第7話 前日4-1

 昨日、カーテンを閉めていたため朝の光で目が覚めるということは無かった。

 けれども、お母さんからの朝食に呼ぶ声が俺の夢の中から聞こえると目が覚めた。

 まあ、ここまでくれば確認の必要もない。


 俺は、前回と同じように思い瞼をこすりながらリビングへ行き、前回と同じように2月28日のカレンダーをめくり、前回と同じように朝食を食べると、前回と同じように部屋へと戻っていった。


 もう、見飽きた。


 率直な感想だった。

 どうせ、この家か学校に行く途中の段階でまたさくらに会うのだろう。

 俺は、読めすぎる展開に嫌気がさしてきていた。

 けれども、学校には行こう。

 親に休む言い訳をするのは面倒だから。

 俺は、ゆっくりと荷物をまとめると、自分の部屋から出て学校がある通学路へと向かった。


 通学路を見てもいつもと変わっていない。

 でも、さくらが出てくる気配は無かった。

 どこかで待ち伏せしているのだろうか。

 けれども、そんなことは無かった。


 俺は、最初の時と同じように1人で誰とも話をすることなく学校へと着いた。

 そして、いつもと同じように自分の教室がある3階まで来た。

 まさか教室の中で俺のことを待っているのだろうか。

 俺は、ドアのところまできてさっと身構えた。

 窓から見える位置には特にさくららしい人はいないが、あいつなら死角からいきなり飛び出しても不思議ではない。

 俺は、まるで今からデスゲームが始まるかのようにゆっくりと扉を開けた。

 けれでも、特に変化はないいつもの教室がそこにはあった。

 しばらくすると、最初の時と同じように先生が教壇に立って朝の会を始めた。

 いつもと変わらない学校の風景は何だか久しぶりで少しばかりのやすらぎもあった。


 もちろん、日付が変わっていないという現実は心の奥にチクりとささっていたため、完全に落ち着くというわけでは無かったが。

 それでも、何だか始めの頃に戻った気持ちは少しなつかしさすら感じられた。






 俺はカラオケに誘ってくれた山下の誘いを断ると、2時過ぎには自分の部屋の中に着いた。


 もしかしたら、部屋の中に先にさくらがいるのではないかという淡い期待もあったが、部屋を開けた瞬間にその望みは潰えた。

 今度は夜ごはんの頃にでも来るのだろうか。


 そう考えていると、何だかくすりと笑えてきた。


 それと同時にさくらを探している自分にも驚いた。


 俺は今日のことを頭の中で振り返ってみた。

 学校に行く前、通学路、教室、帰り道、部屋のなか……。

 いつも俺はさくらを探していた。

 今日、考えた回数なら親友のはずの山下よりも多い。

 きっと、これはさくらがタイムスリップについて何かを知っているからというのもあるだろう。


 けれども、それだけでここまで気にするだろうか。 


 ちょっと頭の中で考え事をするだけでさくらのことを考えてしまう。


 いつの間にかさくらは俺の中で大切になっていた。


 俺は、深呼吸をして心を落ち着かせる。

 すると、さくらとのこれまでのタイムスリップのことが頭の中をよぎっていった。

 タイムスリップを始めてした時のような大きなイベントだけじゃなくて、俺とさくらで岐阜城に登って一緒にこけたことや、桜にショッピングセンターの下着売り場に連れられた恥ずかしい経験も含めて。

 でも、困ったことにこういう時に限って思い出すのは自分の失敗したことばかりなんだけど。

 

 俺は、ベッドに横になりながら考える。

 どうすべきなのか。

 さくらが来ていない。

 でも、この町にはきっといるだろう。

 このままだと今回は寝るだけで無駄にしてしまう。

 もちろん、さくらを見つけたところでどうなるか分からないが、俺1人でどうにかするよりはいいだろう。

 仕方がない。



 探すか。






 俺は、とりあえず近くの道を歩いてみることにした。


 家にいるよりは探しやすいだろうから。

 でも、見当たる気配はない。

 聞こえてくるのは近所の小学生の元気な下校の声だけ。

 

 そして、あたりをしばらくしてポケットから電話の音が聞こえてきた。

 この時間に電話をするのは俺のクラスメイトだろうか。

 俺は忙しいから電話を無視しようとした。

 けれども、電話は一向に鳴りやむ気配がない。

 ぷつっ切れても再び同じ電話の音が聞こえてくる。


 俺は、仕方がなく電話を取る。

 電話の画面にはさくらと表示されている。

 俺は、はっとさせられた。

 昨日、電話とメールを交換したことをすっかり忘れていた。

 俺は、急いで一呼吸置く時間を作った。

 そして、できるだけ焦っていない声を出せると思ったタイミングで通話のボタンを押した。


「どうした?」



「ねえ、優斗。助けて‼」


 

 


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