第一章 第十話 『隔離』
森から屋敷近くのとこまで戻った修二と椎名は、未だ出会わない世良のことを心配していた。
「どうしよう、修二……? 世良ちゃんがどこにもいないよ……」
椎名の問いかけに、修二も迷っていた。
世良には、屋敷から先の目的地を伝えている。
離れ離れになれば、この屋敷の先にある集落へ向かうようにあらかじめ決めておいたのだ。
本来ならば、修二達も先の集落で落ち合うように動きたいところだが、それが正解なのか分かりかねていた。
今も世良は森の中であの化物から逃げて、隠れているのではないか? と、その可能性を危惧していたのだ。
あれから、近くにいるかもしれない化物達に極力気づかれない程度の声量で、二人は世良を呼び探していたが、世良の気配はなかった。
安否が不明な以上、修二達も集落へと向かうべきかどうかは決められない。
だが、かといってこのまま世良が集落へ一人向かうことになれば、それはそれで危険になってしまうのだ。
そのことを思い浮かべながら、それでも今後の方針を決めるしかない状況に修二は、
「今は……無事だということを信じるしかない。世良も、俺たちが集落へ向かうことは知っているはずだ。世良もそこにいるかもしれないし、今は先へ進もう」
「……うん」
世良の無事を信じて前に進むことに決めた。
修二の言っていることは、楽観論に過ぎないことはお互いに分かっていた。
しかし、状況が状況である。
今は一刻も早く、皆と合流してこの島からの脱出の術を模索しなければならなかった。
ここにいれば、いずれあの化物達が集まってくるのも時間の問題である為、進む以外の選択肢はないのだ。
修二達は集落へ向かうことに決めた。
そこで世良だけでなく、他の離れ離れになったクラスメイト達がいれば望みは十分にある。
修二達が島へ降りた船もそこにはあるはずであり、この島からの脱出の糸口にもなりうるはずなのだ。
移動することを決めて、修二は改めて、目的地までの道のりを思い起こした。
屋敷から集落への道は、直線ルートで言えば屋敷からホテルの前の道を通り過ぎたところだ。
だが、見通しが良すぎることと遠目にだが、ゆっくりと蠢く人影らしきものが見えている。
この時間帯だ。
普通の人間ならば、この夜道を歩く人間など、そうはいない。
バレない距離までは念の為、近づいて確認するつもりだが、恐らく死して動くことになった化け物であるだろうとは、修二も頭では分かっていた。
修二と椎名は、その直線ルートである道路を使わず、草木が生茂る道を進もうと考えていた。
その辺りならば、道路と違って外灯に照らされていない為、化け物達に気づかれないと踏んだのだ。
そして、その道を選んだ理由はもう一つだけあった。
先ほど、修二と世良を追いかけてきていたあの化物は、森の中で隠れていた修二を見つけられなかったことだ。
修二が逃げていた方向だけは、しっかり追いかけていたことから、暗闇の中でも目が慣れていたことだけはわかるが、そのまま真っ直ぐに過ぎ去ったことだけは妙に感じていた。
考えられる可能性としては、あの化け物にそこまでの知性がないか、もしくは音を頼りにして追いかけてきていたかだ。
もしも音を頼りにしていたのであれば、化け物のいる道路の道を音を立てずに進む手も考えていたが、リスクが高すぎる。
両方の可能性を信じて、出来る限り化け物の視界に入らないことと、音を立てないことを椎名とあらかじめ決めておいた。
二人は、草木が生茂る道をゆっくりと音を極力立てずに進んでいく。
「椎名、足元気をつけてな」
「う、うん。ありがとうね」
少々時間はかかりはするが、確実な道であることに違いはなかった。
実際、道路沿いにいた化け物達は、こちらの存在に気づいていなかったのだ。
「あれも、走ってくるタイプのやつならヤバいな……」
遠目に化け物を確認しながら、修二は怖気付いていた。
修二にとって、戦闘は避けたい思いであったのだ。
最初に初めて遭遇した化け物達は、皆ノロノロとした動きで、とても捕まるなんてことは不意打ちでもない限りはあり得なかった。
だが、突如屋敷の近くにいた奴らは駆け足程度のスピードだが、走ってきていたのだ。
そんな奴らがそこら中にいれば、とても椎名を守りつつ倒すのは不可能に近いだろう。
ホテルからずっと持ち歩いていた鉄パイプは、今も修二の手の中に握られている状態だが、いつそれを使うことになるかは分からない。
最善は化け物に見つからず、クラスメイトの皆を見つけ出してこの島から脱出することだ。
そう考えつつ、ホテルの前の道路近くのところまできた修二と椎名は、一度先の様子を確認していた。
「大丈夫そうだ。あの化物共はいない」
「世良ちゃんも他の皆も、あそこにいるかもしれないんだよね」
「あぁ、きっといるはずだ。近くには船もある。それを使ってさっさとこんな島からオサラバしよう」
船さえ動かせれば、後はなんとかなる。問題は船の動かし方だが、修二も経験が全くない為に不安ではあるが、とにかくやるしかない。
考えが決まり、進もうと意気込んだ修二と椎名だが、そこで異変に気づいた。
集落の方向、修二達が乗っていた船の周辺から煙が見えていることに。
「おい……嘘だろ!? まさか、燃えてるのか!?」
「煙……だよね? どうして……」
焦った修二は、まだ距離があるために、船が見える位置まで周りを気にしながら足を進めた。
船は一隻だけでなく、漁民のものである船も同様に煙がでていたのだ。
だが、火はそこまで出ておらず、爆発はしていない。が、いつ爆発してもおかしくはない状況だった。
なぜ、ここまで修二達にとって不利な状況になってしまうのか、タイミングを考えれば、ある程度の予想はついていた。
「まさか、犯人が逃げ場を塞ぐためにしたってのか……!?」
あくまで推測でしかないが、タイミングから見てもそう考えざるをえない。
しかし、釈然とはしなかった。
犯人は修二達だけでなく、自らの退路も塞いで船を破壊したのだ。仮に隠しボートのようなものがあればまだ分からないが、それにしても大胆すぎる行動だ。
「煙は出てるけど、炎上してないね。やっぱり化物に気を使ってるのかな?」
「爆発でもすれば、当然奴らが寄ってくるからな。でもここまでされるのは想定外だった。
船以外の方法も考えてはいたけど、犯人はよっぽど俺たちをこの島に閉じ込めたいらしいな」
落ち着いていたのはこれまでの経験もあってのものか、さほど修二は落ち込んではいなかった。
確かに最終的な目的は島の脱出だが、今はクラスメイトの皆との合流が優先だ。
和也達のこともあるが早く合流しないと、いつあの犯人に襲われるかも分かったものではない。
「椎名、ここからは俺が先に行く。先の安全を確保できたらすぐに呼ぶから、ここで待っててくれ」
「待って。いやだよ、また一人でここで待つなんて……私もいく!」
「気持ちは分かるが、ここにいれば奴らに見つかることはない。大丈夫。もう絶対に離れたりはしない。見える位置までの安全を確保できたら、後をつけてきて問題ないからさ」
危険を冒すことに反対なのだろう。
かといって、ここで待機していても得策ではない。
距離を離しすぎず、ある程度の距離感を保って共に進むしか椎名に提案の余地はない。
「修二……。わかった。でも気をつけてね」
「あぁ、任せとけ」
修二は椎名にそう告げて、先へと進んでいく。
ここからは隠れられる場所は無いため、周りの状況を常に把握する必要があった。
近くに化け物がいないことを確認した修二は、すぐ近くの家の側へ駆け寄っていく。
合図を出し、椎名を移動させつつ、修二は船がある方向へと目を向けた。
改めて確認すると、船着き場一帯全ての船から煙がでている。おそらく操縦できないようにモーター部分を壊したのだろう。
いつ、どのタイミングかは分からないが、人為的なものには違いない。
だが、もしも壊されてそう時間が経っていなければ、近くに壊した張本人に出くわす可能性は高い。
椎名を連れている現状、万が一にも出会うわけにはいかない。
とにかく、慎重に進もうと考えた修二は、椎名へと振り向き、
「椎名、あの先に見える家まで進もう。そこからは二人でも気をつけて進めば問題ないはずだ。」
「うん、……ねぇ修二、近くに人いないよね?」
「ん? いや、確認する限りはいなかったと思うけど、どして?」
「ううん、多分気のせいだと思う。なんだか誰かに見られてるような視線を感じて……」
それを聞いた修二は、椎名を屈ませて周りを確認する。
あの化物が近くにいないことは、入念に確かめたし、間違いはなかった。
薄暗い中だが、それでも目に見える距離には音の一つもしなかったのだ。
もし、近くに美香を殺した犯人がいるとすれば、非常にマズい状況だ。
その存在は、まず間違いなく修二達にとって敵対的なはずなのだから。
注意を払いつつ、額から流れる汗を拭うこともせずに周りを観察し続けた。
「見える限りは……何もいないな。なんで視線が感じるって分かったんだ?」
「菅原君達に見られてた時、かな。あの時と似てる気がするの。でも、誰もいないのになんでだろう? ちょっと怖い……かも」
不安げに椎名は修二の服の裾を掴む。
多分、気のせいだろう。
ここに来るまで、修二達はあまりにも非現実的な体験をしてきた。
疲労が、感覚を麻痺していても何もおかしくはない。
修二は、不安げにいる椎名の手を握り、
「大丈夫、何もいやしないよ。何か出てきても俺が守ってやる。先を進んで、まだ視線を感じるようなら言ってくれ。その時は、何か手を打ってみる」
椎名は俯いたまま「うん……」と返事をして、修二の手を強く握り返した。
もしも、誰かが修二達を見ているならば、それはこの島の騒動を引き起こした犯人の可能性は高い。
が、なぜ、ただ見ているだけなのかという疑問は尽きない。杞憂だと思うが、その時は逆に追い込んでやる。
先へ進み、集落の端のところまできた二人は、角にある家の庭へと侵入し、一時休憩とした。
椎名だけではなく、修二も同じようにかなり疲弊していたのだ。体力的にも限界が近い為、どこかで休憩を挟む必要があった。
「ごめん、修二。本当は休んでる場合じゃないのに……」
「いいよ。むしろ、このまま進んで危険が及ぶなら、しっかり休んでから動いた方がいい。ちょっと待ってろ、何かないか探しにいってくる」
そう言って、修二は庭の倉庫から何かを探し始めた。
泥棒という意識はあるが、今はそうは言っていられない。そもそもこの家の住民も健常者なのかは疑わしい状態だ。迂闊に屋敷と同じ鉄は踏めない。
「おっ、あったあった」
「? 何があったの?」
「これだよ。俺だけ武器持ってても不安だからさ。椎名も何か防犯用で持たせてたほうがいいかなって。ほら」
修二は倉庫から取り出したであろう鉈のようなものを椎名に渡した。
「これって……、私こんなの振り回す勇気ないよ?」
「まぁ、そりゃそうだろうけど、念のためだよ。持ってて損はないだろうしさ」
ただの高校生の、それも女の子にそれを握らせようとした修二も少し思うことはあったが、椎名は困惑気味だった。
「えっと、ちょっと危ないし、こっちじゃダメかな?」
椎名は、粗大ゴミに捨てる予定だったのだろう、ゴミ袋の近くにあったフライパンを持ちあげた。
確かにそっちの方が椎名に合ってそうではある。
殺傷能力はないが、無力化する程度には使えるはずだ。
「いいんじゃないか? 椎名がそれ持ってるとなんだか異様な怖さがあるな」
「もうっ! 鉈の方が危ないよ!」
ぷんすか怒りながら、椎名は腕を組んで抗議していた。思えば、ホテル以降、こんな風に落ち着いて話すのはなかった。
気の疲れもあったが、もうこの先、落ち着いて話し合うことは難しいこともあるので、ある意味では良かったのかもしれない。
「よしっ。じゃあそろそろ皆を探しにいくか! もう大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫! 皆を探しにいこう!」
二人は意気揚々と立ち上がり、移動を開始した。
集落は山へと続いて点々とある為、基本一本道の坂道を登ることになる。
ほとんど前方のみの確認で済み、外灯もあったので、暗くは無く、周りの状況も確認しやすかった。
誰もいないことを確認し、修二達は坂道を登っていく。
ホテルから離れ離れになった時、何人かはこの集落の方向へ走っていった者もいた。あれからかなり時間が経過しているが、ここに誰かがいる可能性は十分にあった。
「世良ちゃんも……きてるかな?」
「きっとどこかにいるはずだよ。ただ、これだけ住宅があるとかなり時間はかかるな」
少し前に逸れたクラスメイトのことを気にかけつつ、修二は現在の状況を改めて見直そうとした。
一つ一つ、家を調べるのもアリだと考えていたが、手間がかかりすぎるのと、化物との遭遇の可能性が高くなることが懸念であった。
ひとまずは、籠城できる場所があれば楽になるはずだと考えて、辺りの家屋を見定めていると、
「笠井君? 椎名ちゃん?」
一つの家屋の塀の影から、声がした。
「柊ちゃん!? 良かった! 無事だったんだね!」
ホテルで離れ離れになった、同じクラスメイトの柊ルカがそこにいた。
彼女とはあまり接点が少ないが、クラスの中では大人しい方の部類で、修正中
「無事で良かった! 怪我してないよな? 他に無事なやつはいるのか?」
「だ、大丈夫。でも気をつけて、近くにあのヤバい奴らがいるから。マミちゃんも中にいるの。そっちも二人だけ?」
「あぁ、世良とはさっきまでいたんだが、化物に追っかけられた時に逸れてな。無事なのは無事なはずなんだが、まだ見つかってない」
「そう……なの。とにかく中に入ろう? ここは誰もいないから安全だし、食べ物もあるから」
柊は、修二と椎名を家屋の中へと案内した。
恐らく誰かが住んでいたのだろうが、この騒動で中には誰もいないのだろう。
玄関に入り、靴を脱いでお邪魔しようとすると、部屋の中から女の子が飛び出してきた。
「笠井! 椎名! 無事だったのね!!」
「マミ、お前こそ無事でなによりだよ」
同じクラスメイトの江口マミが、再会を喜ぶように修二の手を取った。
彼女は柊と仲が良く、教室の中でも常に一緒にいるイメージが強い。
短髪な装いで、ボーイッシュな雰囲気を感じさせるが、よくスガや鉄平が怒らせて鉄拳制裁を喰らわすほどに過激な女の子の印象はあった。
「本当に良かった……あれから誰もこの家の近くを通らなくて、通っても頭のイカれた奴らがいただけだから……もうダメなのかなって思ってたよ」
「やっぱり、この近くにもあの化物がいるのか?」
修二の問いに対して、柊は険しい表情を浮かべて、
「うん……、最初はここの住民かと思って声をかけようと思ったんだけど、マミちゃんに止められて……ホテルで見たあの人達と同じ挙動をしてたし、試しに石を上から投げて見たんだけど、落ちた方向へすごい勢いで走り出したの。多分、普通じゃない……」
悲壮感漂う面持ちでそう答える柊に、修二も頭を抱えた。
この集落にも化け物がいるということは、ここも既に安全だとは言い難い。
何もせず、ここに静かに隠れていれば見つかることはないだろうが、危険は危険なのだ。
「それで、二人だけなの? 他の皆はどこにいったか分からない?」
椎名が、先に聞かなければいけないことを問いただし、
「ダメね。私も、柊と二人でがむしゃらに逃げてきたけど、他の人達は見てない。でも逃げる時、誰と誰が一緒にいたかは覚えてるわ」
マミはジュースと和菓子のようなものを修二と椎名の前に置いて話を続けた。
「長瀬君と太一君が二人で逃げてたのと、白鷺ちゃんは一人だった。竹田君は長瀬君達と同じ方向に走っていってたかな。確かにこの集落と同じ方向を走ってったけど、その後は全く……」
「リクは見なかったか?」
修二は、一人だけ足取りが分からない幼馴染のことを尋ねた。
リクだけは、今のところどこにいるのか全く分かっていない。
運動神経はかなり高い部類ではある為、やられるとは思ってはいないが、心配だった。
「立花君は見てないわ。私たちも必死だったから、見えたのはその人達だけだったのよ」
大体のクラスメイト達の動きは理解することができた。
少なくとも、この集落とは逆方向である屋敷側へは誰も向かっていないようだった。
リュウと太一は問題ない。竹田も後をついていったのならまだなんとかなるはずだ。
あとは……、
「白鷺ちゃん……一人なんだよね?」
椎名がそう呟き、修二の言いたいことを先に話してくれた。
そう、白鷺が一人でいるのは危険が大きすぎる。
修二達のように護身用の武器を持っている訳でもなければ仲間もいない。
どこまでが化け物の住処となっているかも分からないこの現状、外にいるのは自殺行為に等しい。
修二は一人考え、ホテルでの白鷺のことばを思い出した。
『こなきゃよかったんだ……』
苦しそうに言い放ったあの言葉は、修二の心に未だに深く刺さっていた。白鷺の言うことに否定の余地はなかったが、それでも見捨てる理由にはならない。
だからーー
「探しにいこう、白鷺を」
「ちょっ? 何言ってんのよ!? 外の状況知ってるでしょ!? 絶対中にいた方が安全だよ! 助けがくるのを待った方がいいって!」
マミは、修二を引き止めるように反論する。
マミの言っていることは間違っていない。実際、ここにくるまでに修二達は化け物を何度も見てきた。
再び、外に出るということは、またあの化け物と邂逅しなければいけないということなのだ。
かといって、マミ達を危険に晒すわけにはいかないので、
「お前達三人はここで待っててくれて構わない。でも俺はいくよ。白鷺のことが心配なんだ」
「笠井君……ダメだよ。せっかく会えたのに、また離れ離れになるなんて」
「ひょっとして、あの時、白鷺に言われたことを引きずってんの? あんなの気にしなくていいよ。こんなことになったのがあんたのせいだなんて、誰も思っちゃいないってば」
マミはそう言って、あのホテルでのことに対する持論を話した。
「それでもだ。この島への旅行を計画したのは俺であることに変わりはない。それにあいつがどう思ってようと俺は助けにいくよ。仲間を置いてこんなところで待っていられない」
周りがどう思おうと、修二が旅行に誘った事実は消えない。
それが、修二が自身を蔑む理由でもあり、責任を感じていた原因だった。
だからこそ、修二は白鷺を助けに向かわないといけない。
「私もいくよ、修二」
椎名が修二の言葉に続けて、そう言った。
その提案に対し、修二は動揺して、
「待て、椎名はダメだ。せっかく安全な場所を見つけたんだから、ここで待っててくれよ」
「それじゃあ、修二も待ってくれる?」
そう言って椎名は修二の手を掴んで離さなかった。
本当にずるい女の子だ。本当はここで待っていたいはずなのに。
「ったく、分かったよ。けど次はそのフライパン使うことになるぜ」
椎名は、修二の了解を得たことを確認して微笑んだ。
きっと、どこまでも修二の後をついていくつもりなのだろう。
危うさこそあるが、修二も一人で行動するよりかは気楽な思いになれた。
「嘘でしょ!? 私は絶対行かないからね! せっかく安全なのに、そんな危ないことしてられないよ!」
「もちろんだ。柊とマミはここで待っててくれ。白鷺と他のやつらを見つけたらここに戻ってくる。それまではあの化物共を刺激しないよう気をつけてくれよ」
言っても聞かないと分かったのだろう。降参したかのようにマミは両手を上げ、ため息をついた。
柊も同意見のようで、待機組に回ることになった。
「二人の無事がわかって良かったよ。じゃあ、行ってくる」
修二は立ち上がり、外へと向かおうとすると、
「待った。これ持っていきな」
「?」
マミから投げ渡されたのは、この家にあったものだろう、護身用の木刀だった。
「そんな握りにくいやつより、こっちのが手軽だよ。強度は保証しないけどね」
「いや、助かる。意外に痛かったんだよなこの鉄パイプ。ありがたくもらうよ」
「ーー絶対に死ぬんじゃないよ」
こくりと頷き、修二と椎名は外へ出ていった。
念のため、二階の窓から柊に化物がいないか確認した後だったので、外には化け物は一体もいなかった。
「それで、どこに探しにいくの?」
「この集落はかなり広いからな。とりあえず、この辺には誰もいないと思う。だから、この坂道を登って、奥に進んで山に近い方を探ってみよう」
恐らくだが、この先は化物達が多いはずだ。
集落の中でも、この辺一帯は特に密集しているわけではない。
山に近づけば近づくほど、人の往来がある密集地帯であるのだ。
それを理解していた修二は慎重になっていた。
白鷺がそこにいるのならば、命の保証はできないほどに危険だ。
早歩きになりながら、修二は足早と進もうとする。
「これ以上、誰も死なせてたまるかよ」
犠牲はもう十分だ。
これ以上、この騒動を引き起こした連中の思い通りにはさせないと、強く決心して前を歩いていく。
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