29――事情聴取と夏休みらしい遊び方


 移動の疲れからか三人で泥のように眠って、翌日は警視庁へ。詳しい話は省略するけれど、同じ話を何度も何度も聞かれて辟易しながらも、両親とミーナと私で作り上げたミーナの身の上話をしっかりと話した。


 私達の心配通りにミーナをひとり別の施設に入れるという話もあったけれど、私も母も猛反対。ただあちらも保育の専門家や専任の保育士を用意すると譲らず平行線だったけれど、最後はミーナの涙が私達の意見を後ろからグッと後押ししてくれた。声を上げての大泣きならわざとらしさを感じてこちらが悪者に思われたかもしれないけれど、静かにボロボロと涙を零すミーナは本当に悲しそうで、まるで誰もいない世界に放り込まれたかのような寂寥感を見ているものに強く感じさせた。


 どうせまだまだ事情聴取したり児童相談所とかとも話さなきゃいけないということで、少しでもミーナの負担を減らしたいあちらの事情もあって、これまでと変わらず私の部屋で一時預かりという結論で落ち着いた。こちらとしては最終的に両親が養子として引き取って、私の妹として育てたいという我が家の希望は伝えてある。それが通るかどうかは、捜索願の精査とか色々と法的にクリアしないといけない様々な壁があるみたいで、1年以上かかることも考えられるんだって。


 もちろん定期的にミーナと幼児心理に長けたカウンセラーが面談して、私達の事を厭っているとその人が判断してそれが確認されたら同居は解消されるという条件には了承させられた。あちらが最も気をつけないといけないのはミーナに対する人権への配慮であって、万が一外に漏れでもしたらSNSなどであっという間に拡散されて叩かれてしまうのを恐れているだろうから。


 私達もあちらが協力的ならば何もせずに唯唯諾諾と従うけれど、もしも理不尽なことをしてきたり権力によってやりたい放題してきたら、SNSで拡散して世論を味方に戦おうと思っている。そのために色々と準備して隠れて録音できる小さなレコーダーも、常時持っている。裁判では使えないみたいだけど、やっぱり音声があるのとないのでは話の信憑性が違うからね。


 最初の2週間ぐらいはほとんど毎日呼び出されて話を聞かれる日々だったけれど聞くこともなくなったのか、それとも任意の協力者を毎日呼び出して時間的に拘束することに内部から不安視する声が出たのかは知らないけれど、その後はゆったりとした夏休みを過ごしている。


 せっかくだからミーナを色々なところに連れ出して、社会科見学の真似ごとみたいなことをしている。飛行機の整備を見学したり造幣局で硬貨が作られる様子を見たり、ミーナは機械に興味が偏っているからそういう所を選んでみた。


 魔力をエネルギーにしているあちらの技術と、化石燃料を使って進化してきたこちらの技術の違いが、ミーナにとっては面白いらしい。空港では見学が終わった後に展望デッキに行ったら、4時間ぐらい飛んできたり着陸する飛行機をジッと見ているミーナを眺めて、私もすごく癒やされた一日だった。


 あと、大学の友達にもミーナを紹介した。ミーナは外見がまるで外国人の子供モデルと同じぐらいかそれ以上に可愛いので、あっという間に人気者に。取り合うように女子大生に代わる代わる抱っこされたり触られたりしているミーナを見ると、顔が真っ赤ですごく恥ずかしそうな様子だった。こういうところを見ると、やっぱりあちらの世界では男だったという話が信憑性を帯びてくるよね。いや、疑ってる訳じゃなくて信じているんだけど、普段のミーナを見ていると物腰も柔らかいし普通の女の子そのものだからたまに元男の子だという事を忘れそうになる。


 最近は一緒にお風呂に入っても、全然動じなくなってきたもんね。ミーナの順応性が高いのか、それとも人間ってある程度どんな環境にも慣れる生き物なのかもしれない。


 そんな事をミーナに言ったら、『全然慣れてもないし動じてます!』とほっぺを膨らませて抗議された。ええー、でも最近は手で両目を隠さなくなったし、ミーナの体を洗う時も全然慌てたり嫌がったりしなくなったじゃない。そう反論したら、目をぎゅっと閉じたり一生懸命違う事を考えたりして、責め苦が終わるまでやり過ごしていたんだって。というか、責め苦って……。


「サナさんの体はどこもかしこも柔らかいので、触れられるとドキドキしてつらいです」


「ミーナだってぷにぷにだよ、腕とかお腹とか触ると気持ちいいもん」


「幼い自分の体は別になんとも思わないですが、妙齢の女性の体は意識してしまいますよ。だって男なんですから」


 ミーナがほっぺを赤くしながらそう言うのを見ても、やっぱり愛らしい幼女としてしか見れないのがミーナには申し訳ない。頭ではわかってるんだよ、でもやっぱり実際に目で見た情報の方がきっと印象が強いんだと思う。いっそミーナには諦めてもらって、ミーナを幼女として接する私を受け入れてもらうしかない。もちろん、本気で嫌な事はちゃんと言ってもらったらしない事は約束しておこう。


 でもまだお風呂の使い方にも慣れてないし溺れたら危ないし、どんなに嫌がられても一緒に入るのをやめる事はできないからね。そこだけは納得してね、ミーナ。

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