第24話 人生の底とドン底
『今、私は何処にいるの?人生の底にいるのかしら?』
女は左腕にある無数の注射痕を摩りながら、既に開けっぱなしとなった地下室の扉を見遣った。
『結局、私はあの男、悪魔から自立できないのかしら…
このまま一生、悪魔に依存して生きて行くのかしら…』
女は酷く落ち込みながら、スマホを開く。
LINEもFacebookもTwitterも全て削除された、単なる携帯電話
電話帳登録も身内のみ
沢山いた筈の友達の情報は全て悪魔男に消去されてしまっていた。
また、女も悪魔男と嫌を無しに付き合い始めた頃から友達との連絡は切ってしまった。
かなり誹謗中傷された。
女友達からも
「史織、亮太君と何かあったの?
変な噂たってるよ!
史織が結婚相手を『家柄』で選んだって、皆んなが言ってるよ。」
「私、亮太君、好きだったのに…、あんたが横取りして…、その挙句の果てに亮太君を振るなんて…、酷いね。
だったら初めから亮太君と付き合わなければ良かったのに!」
「史織、悪魔と結婚するんだってね!
おめでとう!
あんた、掌返すの早すぎ。
亮太君、同窓会にも来なかったよ…。
あんた、もう少し、人の気持ち考えたら…」
「結婚式の招待状頂きました。
でも、史織ごめん。
欠席させてね。
分かるでしょ?」
悪魔男との結婚式が近づくに連れ、1人、又、1人、友達は女から去って行った。
女も次第に状況が見えて来た。
『私、悪者になってる』
そう悟った女は自らも友達との連絡を切ってしまったのだ。
当然、愛する男、亮太のLINEは悪魔男に削除されてしまっており、
女は記憶に残った男の電話番号を再度登録しようともしたが、
『私から去ったのに…、今更…、連絡できない…』
そう思い、スマホを触る事を自ら禁じて来た。
次第に蘇る過去の記憶
次第に見えて来る己のした辛辣な仕打ち。
『そうだよ、私は悪者だったんだ。』
女はそう心の中で悲しく呟く。
運命は『生』と『死』と至って万人に平等な扉が設けられている。
方や人生は『山』と『谷』と凹凸があり、その高さ、深さは人によってまちまちとなる。
『人生の底』
人の人生の谷の深さはどれだけ異なるのか。
「底」と「ドン底」
底だけで済む者も居れば、ドン底まで見なければならない者も居る。
測りようもない人生の谷の深さ
男と女の谷はどちらが深いのか
女は「人生の底」と今をそう呼び、悪魔からの自立を目指し、明日を見始めた。
男はどうか?
男は「ドン底」だ!
まだまだ底は見えないドン底だ!
新たな恋に望みを託すも、女の面影が必ず邪魔する。
寝ても起きても、夢も現実も
全ての時に女の面影が漂い続ける。
別れて15年間
苦しみの質は違えど、2人は共に苦悶の道を歩んで来た。
ただ、
意識と無意識の差がそこに大きく立ちはだかる。
男の幸せを願い身を引いた女、それからは悪魔の餌食となり、幸か不幸か無意識の世界に身を置いていた。
男は違う。
ずっとずっと意識しながら、
『裏切り』と『屈辱』の十字架に張り付けられ、
晒し者の谷底を彷徨い続けているのだ。
底から谷から山へと通ずる道標は男の前に明認されるのか…
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