第12話 調教の完遂

 時計の針は天頂である『Ⅻ』で一つになった。


 暫しリビングの掛け時計を眺めていた悪魔男は、


「そろそろだな。」と一言呟いた。


 着床が行われて既に半日が経過した。


 担当医は早くて6時間後には受精卵は子宮に確実に着床し、女は妊娠過程に入ると言っていた。


 悪魔はコヨーテのように用心深い


 倍の時間を掛けて我慢強く待機していた悪魔男は、むくりとソファーから立ち上がると、ゆっくりと地下室へと向かった。


 地下室に降りて電気を点けると、女は既に目覚めており、いつものように『あれ』を目で欲しがっていた。


 悪魔男は女から手錠と足輪を外した。


 女は条件反射で急いで服を脱ごうとしたが、


「脱がなくて良い。」と悪魔男は静かに言い、女の側に座った。


「貴方…、抱かないの…?」と


 女はその先に施される『あれ』を意識しながら、もじもじと身体をくねらせながら悪魔男に問うた。


「今日はしない。」と


 悪魔男はキッパリとそう言った。


 女は大量に睡眠薬を飲まされていたためか、『あれ』である『魔薬』の切れる錯乱状態はまだ訪れてはいなかったが、


『魔薬』の恍惚感の味が骨の髄まで染み込んでいる女は、


「抱いて!お願い!」と


 餌をくれない飼い主に飼い犬がしきり「お座り」を何度も繰り返すように、女もそれ同等のレベルとして、淫靡に悪魔男に擦り寄った。


「あれが欲しいのか?」と悪魔男が問うと、


 女は素早く何度も頷いた。


「今日は打たない。」と悪魔男がまたしてもキッパリと言い切った。


 其れを聞いた女は呆然とした。


 そして、女の脳裏には、あの薬が切れた時の悍しい錯乱状態、渇望、絶望が瞬く間に占拠した。


「いやよ!駄目よ!してっ!


 お願い!してっ!


 薬を注射してっ!


 お願い…、何でもするから…、


 お願い…」と


 女は泣き叫びながら悪魔男に懇願を繰り返した。


 悪魔男は、取り乱す女の様子をじっくりと観察している。


『中毒度を低める必要があるな。


 モルヒネは2錠から1錠に減らし、回数も1日置きとする。

 抗うつ剤を増やしながら慣らして行こう。


 そして…』


 ここで悪魔が愚考の真骨頂を展開する。


『晩餐会には何としても華麗に振る舞って貰わないといけないからな…。


 そろそろ良かろう。


 調教と監禁はお終いだ。


 もう十分だろう。


 ほら見ろ!


 こんなに擦り寄って来てるじゃないか。


 俺に対する依存度は完璧だ。


 愛なき関係に対し、病んでる心と薬が完全に補ったのだ!


 愛など糞食らえだ!


 女は飼い犬だよ!


 厳しく手懐けた後は、優しく手懐けるのさ…』


 愚考の絶頂を迎えた悪魔男はニヤリと笑いながら、


「そんなに欲しいのか?」と問い掛けをする。


「欲しい!」と女が叫ぶ。


「何が欲しいのかい?」と悪魔男がカマをかける。


「貴方が欲しい!抱いて!」と手懐けられた賢い女は、その後のご褒美を確信して、正解を解答する。


 悪魔男は今までの調教の効果を満足しつつ、女を優しく抱き寄せ、こう諭した。


「抱いてあげるよ。


 いいか、もう地下室も手錠も終わりだ。


 顎を外して薬を飲ませたりもしない。


 安心しろ。」と


 賢い牝犬はご主人の機嫌を損なわないよう「うん。」と可愛く頷く。


 賢い牝犬には確信がある。抱かれれば必ずご褒美が貰えると!


 抱かれるまでは、主人に靡き続けると!


 それも全てお見通しである悪魔はここで念を押す。


「いいか!


 今からは普通の生活を行うのだ。


 それがお前の望みを叶えることになる。」と


 完全に洗脳されている女は、兎に角、頷き続けた。


 悪魔男は確信した。


『この女は完全に俺の物になった。』と


 そして、悪魔男は女を抱いた。


 女は悦んだ。


 女は妖艶に淫靡に舞い続けた。


 行為の終盤に悪魔は念押しを怠らない。


「良い子だ。終わったら、ちゃんとあげるからね。」と女の心を自身の存在に釘付けにする。


 すると、女は渇望のツボを押されたかのように、より一層、淫靡に淫乱に善がり、そして大きく、大きく逝き果てた。


 失神寸前の女の胎内に悪魔の体液がほとばしり、女は其れを吸い込みながら、左腕を健気に伸ばす。


 ご主人と飼い犬との契約


 悪魔男は営みの最後の行為としての『魔薬』を女の血液中に注入する。


 女は従えば必ず貰えると更に飼い慣らせれ、恍惚感に浸りながら眠って行く。


 女は完全に飼い慣らされた。


 そして、女の胎内は着々と母胎となるよう成長し始めていた。


 


 




 

 


 

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