13――レンジの使い方とコンビニ弁当
お昼ごはんはレンジの使い方を教えるために、近所のコンビニでお弁当を買ってきた。ミーナから遠慮がちに『朝みたいな野菜が食べたいです』とお願いされたので、ふたり分ぐらいの大きさの生野菜サラダを併せて購入。ついでにミーナにあげる甘いフルーツキャンディも買った、頑張って勉強すると糖分が欲しくなるもんね。
うちのレンジは冷蔵庫の上に置いてあるので、ミーナが頑張って背伸びしても全然届かない。だから私が戸棚の上に置いたホットプレートなんかを取る時に使っている、兄が頑丈に作ってくれた踏み台を貸してあげる事にした。
もちろんトゲやささくれがないように、兄が一生懸命ヤスリを掛けてくれたので安全だ。ミーナが身軽な感じで踏み台に乗るとなんとかお弁当を落とさずに持てて、温めボタンもちゃんと押せるようになった。ブゥンと音を立てて動き始めたレンジに、ミーナがどこか落ち着かない様子で私の服を引っ張る。
「サナさん、これはどういう仕組みで中の物を温めるんですか?」
「ええと、確か電波……って言ってもわからないよね。目に見えない波がものすごい早さで震えて、温めるものに含まれる水分を震わせて熱が上がる、だったかな?」
高校の時の物理の先生が雑談好きで、授業中に聞いた朧気な話を必死に思い出しながら説明した。ただ正しいかどうかはわからないので、間違ってたら誠心誠意謝ろうっと。
それにしてもやっぱりミーナは、こういう技術的な事とか機械の事とかに興味があるんだね。女の子でもそういうのに興味がある子はいなくはないから、元男の子だったからという理由なのか、それともミーナの生来の性質なのかはよくわからないけれど。『日本語を読めるようになると、こういう機械の仕組みが書かれた本も読めるよ』と言うと、ミーナはさらにやる気を出したみたいだった。日本でのミーナの身元がうまく誤魔化せたら、図書館に連れて行ってあげたら喜びそう。それまではどういう本が読みたいかを聞いて、私が借りてきてもいいしね。
ピーピー、と温め終了の音が鳴ったので、レンジの扉を開けた。うーん、ちょっと熱いかも。このレンジはちょっと温めムラがあって、ものすごく熱いところとぬるいところができるんだよね。キッチン用のタオルをミーナに渡して、注意してレンジから出すように言った。
熱くないようにタオルをうまく使って小さな手でレンジからお弁当を出すと、ちょっとだけフラフラとしながらテーブルまで運んでいく。踏み台から降りる時が一番ハラハラしたけれど、この感じならそんなに心配しなくても大丈夫そう。
私も自分の分を温めて、飲み物と一緒にテーブルへと運ぶ。既にミーナがちょこんと床に座って、私が座るのを待っていた。プラスチック製のスプーンとフォークを両手に握っているところを見ると、結構お腹空いてたんだろうね。ふたりで声を揃えていただきますと言って、早速お昼ごはんを食べ始める。
ここで気になるのは果たしてコンビニのサラダでも、ミーナは甘くて美味しく感じるのかという事だ。早速ミーナがサラダをもしゃもしゃといつも通りに食べ始めるのを、こっそりと横目で見ながら自分のお弁当のおかずを口に運ぶ。
ぱぁっ、とミーナが笑顔になるのを見て、どうやらスーパーで買ったものと同じく美味しく感じたみたいだ。後は魔力の回復の元が野菜だったとして、同じように回復してくれるかどうかだよね。
私にはよくわからないけれど、魔力を貯めておく器みたいなものがミーナの体のどこかにあるとして、少しずつでも魔力が回復すればいつかは元の世界に帰る事もできるかもしれないし。ただ昨日の話を聞いた限りだと、多分ミーナの家族が生き残っている可能性は限りなく低いし、母国だって侵略されて別の国になっているかもしれない。本来ならそんなところに帰りたいなんて思う人は少ないのかもしれないけれど、ミーナは責任感の強い元王太子だもの。自分の国の結末を確認しなきゃと考えるかもしれない。
ミーナの話だと世界を超える魔法はないらしいし、戻る方法が存在するのかどうかも怪しいところだ。私としてはミーナには生まれ変わったと思って、新しい人生を平和なこちらの世界で過ごしてほしいなと思っている。そのための協力なら全然惜しまないし、なんなら大人になって誰かのお嫁さんになるまで側にいて手助けしてあげたって構わない。
おっと、考えが飛躍しちゃった。食事が進んでいない私の事を、ミーナが不思議そうにこちらを見ていた。
「ミーナ、このお店のご飯はおうちで作ったご飯と比べてどうかな?」
「美味しいです……けど、昨日サナさんが作ってくれたご飯の方が美味しいです。サラダは同じぐらい美味しいと思いますが、ほんの少しだけ甘みが弱いような気がします」
多分ミーナが言ったご飯は、白米の事だろうね。コンビニのご飯は炊く時に腐らせないために、油などを入れると聞いたことがある。うちで炊けば水だけだから、雑味は少ないもんね。
サラダはなんだろう、新鮮さかな。スーパーの方が出荷されてから、コンビニよりも私達の手元に届くのが早いのかもしれない。っていくら予想しても正解がわからないんだから、いくら考えても仕方ないのにね。昨日もそう思ったのに、どうしてかついつい予想みたいな事を考えちゃう。
まずは自分のできる事を考えよう。コンビニのお弁当はあんまりみたいだから、明日から私が学校へ出かける前にミーナのお昼ごはんを作って冷蔵庫に入れておいてあげようっと。大した物は作れないけれど、そっちの方が健康にもいいかもしれないしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます