第15話 悪魔の改造

「胎児に影響が出ないように調法して欲しい。」


「モルヒネの量をですか?」


「そうだ。」


「し、しかし、15年間も毎日、注入してますから…、現状、中毒性が非常に高く…」


「そんな事は聞いてない。胎児に影響しない量を聞いているのだ。」


「モルヒネ自体、アヘンやコカインといった麻薬ではありません。


 言わば、鎮痛剤です。


 しかし、奥さんの場合…、抑うつ感情を誤魔化す為に…、抗うつ剤と睡眠導入剤の効果を上げる為に使用してましたから…、」


「聞いたことに答えろ!


 胎児に影響が出ない量はどれくらいなのか!」


「わ、分かりました。


 では、今の中毒度を見極める必要があります。


 何日ぐらいでモルヒネの効果が無くなりますか?」


「1日だ。」


「たった1日…」


「そうだ。」


「では、薬が切れた時の症状はどんな感じですか?


 喚き散らすとか?


 暴れるとか?」


「そんな事はない。涎を垂らし、喉が渇くみたいだ。それと激しい頭痛だ。」


「お、恐らく、抗うつ剤と睡眠導入剤との併用、それと過剰摂取により自律神経が麻痺しているのではと…


 あっ…


 胎児への影響でしたね…


 できれば…、モルヒネを半分にしてください。


 それが適量です。1錠です。」


「分かった。」


「それと…」


「何んだ?」


「それに加えて、抗うつ剤は服用しないようにして下さい…」


「抗うつ剤を服用しなければ、鬱が酷くなるではないのか?」


「抗うつ剤もモルヒネも同じです。


 貴方はそれを併用することにより、短い周期での「改善」と「重鬱」を創り出した。


 鬱が完治しないよう…」


「俺に説教をするつもりか?」


「そんな…、そんなつもりはありませんが…。


 兎に角、併用は避けてください。


 併用による極端な精神状態の上げ下げは、女性ホルモンのバランスを崩します。」


「では、普通の鬱病患者の処方であれば、胎児には影響しないと言うことで良いのだな。」


「そう言うことです。


 ただ…」


「何だ?」


「奥様は、今までのモルヒネと抗うつ剤の併用による「即効性」によって、非常に満足されていたと察しますが…」


「それがどうした?」


「その満足度は、どのようなものか…、私には分かりませんが…、代替的なものを与えないと…、そのぉ~、今までと違い…、」


「何、奥歯に物が詰まったように言いやがって!


 お前が言いたいことは分かっておる!


 俺に満足しなくなる!


 そう言いたいんだろが!」


「はぁ…」


「重鬱を一時的かつ即効的に改善するものとして、抗うつ剤とモルヒネを活用して、妻に『快楽』と『恍惚感』を与えていた。


 その代わりのものにより、今までと同様に、妻に『快楽』と『恍惚感』を味合わせれば良いという論理だな。」


「そ、そう言うことです…」


「お前に頼みがある。」


「えっ!また…、変な薬とか…」


「そんなことではない。薬はダメだろ~。胎児に良くないだろう~」


「はい。良くないです。」


「腕の良い泌尿整形外科を紹介しろ。」


「泌尿器科整形外科?」


「そうだ。」


「ま、まさか、あの…」


「その通りだよ。性欲の強い牝犬には太くて長い肉棒が必要なんだよ。」


「………………」


 ここは、県立病院の外科医部長室。


 悪魔男が元担当医の部長に愚考の最たる要求を行っていた。


 悪魔男は今までの薬物による調教により、女の性的な感覚に一定の変化が見られたことに手応えを持っていた。


「アイツも俺と同じ変質的な性欲を抱くようになっている。」と


 女も言っていた。


『地下室のマゾヒィスト的な性行為で自分の身体は満たされている。』と


『私の身体を奏でることが出来るのは貴方しか居ない。』と


 悪魔は女の本心への偽りを本気にしてしまっていたのだ。


 女は、自虐的感情から言ったまでの台詞であった。


『彼への想いを忘却する為に、今ある自分、はしたなく淫乱な自分は、本来的にも彼に相応しい存在ではなかった。』


 そう結論付けて、彼への想いを払拭したいがために吐いた言葉であったのに…


 悪魔は自惚れが強く、ハイエナのように貪欲である。


 自分の分身が胎内で健康に成長し、かつ、女が病んだまま悪魔の虜で居るように、


 悪魔は、薬物の代わりに、自身の肉体を改造した。


 ある満月の夜


 悪魔の館では淫靡な音が鳴り響いていた。


 女は歓喜の唄を叫んでいる。


 凄まじ快感が幾度も幾度も押し寄せ、逝き果てても逝き果てても止むことのない性感。


 悪魔に身を売り、自虐的に自分自身を性奴隷と貶めた女の渇いた心に、


 悪魔が望み通り巨大な撥で太鼓を打ち鳴らし、


 重なり受ける女の身体は止めなく体液を溢れ出し、その擦れる淫靡な音は弦楽器のように鳴り響くのであった。


 

 


 


 

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