第5話 貪り食い尽くすまで隙は見せない!

 女はこんな地下室で監禁・調教されるべき人間ではなかったのだ。


 たまたま、悪魔の男の近くに、そのサークルエリアに入り込んでしまったばかりに…


 悪魔が忍び寄った。


 悪魔は自信の塊だ。


 神が少し余所見をした隙に悪魔はそのおこぼれを確実に咥える。


 そう、たまたま、女が入学した高校の同じクラスにその悪魔が居ただけなのである。


 女の夫となる悪魔顔の男


 女を、いや、綺麗な美少女を初めて見た瞬間に獲物は決まった。


 悪魔の男は女に一目惚れしてしまった。


 普通は片想い


 悪魔は違う、女も『俺に見惚れてる。』と自惚れた。


 悪魔は鏡を見ない。


 悪魔は主観だ。


 悪魔は客観的な批評を忌み嫌い、全く取り入れない。


 人の意見を聞く必要はなく、それに左右されるような脆弱さはないのだ。


「俺が好きになったならば、向こうも好きなはずだ。」


 イコールの左右が確立されている。


 そのイコールは微動だにしない。


 悪魔の男は人類が持ち得ない自己顕示欲と完全無欠の自己陶酔感を保持していた。


 そんな悪魔に惚れられた女は不運の塊であった。


 知る由もない。


 今後、ストーカーまがいに執拗に懇求されるなど、思いもしない。


 女は明らかにしていた。


 心から愛する人が居て、その人を思い続ける青春の日々を、乙女心として夢見てると、全ての行動が言葉にしないだけで物語っていた。


 女は恋する男を幼い頃から大切に小さな胸の中に折り畳み大事にしまっていた。


 中学も高校も一緒だった。


 この人を好きになるために自分は生まれて来たと神に感謝をしていた。


 神は寛容である。


 女の心を寄せる男も女に一目惚れだった。


 女は男は自然と恋人になった。


 2人とも永遠にその恋が続くと信じて疑わなかった。


 ハイエナは違った。


 必ずチャンスが来ると虎視眈々に待っていた。


 男に立ち向かうことは一切しない。


 ハイエナは誰の食い残しでも構わない。


 ひたすら2人の関係に綻びが生じるのをじっと岩のように辛抱強く待っている。


 恋は陽炎


 絶頂から油断が生じる。


 2人の心に綻びは無いにせよ、どんな恋も順風満帆ではありえない。


 風向きが向かい風となった。


 女に病魔が生じ、2人の乗った船が波に揺れ始めた。


 女はひと時休みたかった。


 ほんのひと時…


 これからの人生のほんの一瞬の休憩を男から離れ、1人、止まり木に泊まっただけであったのに…


ハイエナは見逃さなかった。


少しでも弱った獲物は執拗に追い回す。


 群れを作り、女を追い込む。


 手段は選ばない。


 弱った女を咥えた事実を周りに知らしめた。


 女は弱っていた。


 男は油断した己を責めた。


 ほんの一瞬の出来事だ。


 女は少しの過ちは許されると軽く思っていた。


 男はそうは思わなかった。


 そういうことだ。


 ちっぽけな歯車の狂いが、何もかもひっくり返した。


 そんなもんである。


 運命とはそうなもんであり、人生は凹凸である。


 男と女はお互いに待つ側へとなり、ハイエナだけが待つことなく、前に進んだ。


 相手の気持ちなどこれぽっちも考慮しない冷酷で貪欲なハイエナが結局、獲物を手にしたのだ。


 そんな事情、よくある事だ。


 真心と偽り


 現実は見える形が重んじられる。


 ハイエナはすかさず、獲物を取り戻されないよう、女が病んでる内に籍を入れ、式を上げ、地下室を作った。


 男は手出しができない。


 コヨーテの狡賢さとハイエナの貪欲さを持った悪魔の勝利であった。


 貪られる獲物に自由はない。


 奪われた者に奪回の余地はない。


 そう…、ハイエナはどんな手段を使っても貪欲に獲物を貪り食い尽くすまで、決して隙を見せないのだ。

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