09――図書館とスーパー


 改札前でみやを見送って、買い物の前に図書館へと向かう。役所の最寄り駅で便利そうだなと家探しの時に思ってここに住もうと決めたのだけど、他にも市民センターみたいなものも一緒の区画にあった。駅の近くに図書館があると、返しやすいからついつい借りに行っちゃうんだよね。


 幼稚園児ぐらいの子が初めて字を勉強するような本がいいよね、あとはセットで絵本を借りて文字を見せながら読み聞かせてあげるのもいいかも。言葉って耳から覚えるって聞いた事があるから、ボタンを押すとその言葉の音を声で教えてくれる知育本なんかもあったらいいな。


 結局1人が借りられる制限いっぱいの5冊を借りることにした、貸出期間は1週間だけなんだけど延長するなら返しに行くついでにまた借りたらいいしね。


 続いて今日の夕ごはんと明日の朝ごはんの材料を買いにスーパーへ、学生も多く住んでる街だからなのか手頃なお値段でおいしい食材が買えるお店だ。今日の朝の感じを見ると、ミーナは野菜が好きみたいなんだよね。だからサラダと、あとは子供用のカレーとか……煮込む時間がないからまた今度にしよう。


 レトルトで申し訳ないけどハンバーグにしようかな、子供向けの甘めの味付けのものを買い物カゴに入れる。そう言えばミーナの国の主食はパンだったのか、それともご飯だったのかな。朝はパンだったから、試しにご飯を出してみよう。食べられなかった時のために食パンも買っておく、朝ごはん用にどうせ買うつもりだったからね。


 明日の朝はスクランブルエッグか目玉焼き、どちらにしても卵を使うから1パック買っておこう。ベーコンと、牛乳も残り少なかったから補充してレジへ。


 エコバックに図書館の本を入れちゃったので、もったいないけどレジ袋を買って袋詰めして家路を急ぐ。ミーナはしっかりしてるし中身は同い年の男の子だから大丈夫だと思うけど、ミーナにとってはここは知らない世界だもん。きっと不安だろうし、触ったら危険なものと大丈夫なものの区別もつかないのだから、なるべく言葉が通じる今日中に色々教えてあげないと。


 少し早足になりながらマンションに戻って、もどかしく思いながらエレベーターに乗る。自分の部屋の階に着くと早足で自分の部屋の前まで行って、ガチャガチャとカギを開けた。


「ミーナ、ただいま! ごめんね、遅くなって」


 そう言いながら部屋に入ると、ミーナはテレビにかぶりつくように前のめりで画面を見ていた。私の声にも気づかないぐらい夢中になって一体どんな番組を見ているんだろうと気になって、そっと近づいて背後からテレビの画面を覗き見る。すると普通の5歳児はあまり好まないような、芸能人が街を練り歩く番組が映し出されていた。


「……ミーナ、これ面白い?」


 耳元で尋ねると、突然聞こえてきた声に飛び上がったミーナが勢いよく私の方を見る。元々大きな目を溢れんばかりに見開いていて、なんだか可愛らしい。


「サ、サナさん!? いつお帰りになったのですか!」


「ついさっきだよー。夕ごはんの材料も買ってきたから、すぐに準備するね」


 手を洗ってキッチンに移動する。しまった、ご飯を仕掛けるのを忘れてた。ちょっと時間が掛かるけど、ご飯が炊けてからおかずの準備をした方がいいよね。そう決めた私は、さっきよりは遠慮がちにテレビを観ているミーナに近づくと、ちょこんとその隣に座った。


「この番組、ミーナにとってはどの辺が面白いの?」


「あの、私達の世界にはなかった建物や鉄の馬車などが目新しく、つい夢中になってしまいました」


 照れてほっぺを赤くしたミーナは、美少女度を増して本当にかわいい。ミーナの世界の発展度がどのくらいだったのかはわからないけれど、発展した技術や街並みを見たらびっくりするよね。


「あの、サナさん。鉄で出来た箱が蛇のように連なっている乗り物は一体何なのでしょうか?」


「あれは電車って言ってね、電気というものを動力源にして走る乗り物なの。たくさんの人を一度に速く目的地に運べるんだよ」


 『そうなのですね!』と瞳をキラキラさせながら、またテレビの画面を見つめる。そしてまた次の質問が飛んでくるのだけど、やっぱりミーナは元男の子だからなのか、乗り物とか信号とか機械で出来たものに興味があるみたい。その次に興味があるのは食べ物みたいで、昔ながらのお肉屋さんのコロッケを有名人の人が食べているのを見て、物欲しそうな表情を浮かべていた。明日買ってきてあげようかな。


 ミーナと並んで番組を最後まで観て、その後はご飯が炊けるまで私が借りてきた本を見せる事にした。この国の文字にはひらがなとカタカナと漢字がある事を説明すると、ミーナが顔を引きつらせて『サナさんの国の言葉は難解なのですね』と呟いた。とりあえずひらがなとカタカナを頑張って覚えようねと励ますと、ミーナは真剣な表情でこくりと頷いた。


 絵本の文字を指でなぞってミーナにどこを読んでいるのかを示しながら、借りてきた絵本をゆっくりとした口調で読み聞かせる。多分五十音を全然学んでいないミーナには何が書かれているのかチンプンカンプンだと思うけれど、どんな風に教えていくのかが少しでも伝わればいいな。

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