アイドル。

街中を歩く人に聞けば10人中10人が知っているような名前だ。

そんな人間がこの学校にいるのだ。そりゃあ盛り上がるに決まっている。


「はーいみなさん落ち着いてください。みなさんが盛り上がるのも分かりますが愛羅さんはアイドル活動をしています。決して彼女を困らせないようにしてください」


正直そんなことを言っても誰がそれを守るんだって思ううんだがまあなんとなくうちのクラスに来た理由がわかった。

この学年は5クラスあるがそのうち4クラスが男性教師なのだ。アイドルとして顔が通っているため男性職員だとまずいと感じてうちのクラスにきたのだろう。

考えすぎかもしれないが。


「実は愛羅さんは4月からの入学予定でしたが個人の事情によって5月にずれてしまうことになってしまっただけですのでみなさん仲良くしてあげてください」


そう言って先生は実に良い笑顔を浮かべるが隣にいる愛羅は不満そうな顔をする。ちなみにこの時のクラスの男子の感情を表すとするならば


「あの顔尊い」

「かわいすぎて死ぬ。尊い」

「俺は2次元。2次元の嫁がいる。浮気できない」


などだ。とりあえず言えることは全員バカになったっていうことだ。


「それじゃあえー愛羅さんの席は……」

「俺の席の隣はどうですか?」

「いや俺の席の隣の方がいい」


そんなふうに誰が愛羅の席の隣に行こうかという戦争が始まった。第一次アイドル争奪戦の開幕である。


「えー愛羅さんはどこに座りたいですか?」


そんなことには聞く耳も持たず先生は愛羅さんに選択権を委ねる。


「そうですね……」


一瞬俺に視線が向いた気がする。

世界中の男子を虜にしたその笑顔を浮かべながら


「あの人の席の隣で」


そう言ってずかずかと俺の席に近づき。


「久しぶりだね。怜」

「ああ3年ぶりぐらいか」


そう言って俺は彼女に視線を向ける。

真っ先に思ったことは、あんまり変わってないなということだ。


「私たち幼馴染なので。じゃあ先生この隣の席でいいですよね」

「え?ええ」


そういって完璧な笑顔を浮かべる。

なぜかその笑顔に少し圧を感じたのは気のせいなのだろうか。

まあ俺にはクラスメイトから殺意、嫉妬などの感情が背中に突きつけられる。男子に限らず女子からもだ。

俺明日まで生きていけるのかな?

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