第3話 神ではなく俺に懺悔せよ!
「助けに行けないよ。」
女の声を唯一感知したある男が応える。
ある男は女にこう心で囁く。
「お前が選んだんだ。お前が勝手に選んだんだ。」と
ある男は、途方に暮れ半月の片割れた月夜を見上げて、同じ台詞を呟く。
「お前が勝手に選んだんだ。」と
女は過去に、今、この半月を見遣っている男と付き合っていた。
幸せそのものであった。
その男も幸せそのものであった。
金が無くても、宝石が紛失しようとも怯えることはなかった。
何より怯えるのは、女が側から去る事であり、他男に靡く事をであった。
しかし、その男には自信があった。
何を失っても、虫ケラみたいな存在に成り下がっても、『俺にはお前がいる。』と、そう思っていた。そう、信じきっていた。
地球が木端微塵に破裂し消滅しようとも、日本が他国に併合され、男である自分が目隠しをされたまま銃殺されようとも、その亡骸である屍には必ず女の潤いのある涙が真っ先に溢れ落ちる事を信じ切っていたのだ。
その男の元から女は何も言わず、姿を消して去って行った。
当然、その男は、女の消息を探し続け、その結果、無情にも行き着いた先には、女が他男と結婚したという事実に辿り着いた。
その男は、そんな事は決して信じる事はできないとし、女の身辺を調べたが…
女は悪魔の男の配偶者として新戸籍を編成していた。
当人同士がその意思に基づき、当人同士の意思により日本国が世界に誇る戸籍に夫婦であるとする新戸籍を編成していたのだ。
あの悪魔とかけがえの無い恋する人が、新戸籍を編成していたのである…
意味が分からない。
その理由が分からない。
『お前は俺の女であり、生まれてから今に至るまでの間、人を好きになった事実は俺だけであり、それはこの先も変わることがなく、男と女の関係は恒久的に『俺とお前』のみに生ずる事柄だ。」と
この長文を一つの呼吸で幾たびもお互いに感じ、認識し合ったはずであったのに…
俺は脇が甘かったのか…
いや!それならそれで良い。
俺はお前だけを信じていた。
信じるのは俺の勝手であり、その効力はお前を完全には拘束しない。
拘束しない…
が!
俺はやっぱり、信じていた…
決してお前が他男に靡くことなどあり得ないと…、信じていた。
信じる方が悪いのか?
そう信じる繋がりではなかったのか!
お前は何も言わず、姿を眩まし、消えて行った。
『助けに来て』
お前の声は確かに今聞こえる。
しからば、俺の声はお前に聞こえ無いのかい?
勝手に消えやがって、理由も言わず…
何処に消えたかそれは自由で構わないが…
嫌な噂は俺の耳に届く!
あんな卑怯な卑劣な悪魔野郎と結婚したと…
「助けに来て!」
お前は一方的に俺の夢の中で懇願するが…
俺は聖人君子なんかじゃないんだ!
分かるか!
俺がどんなにお前を愛していたか?
分かるか?
俺は見たくもない夢に直面するんだ!
夢の中でお前が悪魔男の行為に善がる光景を目の当たりにするんだ!
分かるか?
心の底から好きであった女が悪魔のような男に抱かれる映像を嫌を無しに見せられる男の気持ちが分かるか?お前に?分かるか?
その男は女の悲痛の心の叫びを心の耳で確知しながらも、動こうとしなかった。
動けなかった。
「『助けて』の前に言うことがあるだろう?」
その男は女のサインの夢見の後に必ずそう注文を付けるのである。
「俺より悪魔を選んだ理由を懺悔せよ!、神ではなく俺に懺悔せよ!」と
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