第30話 テンプレ的に、いろいろバレて連行される俺。

 「いや、その飛んだ感じで思い出しましたッ! 間違いなくこの人でしたッ!!」


 おまわりさんコイツです、という感じだろうか。シンジは内心冷や汗をかいていた。


 「シンジ殿、本当だろうか?」


 アンリがじっと見つめてくる。イケメンの視線が強烈過ぎて痛い。


 「そ、そんなに見つめないで。はかしいわ」


 くねくねしてみるシンジ。残念、イケメンには効かない!


 「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!? 姫様が盗賊に襲われたってッ!!?」


 アイリスが慌てて口を挟んだ。


 「そ、そうだ。俺を入れて2人の騎士と6人の兵で守っていたのだが、30人の盗賊が狙ったように襲って来たんだ」


 トンプソンと呼ばれた騎士が、それに答えた。


 「姫様は無事だったんですか!?」


 「ああ、そうか、アイリスはその事を知らなかったか。もちろん無事だ。安心していい」


 「メージャー副長……」


 もうひとりの騎士は、メージャーというらしい。


 「私が急に倒れなければ、君を森に行かせるようなことはしなかったのだが。誠に済まぬ」


 メージャーはそう言ってアイリスに頭を下げた。


 「選りによって兄上が不在の時に、姫が急に外出したら、そのタイミングで襲われたなんて……」


 「いや、今はそれは良い」


 アンリイケメンが話を止めた。シンジとしては、そのまま話が流れてほしかったのだが。


 「で、シンジ殿、貴殿が姫の危難を救ったんですね?」


 「……ハイ」


 シンジも観念したのか、素直に返事をした。


 それを聞いたアンリが、シンジの両手を取って、自分の額に押し付けるけるように頭を下げた。


 「シンジ殿ッ! 本当に、本当にありがとうッ!! 姫が無事だったのは、貴方のおかげだッ!!」」 


 確かに、あの場でシンジが加勢しなければ、騎士はすべて殺され、姫は……であっただろう。


 その意味では、騎士総隊長の感謝もわからないでもない。だが、これはちょっと感謝しすぎだろう。


 「あー、うん、まあ、たまたま出くわしただけなので、そう気を遣わずとも」


 そう言ってみたが、アンリはピクリとも動かない。困ってアイリスを見たが、アイリスも驚き顔で固まっていた。


 「ダメだこりゃ」


 どこかの漂流者バンドのリーダーみたいなセリフを吐いて、シンジはため息をついた。


 「ともかく、感謝の念は受け取ります。騎士隊長ともあろう方が、この姿勢はいただけません。まずはお立ち下さい」


 シンジは、無理やりアンリを立たせる。アンリも抵抗せず立ち上がった。


 「何か望みはありますか? もちろん、盗賊の件も魔物暴走スタンピードの件も、褒章は出ると思いますが」


 シンジはちょっと考えた。今の段階で貴族に取り込まれてしまうと、身動きが取れなくなりそうだという考えは変わらない。だが、普通の事では納得しないだろう。


 「今の俺は一般人ですから、まずは街に入る許可と冒険者ギルドに登録しておきたいですね」


 「街へ入る許可は問題ありません。我々と一緒に入るのだから。冒険者ギルドへは、アイリス、一緒に行きなさい」


 「承知」


 あっさりと入街許可が出た。まあ、伯爵の姫を助け、魔物暴走スタンピードを防いだ立役者だ。そのくらいの役得はあっても良いだろう。


 「ですがシンジ殿、街へ着いたら、まずは騎士隊の本部で事情聴取です」


 それはそうだろう。重要な事件ふたつに絡んでしまっているのだから。




 ◇




 馬を走らせること数時間。途中休憩も挟み、ついに街の城壁が見えてきた。街は、城塞都市だった。


 「あれが、チェスター伯爵領の領都、チェスタニアです」


 領主の名字がそのまま街の名前になっているようだ。


 壁が高い。石造りの城壁は、見た感じで高さ6mほどもありそうだ。城壁の作りとしては、中世後期の欧州型という感じだろうか。白っぽい石で出来た壁は、非常に威圧感がある。シンジが村でちょちょいと作った土壁とは比べ物にならない。


 そのまま巨大な門に近づいていく。正面の正門は閉じられているが、向かって右脇の中門は開かれていて、馬車の列が出来ている。恐らく、ここで入場審査を受けているのだろう。


 左脇の門から出ていく馬車も見える。こちらは出口専用のようだ。出入口を分けることで入街審査をしやすくし、混雑を緩和しているのだろう。


 右門に並んでいる馬車や荷物を持った人が、こちらを見てざわめきだした。


 先頭を騎乗のままトンプソンが進み、右をアンリ、左をメージャーが進む。シンジたちは最後尾だ。ちょうどひし形の形で4匹が進む。が、ノアが巨体過ぎて、人目を引いてしまっているのだ。


 アンリを指差す女たちもいるが、その他の者たちは、ノアを見て目を見開いている。無理もあるまい。


 「開門ッ!」


 正門の前に立つと、トンプソンが声を張り上げた。大門が少しずつ開いていく。4頭は止まって開きゆく門を見つめた。


 「アイリスさんアイリスさん」


 シンジが、前に乗るアイリスに声を掛けた。


 「どうしました?」


 「俺、騎士隊長たちと一緒に正門から入って良いんですかねえ。一般人なのに」


 小心者のシンジとしては、ノアから降りて脇門で並んだ方が良いのでは、と思ってしまう。


 「いや、それは私たちが困りますので」


 もし、シンジがこの場で脇門に並んだら、通り抜けるまでアンリたちを待たせることになってしまうので、返って迷惑である。第一、身分証を持たないシンジが脇門に並んでも、街に入ることが出来ないのだ。


 「あ、そりゃそーだ。愚問でした」


 そんなやり取りをしている間に、正門が半分以上開いた。4頭の馬は、しずしずと門を潜る。


 「……なんか俺、タイーホされて連行されている気分」


 傍目には、項垂れて巨体の馬に、しかも騎士の後ろに繋がるように乗せられたシンジの姿は、間違いなくそう見えた。


 「ど〇ど〇どー〇ーどー〇ー……」


 「……何ですかその売られそうな悲しい旋律は」


 「今の俺の気持ち」


 シンジの気分に関係なく、4頭の馬は騎士隊詰め所まで静かに進むのであった。

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