03――物資と親友の到着
電話を掛けてしばらくリビングのソファーで仮眠を取っていると、スマホのバイブが作動した。ミーナを起こさないように、ウチの近くまで来たら呼び鈴を鳴らさずに電話を掛けてきてとお願いしていたのだ。
「着いたよー、荷物多いから玄関まで迎えをお願い」
「ごめんね、買い出し頼んじゃって。玄関のカギ開けておくから、できるだけ静かに入ってきて」
電話の向こうから聞こえる『了解!』という声を聞き終えてから、通話を切った。キッチンで冷たいミネラルウォーターをコップに入れて、それを持って玄関へと向かう。
シューズボックスの上にコップを置きカギを開けて待つことしばし、そーっとドアノブが回ってゆっくりと玄関ドアが開いていく。こっそりと中を覗き込んでいる親友に、私は小さく笑いかけた。
「いやー、重かったよ。一応ウニクロに行って教えてもらった身長のキッズサイズ服をいくつか買った後に、佐奈に教わった赤松本舗に行って靴とか服とか下着とか仕入れてきた。赤松本舗って乳幼児のためのものばっかりってイメージがあったけど、意外と小学校中学年ぐらいまでのサイズが揃ってるんだね」
小声でそういう彼女にコップを差し出すと、嬉しそうに勢いよく一気飲みした。彼女は私と幼稚園の頃から高校卒業までずっと一緒に育った幼なじみ兼親友だ、もう姉妹と言ってもいいくらいだけどね。お互いの両親も仲がいいし、家族ぐるみで付き合っているし。
お互い違う大学に入学して、オリエンテーションとか色々とバタバタとしていたので会うのは1ヵ月ちょっとぶりだ。ミーナの事を信頼して話せるのも、買い出しを協力してもらうのも、彼女以外にいなかったのだ。巻き込んで申し訳ないとは思うけれど、ふたつ返事で引き受けてくれた彼女には感謝しかない。
「それで、その子はどこに?」
「私のベッド、さっき電話でも寝てるって話したでしょ。様子見で何度か覗きに行ってるけど、眠りが深いみたいだから多分しばらくは起きないと思う……顔、見る?」
「できればお願い。佐奈の事は信用してるけど、実際にその子を見た方が対応策も出てきやすくなるかもしれないし」
そう言って親友――
ミーナを起こさないように念には念を入れて、足音を立てないようにそっと廊下を進んで、先に買ってきてもらった荷物をリビングへと持っていく。適当に床に置いておいて、寝室へと向かった。
「本当に金髪なんだね、それに肌も白いしすごく可愛いし……これは厄介ごとの匂いがプンプンするわ」
「みや、言い過ぎ。確かにお姫様みたいな子が薄汚れた状態でゴミ置き場に倒れてたら厄介事の予感しかないけど、放っておけなかったんだもの」
ミーナに責任はないと思う。どういう経緯であの状態で倒れていたのかはわからないけれど、彼女自身がそれを望んだとは思えない。それなのにあの子自身が疫病神みたいな、そういう言い方は受け入れられない。
もちろんみやもそんなつもりで言ったんじゃないのはわかっているけれど、なんとなくイライラとして不貞腐れたような声音で言ってしまった。
穏やかな寝息をたてているミーナの顔を覗き込んでから、みやとふたりでリビングへと移動する。みやが買ってきてくれたミーナ用の衣料品や生活用品なんかを、店名が印刷されたビニール袋から出しながら確認していく。
「あ、それかわいいでしょ。部屋着やパジャマだけじゃなくて、外出着もあった方がいいと思って買ってきたんだ」
「ちょっと、いやかなりフリル多めじゃない? それに服の上にこぼしたりして汚したら、シミになって落ちなさそう」
フリフリした黄色がベースのシフォンワンピースを広げながら返事をした私に、みやは小さくため息をついた。昔からみやはお洒落さんで私は実用性とか価格とかそっち重視だったから、ファッションの部分ではチグハグで噛み合わなかったりするんだよね。
パジャマ代わりのスウェットとか靴下とか、アニメキャラがバーンとバックプリントされているパンツとか、必要なものは一通り揃っていた。子供用歯ブラシや甘い歯磨き粉、100円ショップで買い揃えてきてくれたプラスチック製の食器やマグカップなんかも入っている。
「パンツは多分サイズは合うと思うんだけど、さっき見た感じだともしかしたらちょっと大きいかもね。ちなみに今は何を履かせてるの?」
「ひとり暮らしの成り立て女子大生の家に、ミーナのサイズに会う下着がある訳ないでしょ。もちろん何にも履かせてない」
「佐奈、それは女子としてどうなのよ」
げんなりとした声色で言うみやの言葉を聞き流して、パンツの大きさを確認する。もし大きかったら少しキツめのゴムに入れ替えればいいんだし、それくらいなら私だってできる。
買ってきてくれた食料とミーナ用のオレンジジュースかな、これは冷蔵庫にしまって。食器から値札シールを剥がして、軽く洗剤をつけて洗う。ついでに朝食の食器もそのまま流しに置いたままだったので、そっちも洗っておいた。
「みや、買い物のお金いくらだった? できればレシートをもらえると助かるんだけど」
「ああ、おばさんに家計簿を提出するんだっけ。でも子供服とか思いっきり書かれてるけど、なんて説明するの?」
みやの問いに答えずに、差し出されたレシートや領収書を受け取って暗算で合計額を計算して、手間賃も含めて少し多めに渡す事にする。とは言っても、お釣り分ぐらいだけどね。
みやの問いに何も答えない私に、さらに言葉を重ねようとみやが一歩こちらに踏み込んできたその時、カタンと物音がした。私とみやが揃ってそちらへと顔を向けると、そこには先程までぐっすりと眠っていたミーナが少し怯えた表情を浮かべて立っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます