第32話 テンプレ的に、取り調べを受ける俺つー。

 「じゃあ、まず盗賊退治の件から行こうか。トンプソン副長、シンジ殿が来た時の状況から、再度説明してくれ」


 「はッ! まず、我々が馬車ごと盗賊30名に囲まれて、何人かの兵士がケガをして、追い詰められたところで空からシンジ殿が舞い降りてきました」


 アンリが肯いた。


 「そう、そこは聞いている。空からというのが信じられなかったが、先ほどシンジ殿の飛行魔術を見たからね」


 そう言って肩をすくめるポーズ。イケメンがやると、妙に様になる。ちくせう。


 「シンジさんが加勢が必要か聞いてきたので、そのままお願いすると、氷の矢が出る魔剣で盗賊たちの足を貫き、一気に倒しました」


 異論がなかったので、シンジはうんうんと肯いた。


 「そのまま、こちらの無事を確認すると、最後に『あーばよーとっつぁーんッ!』と言い残して飛んで去って行かれました。あの最後の言葉はどんな意味だったのか、聞きたいと思っていました」


 (いやギャグを解説させるとか、それどんなイジメッ!?)


 シンジはその問いに頭を抱えた。が、こういう追及を躱すための最高の言葉を思い出した。


 「……そういう仕様です」


 だがそれは、お前はどこのソフトメーカーだ、と突っ込まれそうなセリフであった。


 「まあ、それは良いとして、盗賊はどうなったんですか?」


 シンジは全力で誤魔化して話題転換する。


 「まず姫を無事にお戻しすることが肝要だったため、盗賊たちは縛り上げて放置しました。その後、戻ってみると、27人が死体になっていて、3人の行方が分からなくなっていました」


 「ほむ、それは、足の傷がもとで?」


 「いえ、縛られたまま、喉を切り裂かれていました。恐らく、逃亡したと思われる3人の仕業でしょう」


 シンジの問いに、トンプソンが無念そうに答える。恐らく背後関係を探れなかったのが引っ掛かっているのだろう。


 「どう考えても不穏だよね……って、それ俺が聞いちゃって良かったの?」


 「まあ、当事者だからね。下手に興味を持たれるより、事実を知って口止めした方が良い」


 アンリがあっけらかんと言ってのけた。


 「なるほど。サー・アンリ、私は口を噤んでおきます」


 シンジが恭しく頭を下げた。


 「次に、ノアの件ですが」


 「誠に申し訳ございませんッ!!」


 アンリのセリフを食うように、ガバッとシンジが土下座する。


 「ああ、いえ、シンジ殿の責任とかではなく、どうして急にあのように覇王のような馬になったのかを知りたくてですね」


 アンリが困ってシンジを抱えるように椅子に座らせた。


 「ホント? 怒ってない?」


 「お、怒ってませんよ。もちろんノアはアイリスの相棒として、元々優れた馬でした。ただ、急に種族まで変わってしまったのが不可解で……」


 シンジが顔を上げる。


 「え? 種族?」


 「そうです。普通のホースだったのに、戻ってきたら魔術が使えるマジックホースになっていまして」


 どうやらノアは、馬から魔物にジョブチェンジを果たしていたらしい。シンジのせいで。


 (そうか、驚きすぎて鑑定してなかったな。そう言えば)


 シンジのうっかりミスである。まあ、あの状況であれば無理もない。


 「じゃあ、ノアは退治されちゃうんですか?」


 せっかく助けたのに、それは非常に忍びない。


 「いえいえ、アイリスの騎馬として、これからも活躍してもらいますよ。というか、貴重なマジックホースですから」


 この国にも数頭しかいない貴重な馬の魔物だそうだ。


 「それって、貴族のお偉いさんに取り上げられません?」


 「いえいえ、マジックホースは力づくでは懐かない生き物ですので」


 マジックホースは、主と決めた者にしか従わないらしい。どういう進化条件なのか分かっていないので、野生のマジックホースを捕まえるしかないのだが、足が速いうえに持久力もあり、頭が良くて魔術も使え、大概は野生馬のリーダーとして君臨しているため、捕らえることはほぼ出来ないようだ。


 「じゃあ、今いるマジックホースは?」


 「昔、運よく捕らえたマジックホースが懐いて、繁殖に成功したと聞いています。が、数代経つと普通のホースになってしまうようでして」


 そこで、アンリがずいっとシンジに顔を寄せた。


 「シンジ殿が、ノアをマジックホースにした秘術。これが分かれば、マジックホースを人工的に作り出せるかもしれません。これは、騎士隊にとって非常に重要なのです」


 確かに、ノアみたいなUMAが何頭もいれば、純軍事的にも非常に大きなアドバンテージになるだろう。


 それにしても、イケメンの圧が凄い。


 「いや、私は単に、ケガをしていたノアさんに回復魔術を掛けただけですよ?」


 「……本当にそれだけですか?」


 「いや、あの、ちょーっと過剰に掛けちゃったかなーって。アハハ」


 これもシンジのうっかりミスである。ただ、そのミスがここに繋がるとは、誰も予想出来ないだろうが。


 「いや、そうか。もしかしたら、その過剰な回復魔術が、ケガを治しただけではなく、逆流して体内に魔石を作り、それで進化したのかも……?」


 アンリがそれを聞いて、何やら考察を始めた。


 「魔素だまりに馬を置いても変化はなかったという研究結果を見た記憶がある。だから、魔素だまりは関係ないと結論されていたが、もしケガをしたホースが、それを癒すために魔素だまりに近づいたら……ブツブツ……今回のシンジ殿の行動と一致が……ブツブツ……」


 「ちょ、ちょっとアイリスさん? お兄さんがいきなり茹だってるけどッ!?」


 「あー、……兄は、馬の事になると急にその、周りが見えなくなりまして……」


 「イケメンがまさかの馬マニアッ!?」


 「いやまさか実験のために馬を傷つけるなど出来ぬ……ブツブツ……いやしかし……ブツブツ……」


 シンジとアイリスは、揃って頭を抱えた。

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