28――パトカーで帰宅


 父の伝手がどこでどう繋がったのかわからないけれど、次の日には県警の偉い人と面会した。ミーナと出会ったのは地元の県ではないので、こちらでは何かを対処してもらえるという事はないのだけれど、あちらの警察に口利きしてくれるんだって。


 事情を話したら当然だけどものすごく怒られた、もう少し警察や国を信用してほしいと。確かに偉い人や連れて行ってもらった警察署での刑事さんや女性の警察官の対応は優しくて、すごく親身になってくれた。記憶喪失で心細くて私の後ろに寄り添って隠れていたミーナの儚げな雰囲気も手伝って、ひとまず無罪放免で解放されたのだった。


 数日地元の警察や児童相談所で事情聴取されて、その後は母とミーナの3人でマンションへと護送してもらった。再び新幹線に乗れると思っていたミーナはがっかりしていたけれど、高速道路を走るパトカーがかっこよかったからか、それともふかふかのシートが気持ちよかったのかはわからないけれど、機嫌よく喜んでいた。


 何度かサービスエリアでご飯を食べたり、おやつを食べたりしたのもご機嫌の理由だったのかもね。利用しているお客さん達も、何故遠くにある県警のパトカーと警察官がこんなところにいるのかと不思議そうな目を向けていたけれど、直接尋ねてきた強者はいなかった。私も逆の立場だったらジロジロ見ちゃうかもしれない、警察官の人達だけならまだしも私達が一緒にいるのがすごくミスマッチだったから余計に注目されたんだろうね。


「サナサン、ネムイ……」


「無理に起きてなくていいよ、ミーナ。次に起きたら、もしかしたらマンションに着いてるかもね」


 ミーナの頭を撫でながら言うと、まるで電池が切れたみたいに私の方に寄りかかってきて、あっという間に眠りの世界に旅立って行った。興奮して疲れちゃったのかもね、それと同時に春から夏にかけての軟禁みたいな生活がミーナにはストレスだったのかなと反省する。こうして色々な物を見て興味深そうに、そして楽しそうにしているミーナを見ると、私がもっと早く行動すべきだったのかなと思ってしまう。


 でも警察でよくしてくれた人達が『速やかに通報しなかったのはマズかったけど、あなたのおかげでこの子は今も五体満足で笑っていられるんだよ』と慰めてくれたので、私のした事がミーナの命を守った事は忘れずに誇りに思っておこう。


 お母さんが付いてきてくれたのは、私がちゃんと学業と家事の両立ができているのかと、父の代わりに偉い人と話をしたり私の保護者としての役割を果たすためだ。いくら成人年齢が18歳に引き下がったとは言え、まだまだ世間では未成年扱いされる事も多い。特にこういう子供が関わる事柄に関しては年齢は信用のバロメーターなのか、事情聴取の時に私の意見なんて参考以外には役に立たないと思っていそうな態度の人が何人かいたもんね。


 いい人もいたし私を見下していた人もいたし、元々の感情もプラスしたらやっぱり警察という組織への信用はマイナスにしかならないかな。ここまで送ってもらった事には感謝してるけどね、ただこれは護送ではあるけれど監視でもあるのだろう。ミーナが意図的に逃亡するとは考えていないだろうけれど、子供ってはぐれたり迷ったりして思っているのと全然違う場所に移動してしまう事もあるから。


 マンションの少し手前でパトカーから下ろしてもらって、眠っているミーナを母に手伝ってもらっておんぶした。この数ヵ月で少しふっくらしたからか、私の力ではミーナを抱っこするのは難しくなっていた。それでもまだ痩せ気味だと思う細さなので、王子様なのに一体どんな食生活を送っていたのだろうと不思議だったりする。


 部屋の位置を確認したかったのだろうか、警察官二人に付き添われて部屋の前まで帰ってきた。鍵を開けて中に入ると、警察官が長時間の移動で少し疲れた表情を浮かべながら私と母を見た。


「それでは、明日は午前9時に迎えに来ます。そのまま警視庁で事情聴取となりますが、ミーナちゃんがそのままこちらに帰宅を許されるかどうかは現時点で判断が付きませんので、何日か分の衣服は用意されておいた方がいいと思います」


「ミーナちゃんは娘に依存している状況ではないですか、そんな様子の幼子を引き離せば精神的に歪みがでるかもしれません。どうかこちらで一緒に暮らせるように、お二人からも進言してもらえないでしょうか?」


 警官の言葉に母が心配げに言って頭を下げたので、私もミーナを起こさないように気をつけながらペコリと小さく会釈した。言うまでもなくミーナには私から離れないようにお願いして、そういう風に印象付けてるんだけどね。もしもミーナが変な施設に軟禁されたりしたら、心配で気が変になる気がする。


 私達の行動に少し戸惑ったような彼らだったけど、最終的には『私達の方から希望は伝えてみます』と言ってくれた。都会の警察や児童相談所がどれだけ考慮してくれるかはわからないけれど、私達も必死に訴えていくしかないよね。これからもミーナと一緒に過ごすためだもん、頑張らなきゃ。

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