30――母の帰宅とゲームセンター


 粗方話し合いも済んで、証書も交わしたとの事でそろそろ家に帰りたいと母が突然言い出した。いやいや、まだ結論は出てないけれど、もし養子縁組が認められた時のミーナの住居とかそういう詳しい話を私はまだ聞いてないんだけど。


 私は未婚だし年齢的にもまだまだ社会的な信用がないこともあって、ミーナの養母にはなれないのは理解している。だから養子になるなら両親の子供になるしかないんだけど、その場合は果たしてミーナは地元じゃなくて私の傍にいられるのかどうか、その点がすごく不安だったりする。


 日本は良くも悪くも子育てや親権に関しては母親重視なので、養母である母のところで育つのが一番いいと裁判所とか警察とか、そういう公権力を持つところが言いかねない。でもそれだとミーナの希望とは食い違うんだよね、ミーナはありがたい事にこちらで私と一緒に暮らしたいと言ってくれている。それは私の希望とも一致するので私としては大歓迎なんだけど、果たしてそれを警察とか裁判所が認めてくれるのか、そこが問題なのだ。


 そのあたりの取り決めはどうなっているのかを思い切って聞いたところ、母はあっさりとこう答えた。


「警察の方も児童相談所の方も、今と同じように佐奈と一緒に暮らしていけるようにしてくださったわよ。定期的にこちらにミーナちゃんの様子を見に来てくださるそうだし、保育園にも入園させてくれるんですって」


「そういう大事なことは、もっとこまめに話してよお母さん!」


「今日の夜あたりにミーナちゃんも交えて、3人でお話しようと思ってたのよ。そしたら佐奈が聞いてくるから、タイミングが悪い子ねぇ」


 タイミングが悪い子ねぇ、じゃないよ! でもよかった、今後もミーナとふたり暮らししていけるんだ。魔力のこととかミーナが持つファンタジーな要素を腰を据えて考えるにしても、やっぱりまずはミーナの居場所をしっかりと作ってからじゃないとね。まだ戸籍がどうなるのかはわからないけれど、仮の戸籍としてうちでお世話してる子という公的な立場を手に入れられるので、今後はひと目を気にせずに大手を振ってお外に遊びにもいける。みやも一緒に出掛けたがってたから、夏休みが終わる前に誘ってみようかな。


 ミーナにも早速聞いた話を伝えると、ぴょんと飛び上がるようにして喜んでくれた。サラサラな金髪がふわりと舞って、とってもキレイ。初めて会った時はパサパサだったミーナの髪だけど、現代のシャンプーとコンディショナーで艶と潤いのある髪に磨かれている。私も一緒にお風呂に入って、一生懸命にケアした甲斐があったというものだ。


「保育園、楽しみです。この世界の子供達がどんな風に学び、遊んでいるのかがとても興味があります」


「みんなで歌を歌ったり劇をしたり、すごく子供扱いされることもあると思うけれど大丈夫?」


 中身は私と同い年のミーナだもの、子供扱いされたらきっと煩わしく感じるよね。そう思って尋ねてみたら、ミーナはそれほど嫌そうな表情を浮かべずに首をふるふると横に振った。


「実際に私はこの世界では生まれたての子供のようなものですから、子供扱いされるのも当然だと思っています」


 だから問題ないですよ、と微笑みながら言うミーナ。本当に寛容だよね、私がもしも今から子供になって保育園に通ったとしたら、超問題児になる自信があるもの。


 警察や児童相談所の人達の前でもカタコトで喋ってもらってるので、もちろんミーナの翻訳魔法は使用禁止でお願いしている。実際に保育園に通うようになればお友達もできて、たくさん言葉を聞くしお話もするだろうからミーナがカタコトで喋らなくなる日も近いのかもしれない。


 でも舌足らずにかわいい声でカタコトで喋るミーナってすごく可愛いんだよね、それが見れなくなるのは正直なところすごく寂しい。今のうちにカタコトミーナを、スマホにたくさん動画で保存しておこうかな。毎日撮影して、ミーナの成長を記録していくのもいいかもしれない。


 それはさておき、母は3日間であっという間に今後の方針をまとめ上げて、新幹線に乗って地元に帰っていった。地元大好き過ぎだよねうちの母、と走り去る新幹線を見送りながらため息をついてしまう。その隣でミーナは動く新幹線を外からみる事ができた興奮で、目をキラキラとさせていた。この間は停まってる車両と、中から車窓を通り過ぎていく景色しか見れなかったもんね。やっぱり外から動く姿を見た方がカッコ良く感じるのか、ミーナが他の新幹線の走る様子を見たがったのでしばらくホームに座って、のんびりと走り去ったり到着する列車を眺めていた。


 1時間ほどそんな風に過ごして、ミーナが満足した様子で椅子から立ち上がる。今日は特に予定もないし、まだお昼には少し早い時間だからどこかに遊びに行こうかな。ミーナにそう尋ねると、ゲームセンターに行きたいと言い出した。少し前に事情聴取のスケジュールが詰め込まれている事があって、普段は寛容なミーナもかなりストレスが溜まっていたみたいで、ストレス解消になればと連れて行ってあげたのが最初だったのだけど、まさかあんなにハマるとは。


「今日も車のゲームするの?」


 私がそう尋ねると、ミーナはコクコクと勢いよく何度も頷く。ミーナはせっかくかわいいんだから、一緒にプリクラを撮ったりUFOキャッチャーとかで遊んで欲しいんだけど、一番のお気に入りゲームは車で峠を攻めるレースゲームだったりする。ただミーナの足の長さではブレーキとアクセルに届かないので、私がミーナを膝に載せてブレーキとアクセルの操作を担当している。本当なら自分で操作したいみたいなんだけどね、足が届くぐらいまで成長するまではハンドル操作だけで我慢してもらおう。

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