第一章 第二十一話 『モルフ』

 申し訳ございません。なろう更新に集中しすぎていてカクヨム投稿を完全に怠っていました。全165話分、一日5話分順次投稿していき、追い付かせます。


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『特殊細菌ウイルス『モルフ』に関する研究記録』


 我々は、宇宙から飛来した隕石、その中に含まれていた新種のウイルスの研究、実験により、素晴らしい事実が解明されたことを嬉しく思う。

 これが技術発展に繋がれば、医療の分野においても……いや、それだけではない。

 軍事の方面にも多様に扱える兵器ともなりうるであろう。


 このウイルスは、取り込んだ生物の体内構造を造り替えるという特質的な働きをする。

 それは、例えるならば蝶の幼虫が蛹となって、まるで別物の姿へと変異するようなものだ。

 故に、変異という意味合いを込めて、『モルフ』と名付けることとした。


 『モルフ』は、体内に潜り込んだ際、血中から脳へと移動し、生者の意識を途絶させ、自身の支配下に置こうとする働きかけをするために、感染者は基本、死に至ることとなる。

 仮死状態への移行も一部確認はされたが、被験者は皆すぐに脳死状態へと移行する為、最終的には死ぬこととなる。


 感染した際に、何より恐ろしいのは、人間の基礎代謝能力を妨げさせることだ。

 出血をした際、普通の人間は出血の血を止めるため、赤血球が凝固し血を止める働きをするが、感染者はウイルスの影響により、それができなくなってしまう。

 その為、少々の傷なら問題ないが、大怪我を負った際には、どうあがいても出血多量で死に至ることとなってしまうのだ。


 これはあくまで一部分であり、他にも感染者は生きたまま急激なカニバリズムに陥る現象も確認されている。

 カニバリズムに陥った感染者は他者へと噛みつき、喰らおうとする。

 噛まれた者は例外なく感染することとなるが、ここが重要だ。

 噛まれた感染者は、意識が混濁し、まともに力を出すこともできなくなってしまうのだ。

 それはつまり、抵抗することもできなくなってしまうのである。


 これが、『モルフ』に感染し、第一段階、ひいては『レベル1モルフ』へと移行するまでの過程となる。


 後述するが、『モルフ』には、レベル1〜5までの感染段階がある。

 通常の感染者に対しての最終地点は基本レベル4までとなるが、ここでは一つ一つ説明としていこう。


 まず『レベル1モルフ』について、これは感染者が死に至った後のケースである。

 死亡した感染者はそのまま『モルフ』により、脳を侵食され、ウイルス自身がその身体を操ることが確認されている。


 実際に十人の人間に対し、ウイルスを投入したところ、全員が同じ反応を示したことが分かった。

 死して動くことになった感染者は、ふらふらとした足取りで生者へと噛みつこうとする習性がある。

 これが何故なのか、その原因は未だ掴めていないが、ありうるとすれば他者への感染の促し。ウイルス自身が生存、繁栄するための行動と考えるのが一番の妥当性となる。

 その証拠に、『モルフ』の感染者同士では噛みつくことはなかったからだ。


 そして、『レベル2モルフ』へと移行した感染者は、前述記載の他者へと噛みつこうとする習性、それが極端に色濃くなりだす。

 感染者ではない人間に対し、噛みつこうとする目的を果たそうと足への神経が発達し、走ることを可能とするのだ。

 解剖による確認をしたが、どうやら足部分の筋肉に通う神経系が集中するように変異していることが見て取れた。

 この『レベル2モルフ』への移行だが、個体差によって時間差が発生することも確認されている。

 それは『レベル1モルフ』発症から一時間〜十時間の間が平均的であり、感染者は例外なく、次の感染段階へ移行することとなる。


 そして、『レベル2モルフ』から『レベル3モルフ』へと移行した場合、『モルフ』はより他者への摂食行動を行いやすくする為に、その身体全体の見た目に変異を起こそうとする。

 これは、十人の被験者に対し、実験を行なった際の事例となるが、十人中三人は腕に変異の様相を確認した。

 皮膚が剥がれ、人間の手はもともと何かを持つ、掴む等の役割を持っていたものが、鋭利なものへと変異したのだ。


 一体どのような物質に変えたのか、それはまだ確認が取れていないが、恐らく骨を変異させたのだろう。膨張している点を加味すれば、骨だけが素材ではないことは分かっているが、この点に関しては後回しとする。

 言うまでもないが、この状態の『モルフ』に切り刻まれた場合、対象者は感染することは必至である。


 他の十人中の四人は逆に、足への変異が確認された。

 まるで動物の足のように無駄な脂肪を省き、跳躍力を向上しようとしたのだ。

 時間を置き、観察したところ、その跳躍力は四メートルものジャンプを可能とした。


 残りの三人についてだが、これはむしろ『レベル3モルフ』の完成体と言っても過言ではない。

 他七人の特性を丸々体現し、弱点となる頭を守るような形状変異をしたのだ。

 もはやそれは、元の人間としての原形を留めてはいなかったが、生きた人間にとって、いや、武装した人間にとって、脅威となることは間違いないだろう。


 『レベル4モルフ』:この感染段階は、特殊な経過を用いて進行する現象だ。

 『レベル2モルフ』から移行する場合と『レベル3モルフ』から移行する場合がある為に、その能力はここではなく、別のデータにてまとめることとする。


 また、これらとは別に、人間以外にモルフのウイルスが適合するかについての実験も行った。

 実験対象は主に、動物、虫、植物の三種を対象に行った。

 結論としてだが、これは成功といってもいい程であった。

 まず、動物に対しての実験についてだが、犬、猫等の動物について、実際に実験を行ったところ、やはりカニバリズムを起こすキッカケとして、他の生物への捕食を試みようとする動きはあった。


 だが、あくまでそれのみとなり、人間のように何か特殊な形態に変異する等の特徴は見られなかった。


 次に、虫についてだが、これはかなり興味深い実験結果となった。

 家の中によくいるとされる、ハエトリグモを実験対象に使用したところ、変異としてかなり大きな変化を見ることが出来た。


 正に言葉通りの意味だが、食欲旺盛になり、大体は四〜五ミリ程度のクモが世界一といってもいいほど巨大なクモに変異したのだ。

 ハエトリグモは基本、巣を張らないクモとされるが、モルフに感染したハエトリグモは、およそ人間の手で引き千切ることが出来ない粘着性の糸を使って巣を組み上げることも確認できている。

 当然、肉食性の為、人間でさえも襲うようになっているのだが、現状は管理が困難の為、実験施設の中に放りっぱなしの状況となっている。


 次に植物についてだが、これについては良い結果は得られなかった。

 ただ、食虫植物であるハエトリソウやウツボカズラにモルフウイルスを投与したところ、前述記載のクモと同じように、巨大に変異することも確認出来ている。

 実際の脅威度については、これから調べるつもりだ。


 少し脱線したが、これらに関して――、つまりは人間の感染者についてとなるが、現状は感染者が死に至った場合の感染段階は主に四つとなっており、次に記録に残すのは例外中の例外。

 『モルフ』というウイルスの真の完成体である、『レベル5モルフ』に関して、記述しようと思う。


 『レベル5モルフ』について、これは現状到達したものはたったの一人だけである。

 偶然、起きた奇跡とも言うべき現象であった。

 それは、レベル1〜4の過程を経ずに到達する感染段階だ。

 それはつまり、感染者が死なずにモルフの能力のみを引き継いだ状態とも言える。


 その能力は、運動神経の極限までの向上。

 腕力、脚力は言わずもがな、反射神経や動体視力が人間の限界を超えているのだ。


 そして、レベル1〜4のモルフと同様に再生能力をも有している。

 通常の『モルフ』は、裂傷等の傷口を細胞の変異、増殖をすることで約一時間も経たずに再生させることが可能とされている。

 『レベル5モルフ』は、自身の意思を持って再生を行うことができる為に、任意で再生が可能とされている。

 その再生時間は傷の度合いにもよるが、腕を切り飛ばされても、十分とかからない程であった。

 これこそ、人類の到達点と称してもいいだろう。


 さらには、この『レベル5モルフ』は、感染段階レベル1〜4までの被験者を操ることもできることが確認されている。

 これが、彼女特有の能力なのかどうか、それは定かではないが、もしもこれを任意的に量産することができれば、国一つを潰すことは容易とも言える。


 だが、問題として『レベル5モルフ』に至る条件は未だ判明していない。

 唯一、『レベル5モルフ』となったその者は何事か、自ら実験体へと志願したのだ。

 分かっていることはロシア人であり、女性であること。年齢も十五歳と、まだ成人ではないのだが、同じ条件の被験者を用いても『レベル5モルフ』へと至ることはなかった。

 それは、自らがモルフになろうとする意思の問題か、血縁が関係しているのか、それとも他になんらかの条件があるのか、今はまだ研究途中の段階で判明できていない。

 なぜ、彼女だけが『レベル5モルフ』へとなりえたのか、それはまだ分からないが、今後、この島で行われる大規模実験にて判明することを祈りたい。


 彼女もこの作戦には参加する意向を示しており、『レベル5モルフ』到達者への手がかりとなれば良いのだが――。


 作戦には、彼女が指定した学校の子供たちを実験に使うとのことである。

 島民の中から、『レベル5モルフ』移行者が発見されることが望ましいが、今回、実験に使用する日本人の中に、それを果たせる者がいるかどうかは見ものではある。


 我々は、作戦開始時、必要最低限の人員を残し、避難することとなるが、この研究所内にあるPCデータは全て作戦終了と同時に強制的に削除される見込みだ。


 実験の最終段階までは、『モルフ』のウイルスサンプルを第三区へと匿う予定である。

 回収は『レベル5モルフ』である彼女がやってくれるとのことだ。


 それでは、作戦の完了を、引いては組織の最終目標の遂行の一助となることを祈り、私はこの記録を残す。


        ――イヴァン・ヴォルコフスキー


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