第33話 テンプレ的に、取り調べを受ける俺ぶいすりゃあ。

 「えー、大変失礼いたしました。どうも私、馬の事になると」


 照れて頬をちょっと赤らめ、後ろ手に頭を掻くアンリ。そんなてれりとした感じであっても、サマになるのがイケメン。ちくせう。


 「では、魔物暴走スタンピードの詳細をお聞きしたいと思います」


 「兄上、ちょっとお待ちください」


 そこで、アイリスさんがアンリさんを止め、耳元でコショコショと何かを話す。


 「そうか……ではトンプソン、盗賊の件は終わったので、職務に復帰してくれ。メージャーもだ。私はもう少し聞き取りをしてから戻る」


 「はッ!」


 ふたりの騎士が、右拳を胸に当てて敬礼し、そのまま部屋を出ていく。


 「シンジさん。お約束通り、兄上だけに話せる状況を作りましたッ!」


 まるで、褒めて褒めて、と強請る子犬のような目の輝きをしているアイリス。思わず頭を撫でたくなったが、我慢我慢。


 「うん、アイリスさんありがとーね」


 じゃあ、ここからは本題だ。


 「まず、どんな状況だったか教えてください」 


 「はい、私がオークに囲まれて、間一髪のところをシンジさんが空から現れて、まず助けてくれました」


 アイリスの話の導入部分で、アンリは目を見開いた。


 「やっぱり空からだったんだな。シンジ殿、それは盗賊を退治してすぐの事ですか?」


 「そうですね、空に上がって、しばらくしたらオークの群れを見つけたので、様子を見たらアイリスさんが囲まれていましたね」


 そこでチラリとアイリスさんを見た。


 (さすがにノーパンたてすじだった件は言えんなぁ……兄に殺されそうだ)


 シンジのその視線から察したようで、アイリスの耳が赤くなった。


 「そこでいったん別れたのですが、すぐにシンジさんが戻ってきて、オークの魔物暴走スタンピードを見たと通報がありました」


 「まあ、空を飛んでいたので、たまたま見かけたんですけどね」


 嘘である。だが、本当のことは言えない。まさか新世紀あんのモードでお知らせがあったとか、痛い人としか思われないだろう。幼女のせいだし。


 そこで剣を折られながらもその場のオークを退治して合流し、負傷したノアを見つけて治療した話になると、アンリが身を乗り出した。


 「そこをもうちょっと詳しく」


 「……兄上?」


 「あ、いや、失礼。で、その後は?」


 アンリが咳払いで誤魔化し、話を促してきた。


 「まず、魔の森から一番近いラックブック村に言って、魔物暴走スタンピードの狼煙を上げようという話になり、ノアに乗ってとにかく急ぎました」


 「なるほど、マジックホースになったノアだったから、2人乗りでも早く到着できたという事か」


 うんうんと満足そうに肯くアンリ。まだマニアッ気が抜けていない。


 「サー・アンリ、そこでアイリスさんが、オークを1匹でも多く倒そうと(言い出したので)、(俺の方で)作戦を練ることにしたのです?」


 再び嘘八百である。いや、嘘ではない。正確には言葉を抜いたのだ。さすがにちょっと良心が咎めたので、最後が疑問形臭くなったが。


 「アイリス、君また無茶を言ったな?」


 「う……申し訳ありません」 


 「……シンジ殿に感謝するんだな。で、剣はその時に?」


 「そうですね、その時丸腰では不可能なので、剣を譲りました」


 「あ、いやお借りしたのですが」


 「代金は後で貰いますから。それで、真正面から行くことは(大規模魔術じゃないと)無理なので、土魔術で壁を造って、そこで身を隠しながら雑魚オークの数を地道に減らしたんです」


 シンジはアイリスのチャチャをサラッと右へ受け流し、雑魚減らし作戦を語るシンジ。


 「待ってくださいシンジさん。兄上、実はその前に、壁の上からオークメイジとオークアーチャーの部隊をシンジさんが魔剣で殲滅したんですッ! すごかったですッ!」


 「いやちょっと待てアイリス。魔剣でどうやって飛び道具の部隊を倒したんだい?」


 「え? 魔剣から氷の矢を大量に出して、飛ばして一気に急所を」


 「それ、普通魔剣には出来ないからね。魔剣は飛び道具じゃないんだよ?」


 「サー・アンリ、魔剣に詳しいですね?」


 シンジが突っ込むと、アンリはまたてれりと笑った。


 「いや、馬の次に好きなんですよ。魔剣」


 「まさかの魔剣までマニアッ!? サー・アンリ、恐ろしい子……!」


 シンジが白目をむいた。当然こめかみに縦線を浮かべつつ。




 ◇




 「まあ、大体わかりました。アイリスが急に強くなったように見えたのは、オーク数百匹とオークロードを屠ったからなんですね」


 アンリが感心したような顔で聞いてきた。


 「おや、サー・アンリ、お分かりになりますか」


 「ええ、さすがに数日会わないだけで、これだけ魔力を感じられるようになれば、ねえ」


 シンジの問いに、アンリは苦笑しながら答えた。


 「え? 自分ではそんなに感じないんですけど?」


 「それは、自分では分からないさ。ただ、今のアイリスなら騎士隊でも5本の指に入るんじゃないかな。実力的には」


 「ええッ!?」


 魔力が増えれば、当然体力強化もより強くなる。つまり、スピードもパワーも上がっているという事だ。ならば、騎士隊の中でも上位になるのは当然だろう。


 国同士の戦いなどしている環境ではないのだ。だから普通の騎士は、領地に出没する魔物を倒すのがメインの仕事になる。


 それでも、ひとりが一度に数百体の魔物を倒すようなことは起こらないし、あったとしても騎士が持たないで倒されるのがオチだ。


 今回はシンジがいて、壁があって、知能が足りない雑魚オークが多めだったから可能だったのだ。


 「アイリスが言う通り、確かにシンジ殿の活躍は際立っていますね。本来なら、爵位が申請できるほどの功績です」


 アンリもそう思うらしい。


 「ですが、ご本人がまだ貴族にはなりたくないというご意向もありますし、アイリスが救われた恩義もあります。ここは、シンジ殿の意思に沿うようにします」


 「感謝します」


 シンジは深く一礼する。


 「ただ、私個人としては残念ですね。同僚として騎士になっていただきたかったのですが」


 「まあ、冒険者として慣れて、さらに次の機会がありましたら、という事で」


 シンジも肩をすくめて答えた。


 正直シンジとしても、イケメンであってもアンリのようなタイプは面白いので好きである。


 (いや、薔薇じゃないからね? そっちのテンプレは要らないからッ! 勘違いするなよ幼女ッ!! フリじゃねーからなッ!!?)


 シンジとしては、薔薇より百合の方が好物である。


 (あらアイリス、鞘が汚れていてよ? とか言われるの見てみたいよね?)


 などと、どーでもいい感じで、取り調べは終わるのだった。

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