11――何故か魔力が回復した?


「ん……」


 目が覚めた後、段々と世界に色が付いていくように昨日寝付く前の事を思い出す。そうだ、昨日はお風呂に入ってミーナと自分の髪を乾かしていると、ミーナが目をしょぼしょぼさせた後にウトウトとし始めたから一緒にベッドで寝たんだった。今日の朝は歯みがきの仕方を教えよう、多分まだ乳歯だろうけれど虫歯が出来たら大変だもんね。


 視線を右隣に移すと、記憶のとおりにミーナが気持ちよさそうに眠っていた。サラサラの髪の毛がミーナの肩に広がって、まるでケープみたいだ。


 本当なら言葉が通じる昨日のうちに色々と話しておこうと思ったのだけど、ミーナは病み上がりだし私もどうやら無自覚だったけど疲れていたみたいで、ぐっすり眠ってしまった。


 まぁ最初はジェスチャーでなんとか意図は伝わっていたのだから、きっと大丈夫だよね。根気よく伝えれば、きっとミーナもわかってくれるはず。


 ミーナを起こさないようにそっとベッドから下りて、足音を立てないように洗面台へ向かう。乱れた髪を梳いて、邪魔にならないように後ろでひとつに結んだ。時計を見ると朝ごはんには少し早い時間だったので、カフェオレを淹れてしばらくぼんやりする事にした。


 そう言えば昨日はみやに連絡した後、ほとんどスマホを触ってなかったね。誰かから連絡が来てないかなと確認すると兄達と父から心配のメッセージが、あとは友達からも雑談のメッセージが来ていた。友達のメッセージにも返信しなきゃだけど、まずは父と兄達に返事をしておかないと。あの人達は過保護だから、私と連絡が1日でもつかなかったら地元からすぐにでも様子を見にやってきそうだもん。


 特に今はミーナがいて話がややこしくなるから、来てもらっては困る。最終的には相談するつもりだけど、ミーナが言葉を片言でも覚えて自分の希望を言えるようになってからじゃないと、今のままじゃすぐに警察や施設に連絡されてミーナと引き離される事が目に見えているから。


 友達からは一昨日遊んでご飯を食べたことについて書かれていて、また行こうねと可愛いスタンプと共に書かれていた。返事が遅くなった事を謝って、また行こうねと私の方からもスタンプと一緒に返す。多分しばらくは学校帰りも最低限の買い物とかしかできなくて、友達と遊ぶどころか家に直帰する生活になると思うけどね。


 スマホをポチポチとしながらカフェオレを飲んで時間を潰していると、朝ごはんにちょうどいい時間になっていた。すぐに食べられるように準備を済ませて、ミーナを起こしに行こう。私のレパートリーがもっとたくさんあれば和食で日本的な朝ごはんとかもできるのだけど、残念ながら今日も昨日と代わり映えせずパンと目玉焼きとベーコンとサラダ、それと牛乳である。でも栄養バランス的にはいいと思うんだよね。ミーナは王族だったのだから、彩りとして果物とかもあった方がいいのかな? 安く売っていたら、明日の分に何か買ってこよう。


「サ、サナさん! 大変ですっ!!」


 考え事をしながら朝ごはんの用意をしていると、トテトテと足音を立ててミーナが飛び込んできた。髪には寝癖がついているし少し大きかったシャツからは白い肩が見えていて、とびきりの美少女なのに残念な格好をしている。でも本気で慌てているみたいで、何をどう話し出せばいいのかわからないみたいに、口をモゴモゴとさせていた。


「おはよう、ミーナ。どうしたの、そんなに慌てて」


「サナさんは不思議に思わないのですか!? 本当なら今日は私とサナさんは言葉が通じないはずなんです。それなのに、昨日お昼寝から目覚めた時よりも魔力の残量が回復していて……」


 ミーナの口から飛び出た言葉は、確かに彼女が慌てるに値するものだった。えっ、回復するの? 前もお昼寝した後に少しだけ増えたなら、寝る事で回復するのかも。お昼寝よりも長い時間眠ったから、多く回復したって事はないかな。そんな私の推論を披露してみたんだけど、ミーナの顔には納得よりというよりは腑に落ちないといった表情を浮かべていた。


「確かに元の世界でも、寝ることで魔力を回復する事はできたのです。けれども、それは大気に含まれている魔力を呼吸で体内に取り込んで起こると、研究者達が研究してその事実を証明したのです」


「ミーナが言うには、この世界には魔力がまったくないんだもんね。じゃあ、寝てる間にっていうのは違うんだね」


「正確に言うと大気に魔力が含まれていない、という事です。詳しくは説明していなかったですよね、ごめんなさい」


 謝罪される覚えはないから大丈夫だよ、とミーナの頭を撫でる。でもそれだったら、なんで魔力が回復したんだろうね。


 ふたりで顔を見合わせて小首を傾げるけれど、答えは見つかりそうもない。というか、魔力も魔法もないこの世界で生きている私には見当もつかないよ。


「でもね、ミーナ。とりあえず減ったんじゃなくて増えたんだから、よかったと思っておこうよ。でもこれで1日中翻訳魔法を使っていられるなら、こっちの言葉を勉強する必要はなさそうだよね。やめておく?」


 知らない国の言葉を覚えるってエネルギーがかなり必要だし、日本語は海外の人達からも難しいって言われている言語だから、勉強しなくてもわかるならいいじゃんと思って気軽に言ってみた。しかしミーナは首をふるふると横に振って、真剣な表情で私の顔を見つめる。


「いえ、できれば勉強したいです。現在の魔力の用途は翻訳魔法だけですが、外に出るようになれば身を守るために別の魔法を使う機会があるかもしれません。そのための備えとしてできる限り魔力を温存しておきたいのです」


 うーん、そんな機会はなかなか訪れないと思うんだけど、ミーナの決意に水を差すのも悪いのでこくりと頷いておこう。じゃあその為にもちゃんと朝ごはん食べて頑張ろうね、とミーナと手を繋いでテーブルへと向かった。

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