第29話 テンプレ的に、未確認飛行物体扱いされる俺。
「……すまん、全く理解できない」
兄騎士が左手を顔に当て、フルフルと横に首を振る。豪奢な金髪が横に揺れて、太陽の光を反射させ、鈍色の鎧の肩に光の粉を散らしたように反射する。
こんなポーズでも映えるのか。これだからイケメンは、とシンジは内心で毒づく。
こうしていても
「アイリスさん」
「うひゃいッ!?」
肩をぴくっとさせて、ちょっとユカイな声を上げるアイリス。ちょっと面白カワイかったが、気にせずシンジは話を続ける。
「このままだと話が進まないから、ロードの首を見せたら?」
「あ、そうですね」
アイリスは、マジックバッグからロードの首を取り出し、兄騎士たちに見せた。
「これがそのロードの首です」
「は?」
「いやですから、これが
「……は?」
いや天丼ネタは2回で十分だから、とシンジは思った。
◇
兄騎士たちがフリーズしてしまったので、シンジは、一旦この場で休憩を取ることにした。シンジがお約束の喫茶セットを出した。
「ほら、アイリスさんも困ってないで、こちらに来て座ったら?」
「あ、はい」
アイリスが、呼び掛けても反応しない騎士たちに困ってオロオロしていたので、椅子に座らせて紅茶をふるまう。
地面には、オークロードの首とオークビショップの首、そしてナイトの首が数十個並んでいた。貴族風の喫茶セットで、紅茶をたしなむ美女。……の隣に並ぶ生首。
傍から見たら、完全に猟奇的な光景だ。
アイリスはほう、と息を付いてお茶を楽しみ、その隣ではノアが角砂糖をほむほむする。
でも隣には荒野を奔る
実にシュールである。アイリスも順調に染まっているようだ。
この、あまりな光景に、騎士たちは再起動を果たしたようだ。
「あの……アイリス? これは一体、何かな……?」
「いやですから」
「はいアイリスさんストップ。4回目はさすがに許されません」
「え? え?」
いい加減に話が進まないため、シンジはイヤだったがしゃしゃり出るしかなかった。
「アイリスさん、まずはこちらの方々を紹介してくれないかな?」
シンジの言葉に、アイリスはハッとしたようで、椅子から立ち上がり紹介を始めた。
「あ、え、あッ! シンジさん、このお三方は、騎士隊で私の上司になります。左がトンプソン第一副隊長、右がモーガン第二副隊長、そして真中が騎士隊総隊長のランチェスト騎士爵です」
「さっき、『兄上』って言ってたよね?」
「ランチェスト騎士爵は、私の実の兄でもあります」
そこで、兄騎士が口を挟んできた。
「騎士アイリス、この方は?」
「はッ! こちらはシンジ殿と言って、オークに襲われた私を救い、またラックブック村を
アイリスさんが、胸に右拳を当て、直立不動の形になり報告した。どうやら、先ほどの呼びかけが騎士名だったのは、総隊長としての下問に当たるようだ。
それにしても、あの村に名前があったのかとシンジは少し驚いたが、すぐ兄騎士に意識を戻す。
「なるほど、シンジ殿と申されますか。この度はご協力に深く感謝いたします」
兄騎士が、アイリスと同様に胸に右拳を当て、こちらに礼を取ってきた。どうもこの形が、この国の騎士礼らしい。
「いえ、ご丁寧に。ランチェスト総隊長とお呼びしても?」
「ああ、アイリスの恩人ですし、公式の場ではありませんから、アンリで結構ですよ」
どうやら兄騎士の名は、アンリ=ランチェストと言うらしい。やたらとキラキラしている。このルックスで、騎士爵位があり、騎士隊の総隊長か。女子の夢を体現したような人物である。
「では、サー・アンリ、こちらが
シンジは、ずらっと並んだ首を指差した。
兄騎士アンリは、置かれている首から、ロードの物を掴み上げ、まじまじと見る。
「うーん、間違いなくオークロードだな。これは凄まじい……」
どうやら首の切り口を見ているようだ。
「これはシンジ殿が?」
「いやいや、これはアイリスさんですよー。逃げようとするオークロードを、後ろからひと突きにしてずんばらり♪」
「あ、いや、それはッ! シンジさんがロードを転ばせたので、刺すことが出来たのですッ!」
今度はシンジに遮らせず、アイリスは一気に話した。
「しかし騎士アイリス、君の剣ではここまで奇麗な切り口にはならないと思うが」
「はい、私の剣はオークに襲われた際に折られてしまいました。その時シンジ殿に助けられ、剣を借りたのです」
「なるほど、その腰の剣がそうなのだな? シンジ殿、その剣を見せてもらっても構わないだろうか?」
「もうそれはアイリスさんに売ったんで、アイリスさんが良いならそれで良いですよ」
アンリはアイリスをじっと見た。アイリスは何も言わず、腰の剣を鞘ごと抜いてアンリに手渡す。アンリは、鞘と柄に手を掛けて、ゆっくりと抜いた。
「おお」
アンリが感嘆の声を漏らす。そのまま、剣に魔力を流した。剣は反応し、アイリスの時のように、刀身を淡く青白く光らせた。
「魔剣だね。切れ味向上かな。かなり頑丈だし業物だね。なるほど、これならあの首の切り口もうなずける」
(一目で見抜いたみたいだね。大した眼力だし、魔剣の扱いにも慣れていそうだ)
シンジがアンリを心の中で評していると、アンリはアイリスに振り返り、ちょっと咎めるように言った。
「騎士アイリス、シンジ殿はこの剣を売ったと言っていたが、私が見たところこれは金貨300枚は下らない剣だ。そんな金は所持していなかった筈だが?」
「サー・アンリ、そんな高額ではないですよ。中古品ですし」
金貨300枚とか、日本円なら3億円を超える。白バイ警官にでも扮装しないと手が届かない金額だ。そんなに貰うわけにはいかない。
「魔剣に中古品も新品も無いでしょう。新しい魔剣とか、ドワーフの名人でもなければ鍛えられません」
ああ、アイリスが言っていたのはそういう事か、とシンジはやっと理解した。新品がほとんど出回らないのなら、中古相場が作られるわけがない。
(いや、普通に作れちゃうし、数百本あるんだけどね、ここに)
たぶん、ちゅうとりあるでなくても素材さえあれば、このレベルの魔剣だったら作ることは可能だろう。氷の剣レベルだと、今のシンジではちょっと難しいかもしれない。
「まあ、俺としては差し上げたつもりなんですけどね。剣も使ってもらった方が嬉しいでしょうし」
「そうですか。では、それを結納品として、アイリスを娶りますか?」
イケメンがにかッと笑って言い放った。
「え……? えッ!? あッ! 兄上ッ!!?」
アイリスが一瞬きょとんとし、だんだん顔を赤くしていく。最後には顔を真っ赤にして怒った。
「あはは、アイリス冗談だ冗談。シンジ殿、この件はまた後程。とにかく、街へ戻りましょう」
最後は兄としての冗談のようだ。なかなか食えない御仁のようである。イケメンのくせに。
アイリスは顔を真っ赤に染めてぷりぷり怒りながら、ノアの鐙に手を掛けてスタっと乗る。シンジもふわりと浮いて、アイリスの後ろに収まった。
「あああぁぁーッ!!!」
突然、騎士のひとりが大声を上げて、シンジを指差した。
「なんだ、どうしたんだトンプソン副長ッ!?」
この声にはアンリも、他の騎士も驚いたようだ。
「こ、こ、こ、この人だッ! 空飛んで逃げた未確認冒険者ッ!!」
「何ィッ!? あの、姫を襲った盗賊を退治したという冒険者かッ!?」
アンリが驚いて問い返した。
「え? あの時の護衛の騎士さん?」
シンジも突然指差されて驚く。
どうやら、
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